「君とのデートが、つらいんだ」彼氏に言われた衝撃の一言。女が驚愕したその理由とは

「相手にとって完璧な人」でありたい—。

恋をすると、本当の姿をつい隠してしまうことはありませんか。

もっと好かれようとして、自分のスペックを盛ったことはありませんか。

これは、恋するあまり理想の恋人を演じてしまう“背伸び恋愛”の物語。

◆これまでのあらすじ

ズボラ女子・芹奈と、自信のない男・瑛太。2人は東京で同棲を始めて2ヶ月が経過した。芹奈は、家事を一切やらない瑛太に対してストレスがたまり、思い切って彼に「疲れた」と告白するが…?

▶前回:「本当は家事なんて得意じゃない」同棲中の彼女の切実な告白。男の反応は意外にも…


「…ごめん。芹奈は、やりたくて家事をしてくれてるんだと思ってた…」

― そんなわけないじゃないの!

叫びたい気持ちを飲み込んで、芹奈は気持ちを落ち着かせる。ここで感情的になったら、空気が悪化すると思ったからだ。

「そんなことないわ。でも、私、家事が大好きだなんて思ったことない」

「…負担だったんだね」

負担。その通りだと思い、芹奈はこくりとうなずく。しかし、口を一文字に結んだままの瑛太の表情を見て、芹奈は途端に焦った。

このままだと同棲を解消する流れになりそうだと思ったからだ。芹奈は、別れたいわけではなかった。

「瑛太…あのね?家事は、ちょっと手伝ってくれればいいの。忙しい日なんかは、もちろん私がやるし…」

すると瑛太は、頭を抱えながら小さく首を横に振る。話しかけるのを制するような仕草に、芹奈は口を閉じた。

会話のない、静かな数十秒。

エアコンから出る小さな機械音がやたらと耳に響き、しんとした空気が心細さを際立たせた。芹奈は、たまらない気持ちとなって話を自ら切り出した。

「なんか、言って…?」

沈黙する瑛太が、芹奈にかける一言とは?

「…いや、ごめん」

うつむいたまま、謝る瑛太。

― フラれてしまうのかな?

不安、それから悔しさが芹奈の心を埋め尽くす。

理解のない瑛太に対する悔しさではない。…うまくやれなかった芹奈自身に対する悔しさだ。

2人で暮らすことに疲れてしまって、瑛太に当たるような形になってしまった。

― こんなふうに言わなきゃよかった。関係を終わらせたいわけではないのに。

「ごめん。私、瑛太ともっと一緒にいたいよ…。瑛太の理想でいられるように、頑張るから」

喉から声を絞り出すように言うと、瑛太は、驚いたように言うのだった。

「別れようなんて思ってないよ!」

「…ほんと?」

「ごめん。あのな、俺も芹奈に話せてないことがあるんだ…」

― …何?

身構える芹奈に向かって、瑛太は言った。

「俺、芹奈とのデートが、つらい…」

芹奈は、ごくりと唾を飲み込んだ。


「最初のデート、あったろ?芹奈はすごく満足してくれたけど、実はあの日のデートプラン…全部、俺じゃない人が考えたんだ」

「え?」

「あの日、芹奈がオシャレだって褒めてくれた服装も、俺じゃない人が考えた。俺ね、自分で考えるのが本当に苦手なんだ。がっかりされたらどうしようって思っちゃうんだよ」

「…『俺じゃない人』って、誰?」

目を丸くして、芹奈は聞いた。

「…外注。あの日はそれでうまくいったから、あれから毎回毎回、芹奈とのデートではおんなじように外注してる」

「そうだったの!?」

「…芹奈が喜ぶような素敵なデートスポットもレストランも、本当は全然知らないんだ。毎回こんなところがあるのかーって俺も一緒に感動してた」

瑛太は肩をすくめながら寂しげに笑った。そして、アイランドキッチンの方を見て「この部屋の掃除も、そう」と言うのだった。

「1人で暮らしてたときは、ハウスキーパー頼みだったんだ。家事が下手だし嫌いだし、だから可能な限り頼んでた。週に3回来てもらって」

口をぽかんと開けたままの芹奈に、瑛太は続けた。

「黙っててごめん。最初にここへ芹奈が来たとき、綺麗好きだねって褒めてくれただろ?それで、ハウスキーパーに頼んでいるって言えなくなって」

確かに、芹奈は覚えていた。自分が家事をするのが苦手な分、掃除ができる彼氏だったら安心だと思って褒めたのだ。

「外注してるって最初から言えてたら、芹奈に家事を押しつけずに済んだのにな。ずっと、ごめんな」

「…うん」

芹奈は、衝撃を受けていた。芹奈の目に映る瑛太は、色々なことを知っている自信に満ちた男だったからだ。

「本当は俺、全然頼りになるような人間じゃないんだ。デートプランを立てるのも、家事をやるのも、何をやっても上手くできないし、時間がかかる」

互いの本心を見せ始めた2人は、ある結論を出す

「…でも、デートプランを外注するなんて、一番ダサいよね。我ながらあきれるわ」

彼の言葉に、芹奈の中でおかしさが込み上げてきた。彼女は、最初に瑛太をInstagramで見つけたときのことを思い出す。

燃え上がるように、すぐに彼に夢中になった自分。「理想の彼氏」の項目に照らし合わせて、いかに彼が完璧であるかを1人でニヤニヤしながら数えたこともあった。

今の瑛太の話を聞くと、いかに自分の見積もりが間違っていたかに気づく。

瑛太は、大人っぽい性格で自分をリードしてくれるような人ではないし、オシャレでもないのだと言うのだから。

― 瑛太は、理想の王子様なんかじゃなかったってことね。

「芹奈。ごめんな。俺は、本当の自分じゃ、君に絶対に釣り合わないと思う」

彼の指先が、小さく震えていた。押しつぶされそうな気持ちでいることが、芹奈に伝わってきた。

「…別れたくなった?」

瑛太が小さな声で、不安そうに聞いてくる。

彼に手を伸ばし、芹奈は笑顔で首を横に振った。

「ううん。別れたくなんか、ならないよ」

― なんだろう、この気持ち。

家事はいいとして、デートプランを外注されていたことについては、正直、がっかりしてしまった。にもかかわらず、同時になぜか、あたたかい気持ちになっている。

― 嬉しい。彼も、私に好かれるための努力をしてくれてたんだな。

彼の指先に触れながら、芹奈は1人で分析をしていた。

こうなったのは、オンラインで恋に落ちてしまったせいかもしれない、と。

リモートで恋に落ちて、実際に会う前にお互いの理想を言葉で伝え合っていた。

そして、対面するまでに数週間の期間があった。だから、相手の理想に合わせて、いいように仮面を作る時間が2人にはあったのだ。

― 仮面をつけた状態で初めて会って、そのまま付き合ってしまったら…簡単にそれを外すことはできないわよね。それで、ここまできてしまった、と。

「…背伸びしちゃったね」

芹奈が言うと、瑛太は泣き出しそうな表情で2度、3度とうなずいた。

「…芹奈がよかったら、これから、イチから始めよう」

「うん」

37階から見える東京の大きな空。まだ16時なのに、すでに日が暮れ始めている。出会った夏が過ぎて、もう冬が来る。それなりの期間を一緒に過ごしてきた。

しかし、芹奈は今になってやっと、初めてお互いの素顔を見ることができた気がした。


「芹奈」

瑛太が自分の膝をポンと叩いて立ち上がる。

「明日から、掃除と洗濯は外注しよう。それから、今日の夜ご飯はUber Eatsにしようか」

「…いいの?」

芹奈は目を輝かせながら、瑛太を見つめた。

「当たり前だよ。これからもずっとそうしよう。あ、でもご飯はたまーには作って欲しいな」

瑛太はタブレットを持ってきて、Uber Eatsのアプリを開いた。瑛太の整った横顔を見ながら、芹奈は思う。

― こんなの、瑛太が思い描いていた理想の暮らしとは違うんだろうな。本当は全部、私がキチッとやった方がいいに決まってる…。

後ろめたさはあった。

しかし「どれがいいかなー」と楽しそうに笑う彼を見ていると、とりあえず今は、これでいいのかもしれないと芹奈は思えてくるのだった。


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新たなスタートを切った2人は、半年後…

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