借金500万円男。パチンコの景品を冷やして飲む「贅沢なひととき」を過ごす

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ギャンブル狂で無職。なのに、借金総額は500万円以上。
それでも働きたくない。働かずに得たカネで、借金を全部返したい……。

「マニラのカジノで破滅」したnoteが人気を博したTwitter上の有名人「犬」が、夢が終わった後も続いてしまう人生のなかで、力なく吠え続ける当連載は66回目を迎えました。

 今回は冷蔵庫などの家電を買ったお話です。


◆型落ちの家電を物色する

 冷蔵庫、電子レンジ、洗濯機。彼らは時に白物家電と呼ばれ日常に潜んでいるだけに見えるが、家電量販店などでは「一人暮らし3種の神器」なんて呼ばれてセット売りされている。

 僕は今まで電子レンジと冷蔵庫を持ったことがなかった。洗濯機のみの敬虔な一神教徒だった。金がなかったからだ。サラリーマン時代、社員同士の劣悪なシェアハウス環境にいた僕は、一人暮らしをする時に粗大ゴミとして捨てられる予定だった洗濯機をもらい受けた。

 後から僕も知ることになるのだが、粗大ゴミを捨てるのには金がかかる。押し付けられる相手がいるなら押し付けてしまったほうが安い。ジモティーで無料で配っている人がいるわけだ。

「新調するなら下取りに出せばいいじゃないか。」

 という人もいるだろう。真っ先にそのアイデアが浮かんだ人はきっと知らない。我々貧困人は家電をドンキホーテや通販のギリギリ価格で手に入れていることを。

 ナショナルやパナソニックのような一流企業が作った白物家電ならば下取りも可能だ。だが我々は明日の1万円も危ういギリギリ文明人。10万円以上する両開きの冷蔵庫やドラム式洗濯機は鉄骨渡りを楽しむような下卑た金持ちが手に入れるものだと思っている。

 そんな最新家電には目もくれず、コーナーの奥の奥、型落ちを繰り返して化石となった家電を漁りに行く。

◆家電量販店はディズニーだ

 僕は今年、フリーターとは思えないほど働いていたので、懐には多少の余裕があった。だから引っ越しに際して一つの目標を持っていた。

「ビックカメラで家電を買うぞ」

 万年借金生活を続けている僕にとってビックカメラやヨドバシカメラは万博だった。各国の最先端技術が鎬を削り合い、訪れる人々に文明の明るい未来を見せるための場所だ。

 僕にとってこれらの家電量販店は無料のディズニーランドであり、新しい冷蔵庫や洗濯機の臭いを嗅ぎながら最新の掃除機で遊び、展示用のルンバを競争させ、ゲームコーナーで子供に混ざって最新ゲームを遊ぶ。入場料0円、科学と大人の夢の国。

 洗濯機はコインランドリーと比べて明らかに安く済む点があるので買うのに抵抗は無かったが、冷蔵庫と電子レンジに関しては悩んだ。どちらも持っていなくとも私生活で全く支障が無いからだ。だが、清潔感がないと働かせてもらえないので洗濯機は必要。

◆値引き交渉で余計な一言を口走る

 各コーナーで一番安い製品に目星をつけておく。洗濯機と冷蔵庫がそれぞれ2万円、電子レンジが7千円だった。勇んでビックカメラに向かった割には大手メーカーには到底手が届かず、結局ドンキホーテに置いてあるような見知らぬメーカーの家電を選ぶことになりそうだ。ちなみに知っているメーカーは軒並み5万円を超えてしまっていた。

「こんな値段じゃ高卒は誰も買えないよ……」

 僕は現場を知らない大企業を想って嘆いた。

「すいません、これ3つまとめて買うんで安くならないですか?」

 合わせて4万7千円の投げ売りセール品のタグを持ち、できるだけ優しそうな店員に話しかける。

「まあ要らないんですけどね、もしもうちょっと安いのがあるならまあ、買ってもいいかな〜、なんて」

 僕は恥ずかしい感情があると余計な事を口走ってしまう性格なので、本当に要らない事を口走った。この店で一番安い家電を探してきてこんなダサい事を言ってしまう自分が憎い。

 キャバクラの店員として働いていた時、似た光景を見た。明らかに1セットで遊ぶのがギリギリの人の席に延長交渉に行った際、同じような事を言われたことがある。

「結構忙しいんだけど、そっから千円安くなるならこの子と居てもいいんだけどね〜」

 かつて唾棄した彼らの姿が自分に重なる。金を失う覚悟はできているが、それはそれとして悔しいのだ。その千円を惜しいと思ってしまう自分に対しても、そんな自分の気持ちを到底理解できないであろう店に対しても。

◆送料無料で夢を見る

 ビックカメラの店員は値段を見るや「難しいでしょうね」と答えた。

「ですよね〜」

 ジャブは不発に終わった。避けられるどころか素手で受け止められてしまった。二の矢は無い。本来なら少しでも安くなるように粘るところだったが、わざわざ貴族の街で大騒ぎするほどはしたない自分ではいたくなかった。

「それでは設置と配送料なのですが……」

 店員から残酷すぎる追撃をもらう。それはそうだ。家電の設置にも人が動く。そのための研修を受け、生活の基盤となる者も多くいるに違いない。この社会は、世の中の繁栄は、想像しているよりもずっと多くの人間が支えているのだ。

 自分一人で生きていると思い込んでいる人間の驕りに気付かされた。僕も洗濯機の設置のバイトをしたことがある。家電にまつわる全ての記憶が走馬灯になって瞼の裏を巡った。

「この地域にお住まいでビックカメラ会員の方なら無料となります」

「え?」

「お住まいはお近くですか?」

 おそらくたった数千円で走馬灯を見た僕は、本当の死に際には終わらない夢を見るのかもしれない。

◆「保存」は革命だ!

 こうして僕は数年ぶりに冷蔵庫と電子レンジを手に入れた。冷蔵庫はかなり助かっている。特に緊急事態宣言が明けてから色んな知り合いに食べ物を恵んでもらっている僕にとって、「保存」は革命だった。

 もらったものをその日のうちに食べる必要がないので、明日や明後日の自分を生かすことができた。これまでは飲み物も食べ物も常温保存だったので、パチンコの景品でもらったヤクルトやレッドブルがキンキンに冷えた状態で飲めるというのは格別な贅沢だった。

 電子レンジはこれまで湯煎で行っていた全ての作業を代わりにしてくれている。例えばレトルトご飯を作る時、これまではお湯を温め、14分の湯煎をして合計20分ほどかかっていたのに対し、電子レンジは2分で出来上がる。圧倒的時短だ。この余った18分で何ができるかと言うと特に何もしないわけだが、SFの世界に来たような驚きがあった。

 科学は人間の生活をより豊かにする。ビックカメラは手の届かない夢のテーマパークではなく、確かな技術を手に入れることのできる場所だった。

◆店員に感謝の言葉を……

 また一つ大人の充実を手に入れた僕は、翌週もビックカメラに行き、対応してくれた店員に挨拶に行った。満足していることを是非とも伝えたい。貴方の顧客はより良い生活を手に入れましたよ、と。

「洗濯機と冷蔵庫と電子レンジ、問題なく動いてますよ、ありがとうございました」

「ええ? はあ、ありがとうございます。ええと、何か?」

 先週一番安い客は普通に忘れられていた。僕が店員でもそうだったと思う。

【犬】
フィリピンのカジノで1万円が700万円になった経験からカジノにドはまり。その後仕事を辞めて、全財産をかけてカジノに乗り込んだが、そこで大負け。全財産を失い借金まみれに。その後は職を転々としつつ、総額500万円にもなる借金を返す日々。Twitter、noteでカジノですべてを失った経験や、日々のギャンブル遊びについて情報を発信している。 Twitter→@slave_of_girls note→ギャンブル依存症 Youtube→賭博狂の詩

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  • 11/6 15:52
  • 日刊SPA!

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