「文Ⅲより理Ⅰ?」東大生を狙う女たちのマウント合戦。文学男に見切りをつけた女の末路

エリートと結婚して優秀な遺伝子を残したい。

そう願う婚活女子は多い。そのなかでも、日本が誇る最高学府にこだわる女がいた。

― 結婚相手は、最高でも東大。最低でも東大。

彼女の名は、竜崎桜子(26)。これは『ミス・東大生ハンター』と呼ばれる女の物語である。

▶これまでのあらすじ

最高の遺伝子をゲットするため、東大卒と結婚することを夢見る桜子。インカレサークルの同期女子会の写真をInstagramに投稿すると、元カレ・宏太からコメントが来て、動揺する桜子だったが…。

▶前回:アポ無しで男の部屋を訪れた女。扉を開けた瞬間、見てしまった衝撃的な光景とは

逃した魚は大きかった?

『あの時、桜子が宏太から他の男に乗り換えさえしなければな〜』

慶一郎からのLINEが、桜子の頭に染み付いて離れない。

学生時代の元カレ・宏太。現在は起業し、順調に経営者ライフを送っている。「あの時別れなければ…」と自分でも思っていただけに、図星を突かれた、という思いだ。

「桜子!?」

中目黒駅のホームで不意に肩を叩かれて振り向くと、姉の百合子が立っていた。

「お姉ちゃん!?なんでここに…」

「自由が丘の美容室に行ってきたの。日比谷線に乗り換えようと思ったら、ホームに桜子がいてびっくりちゃった」

バーバリーのトレンチコートに、エルメスのピコタンを合わせている百合子。ワーママでありながら身だしなみにも手を抜かないその姿は、結婚・出産どころか彼氏さえいない桜子の目にまぶしく映る。

― 私もお姉ちゃんと同じで、女子大を選んで東大のインカレサークルに入ったのにな。結局、学生時代の彼氏とは結婚に持ち込めなかった…。

5つ年上の百合子は、浮かない表情の桜子の顔を心配そうに覗きこむ。

「桜子、なんか元気ない?せっかく会ったんだし、お茶でもしよっか」

優しいその声に、桜子はコクリとうなずいた。

宏太との別れを悔いる桜子に、百合子がかけた言葉は…

東大の学部ヒエラルキー

中目黒の『エプロア』。

シンプルでありながらスタイリッシュな内装と、レコードから流れる緩やかな音楽は、桜子の心を落ち着かせる。“あんバタートースト”とコーヒーを注文した後、宏太のInstagramを見て感じたモヤモヤを百合子に打ち明けた。

「宏太くんねえ、懐かしい名前だわ。彼と付き合った時、嬉しそうに報告してきたの覚えてるわ。で、別れて新しい年下の彼に乗り換えるって自分で決めたくせに、落ち込んでたよね」

「うん…」

当時の記憶が蘇り、桜子は胸が痛んだ。

― たしかに、思い返すと宏太のこと、結構好きだったんだな…。

1年の夏休みが過ぎたころ、周りの女友達に急に彼氏ができ始めた。

「私も早く彼氏がほしい!」と桜子が焦りを募らせていたとき、仲が深まったのが同じサークルにいた宏太だった。

きっかけは、桜子がハマっていた料理ドラマ。当時の桜子は、「男心は胃袋でつかむ!」と意気込み、料理の練習に日々励んでいた。それが興じて、料理ジャンルの漫画やドラマも見るようになったのだ。

「桜子ちゃん、『深夜食堂』が好きなの?俺も大好きなんだ!」

飲み会の席でふとその話をした時、普段は口数の多くない宏太が目を輝かせて食いついてきたのを覚えている。

軽い気持ちで、冬に公開された『深夜食堂』の映画を2人で見に行った。そこで意気投合し、何度かデートを重ねたあと付き合うことになったのだ。

しかし宏太と付き合ったことを報告すると、周りの反応は芳しくなかった。

「え、あの文学少年の宏太?なんで?」

「なに考えてるかよくわからないよね」

「それに、文Ⅲだよね…本当に彼でいいの?」

言われてみれば、周りの女子が付き合っている彼に文Ⅲの人はいなかった。

弁護士を目指している文Ⅰの彼や、気鋭のAIベンチャーでエンジニアとして長期インターンをしている理Ⅰの男性。そしてヒエラルキーのトップは、医者になることが約束されている理Ⅲの男たち。

そんな女友達の彼氏たちと比べ、将来の目標も明言せず、学生時代という豊富に与えられた時間を文学や芸術にばかり費やしている文Ⅲの宏太は、たしかにくすんで見えた。

― 宏太と一緒にいると居心地はいいんだけどなぁ…。

まだ19歳だった桜子は「もっとレベルの高い男性と付き合えるかも」という複雑な思いを抱えながら、宏太と付き合っていた。

そんなモヤモヤした気持ちのまま、3年の春ごろまで付き合ったものの。

宏太と別れる“決定打”になったのは、新しい彼の登場だった。

渋谷幕張高校出身で、理Ⅰ入学の後輩。共学出身らしいもの慣れた態度や、女性に対する細やかな気遣いは、男女別学の高校出身だった宏太にはないものだった。周囲からの評判も上々の彼からアタックを受けて、桜子の心はぐらぐらと揺れた。

しかも宏太は、3年生の夏からカリフォルニア大学バークレー校への1年間の留学が決まっていたのだ。結局それを理由に別れを切り出し、後輩と付き合うことを決めた。その後輩とも、結局1年程度で別れてしまったのだが…。

「桜子さ、もしかして宏太くんと『復縁もありかも』なんて考えてない?」

百合子の言葉で、桜子はぎくりとして我に返る。顔を上げると、百合子が意味深にこちらを見つめている。

姉からの厳しい忠告に、桜子の反応は…

「『逃した魚は大きかった』なんて気持ちで連絡したって、きっとうまくいかないよ」

「うん…わかってる。実は私、宏太が留学から帰ってきたときに、復縁せまってるの。そのとき、すでに新しい彼女がいたの知らなくて」

桜子は、Instagramで宏太と写っていた女性を思い出す。彼女こそが、桜子の後に宏太が付き合った女だ。

宏太と同時期にバークレーに留学していた、豊島岡女子出身で東大法学部の才女。卒業後も交際を続け、今は宏太の事業を手伝っているらしいと噂で聞いた。

彼に既に新しい彼女がいたこと、しかもそれが東大生だということを知った時、桜子は衝撃を受けた。

― 結局、宏太は東大の女がよかったってこと?

東大の女なんて、大学のキャンパスを歩けば、いくらでも出会うことができる。

にもかかわらず、あえてインカレサークルを選ぶ東大男子は、てっきり女子大の女と付き合うことを渇望しているものだとばかり思っていた。だから、東大の女に持っていかれるなんて桜子は考えてもみなかった。

― 結局、東大女が選ばれるんだったら…私たちの立場ってなんなの?前座?

もちろん、女子大出身の女と幸せな結婚する東大男子がいることはわかっている。

しかし、宏太が自分のすぐ後に付き合った相手が、自分にないものを持っている女だと、卑屈にならざるを得なかったのだ。

当時の苦い思い出が頭をよぎり、桜子は暗い顔になる。そんな妹を見かねてか、百合子はきっぱりと言う。

「結局、桜子の相手は宏太くんじゃなかったってことよ」

それを聞くと、桜子は少しすっきりしたような気がした。

「お姉ちゃん、ありがとう。自分に合う人を探す」

百合子は「それがいいわ」と微笑んだ。

インカレ女って結局…

― とはいえ、私に合う人って、一体どんな人なんだろう。

百合子と別れた帰り道も、入浴中も、桜子は悶々と考え続けていた。

寝る支度を終えて、ベッドに入ったときスマホが鳴った。

慶一郎からのLINEだった。

『慶一郎:俺、失礼なこと言っちゃってたらごめん。宏太のこと、他の男に乗り換えなければなって』

いつになくしおらしい彼のメッセージに、桜子は返信を忘れていたことを思い出す。

『桜子:バタバタしてて連絡返せなかっただけよ、大丈夫』

『慶一郎:そっか、よかった!桜子の良さをわかってくれる男は必ずいる。まあ、また飲もうぜ。今度はぜひ美由紀ちゃんも連れてきて』

すっかり調子を取り戻した慶一郎は、相変わらずの美由紀推し発言だ。『まあ、そのうちね』と返信したあと、桜子の胸がほんの少しだけチクリと痛む。

慶一郎は、サークルのマドンナの美由紀に好意を持っている。

スペックだけは完璧なタケルは、これまたハイスペックな家柄の美女・玲香と結婚。真面目な宏太は、頭脳明晰な東大女を選んだ。

こう考えると、日本が誇る最高学府を出た男たちは、女にもそれなりのものを求めている、という現実が桜子には見えてくる。

― 結局、収まるところに収まっているんだよね……。私は、どこに収まるべきなの?

これまで、東大卒の男と結婚したい一心で駆け抜けてきた。でも、考えてみると桜子には、ビジュアルがそこそこかわいいこと以外に、特に取りえなんてない。

これから先、年収に比例して市場評価が上がり続ける東大卒の男と、それを狙う凡庸な自分。その差は広がるばかりだと、はたと気がつく。

― この差を埋めるためには、どうしたらいいのかな…。東大生ハンターとしては、作戦練り直さなきゃ。

そう思ったとき、慶一郎からLINEが届く。

『慶一郎:美由紀と飲むなら、日程このへんがいいかな〜』

5つも羅列された日程候補に、慶一郎の前のめりな姿勢が見える。

― まったく、抜け目ないわね。とりあえず、2人にも今後の作戦を相談してみよ。

「調整してみる」と返信し、慶一郎から挙げられた日程候補を美由紀に転送した桜子だった。

▶前回:アポ無しで男の部屋を訪れた女。扉を開けた瞬間、見てしまった衝撃的な光景とは

▶Next:11月13日土曜更新予定

慶一郎のリクエストで、美由紀との会をセッティングする桜子だが…

2021/11/6 5:04

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