「ギスギスしていたけど勝っていた」落合博満監督が築いたドラゴンズ黄金期の裏側を番記者が語った

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 我が道をゆく姿は「オレ流」と呼ばれ、時には「変人」扱いされることもあった落合博満氏の素顔とはどんなものだったのだろうか。そんな落合博満という一人の野球人にスポットを当て話題になっている『嫌われた監督』著者、鈴木忠平氏にSPA!はロングインタビューを敢行した。

 前編では、落合氏とのやり取りから垣間見えた意外な素顔を中心に語ってもらった。後編では当時のチームの内情からGM落合博満、そして次期中日ドラゴンズ監督として招聘されている立浪和義氏についても話を聞いた。

◆「チームバッティングはするな」がチームのためになる

 一見するとベテランへの冷遇とも取れる交代も、適材適所を突き詰めた采配だったわけですね。

鈴木「個人を大切にするというか。川崎さんやマサさん(※山本昌)もそうで、マサさんが200勝に王手をかけてた時に、たまたま落合さんとタクシーで横浜スタジアムで向かっていたんです。その時に『お前、マサの200勝は1面なんだろうな』と訊かれまして。

 でもそれって自分はデスクでもないし、わかりませんと答えたら、『個人の積み重ねの記録を1面にしないとメディアはだめだ。そうでなきゃお前らにしゃべんないよ』と。それ僕に言われてもなぁって(笑)。

 和田さんの章で書いたのですが、和田さんに『チームバッティングするな』って言ったんですよ。利己の究極的な追求が最終的に集団の利益になるってことを落合さんは考えていたのかもしれませんね」

◆勝っているのにギスギスしたチーム

 鈴木さんから見て、当時のドラゴンズはどんなチームだったんでしょうか。

鈴木「落合さんのことを好きだとか、嫌いだとか、そういうことで繫がっているチームではなかったですね。

 星野さんで強かったときにはファミリー的な強さだったと思うんですけど、落合さんの頃のチーム内はギスギスしてたけど勝っていた。それが不思議なところです」

 人気はあるけど仲の悪いお笑いコンビみたいな……。まるでビジネスパートナーみたいな関係ですね。

鈴木「こういう強さもあるんだなぁって思ってましたね。中日は球団として地方球団でファミリー的なのが基本だったのですが、落合さんは『こういう強さもある』っていうことを持ち込んだんです」

 日本的じゃない……みたいな感覚でしょうか。

鈴木「そうですね。仕事として確信的にやっていたようにも感じます。オフシーズンに番記者と接するときは野球と関係ない話、映画の話を饒舌にされることもある。

 決して無口なわけではない。確信的に口を閉ざしていたし、仕事のためにああしてたのかなと。だから(タイロンウッズのホームランで)泣いちゃうときもあったと思う」

◆ファースト落合は監督落合でもあった

 評論家活動をしていた落合氏は、監督をやるまでコーチなど指導者としての実績はありませんでした。そんな人物を監督にさせたことは、当時の中日にとって大英断だったようにも思えます。

鈴木「当時のオーナーである白井(文吾)さんが、落合さんのどこを見てそういう決断をしたのかは興味深いですね。

 ある野球界のOBの方に言わせると『ファーストを始めたあたりから“監督っぽかった”と言うんですよ。試合中によくマウンドに行って、投手に声かけていたらしいんですけど、その時に言うことが監督のようだったと。

 この展開でこの点差で打者誰々だろ、こうすればいいんじゃないかって言って一塁に戻る。一緒にプレイした人たちの中には『後から考えると落合が言ってたことは当たってた』と言う人が何人かいました。

 選手としてだけじゃなく、落合さんはずっと野球というものを俯瞰して見ていたんだろうなって思いますね」

◆GM落合博満はなぜ失敗したのか

 そんな落合氏も監督としては輝かしい成功を収めましたが、GM職として中日に戻ってからは成功したとは思えない成績です。

鈴木「個人的には、落合さんの職人的なところに面白みを感じていました。結局GMって経営者的な立場じゃないですか。もちろん落合さんも監督としてそういう能力は示されていたと思うんですけど、私は、GMという立場ではなく、より野球というゲームに近い立場のほうが絶対的に面白いのになあと感じていました」

 ファンは現場で采配を振るう職人気質の落合博満に惚れたのかも知れませんね。それゆえに落合監督待望論は今でも根強くあります。

鈴木「こういう本は、どうしても今の中日との比較と受け止められてしまいます。それは自然だと思いますが、そうなると落合さんの面白さが半減するような気がしています。

 落合さんも自分が正解だと思ってない。今が正解だ不正解だとかじゃなくて、こういうやり方があるんだっていうふうに楽しんだほうが、より面白いんじゃないかと思う」

◆ミスタードラゴンズ、立浪和義はどんな采配を……

 来季から中日ドラゴンズはミスタードラゴンズこと、立浪和義氏が監督として采配を取ります。

鈴木「立浪さんは星野さん、落合さんという両極端な2人の指揮官を間近で見てきた希有な存在です。この両極端な2人から受けた影響をご自身が監督業にどう生かされるのかなというところは興味があります」

 立浪和義氏の監督就任で盛り上がるドラゴンズは、これからどう変わっていくのだろうか。ドラゴンズには落合野球を知る現役選手も少なくなっていく中で、星野・落合という両極端な指揮官の元で野球を経験した立浪氏の手腕には、注目が集まる。

 そしてまた、一線を退いた落合氏もこれからどう野球に関わっていくのか……それもまた興味が集まるところである。

取材・文/長谷川大祐

【長谷川大祐】
日刊SPA!編集。SPA!本誌では谷繁元信氏が中日ドラゴンズ監督時代に連載した『俺の職場に天才はいらない』、サッカー小野伸二氏の連載『小野伸二40歳「好きなことで生きてきた~信念のつくり方~』、大谷翔平選手初の書籍となった『大谷翔平二刀流 その軌跡と挑戦』など数多くのスポーツ選手の取材や記事を担当。他にもグルメ、公営競技の記事を取材、担当している

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  • 11/6 15:53
  • 日刊SPA!

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