建築家・長坂常「新しいことに気づくということが、物を生み出す一番大事なところ」

UoC UNIVERSITY of CREATIVTY 共同編集長の近藤ヒデノリ(Hide)と平井美紗(Misa)がお届けするInterFMの番組「UoC Mandala Radio」。クリエイターに“ワクワクする社会創造の「種」を聞く”というテーマで、毎回さまざまな領域で社会創造をおこなっているゲストを招き、未来に向けた創造やアクションについて語らいます。11月3日(水・祝)の放送では、ゲストに建築家の長坂常さんをお迎えしました。

(左から)Misa、長坂常さん、Hide

長坂さんは1998年に東京藝術大学 美術学部 建築学科を卒業後、「場を作ることを目的に活動するデザインチーム」スキーマ建築計画を立ち上げ、家具からオフィス、建築、街まで幅広くデザイン。ブルーボトルコーヒーの店舗設計も手掛けています。

そして、株式会社博報堂が未来創造の技術としてのクリエイティビティを研究、開発し、社会実験していく場として、2020年9月にオープンした「UNIVERSITY of CREATIVITY(ユニバーシティ・オブ・クリエイティビティ)」TOKYO Campusの空間デザインも担当しています。

◆UoC空間デザインのこだわり

Hide:もともと、どういう形でUoCの空間デザインのオファーを受けたんですか?

長坂:だいぶ、遥か昔のことですね(笑)。最初は「学校を作るぞ」って言われたんです。「博報堂が学校を作るってどういうことですか?」「社会人大学ということですか?」ってところから始まったんですけれど、全然違いましたね。

Hide:僕らは1年、この場所を使わせてもらっているんですけれど、裸足になって過ごせる曲線のコルクの空間というのがすごくポイントになっていて。来た人がすごくリラックスしてしゃべりやすくなるので、狙い通りいろんな領域の人が(フランクに)話しやすい空間になっているんですけれど、素材などのこだわりを聞かせてもらえますか?

長坂:コルクって歩いたり、何か物を置いたりしても十分堅い素材なんですけど、座っていると「柔らかさ」も同時に感じられます。フローリングに座っているのとは違う柔らかさがあって、自然と人と人が話しやすい環境になりますよね。コルクって作り方を間違えなければ、外でも使えるんですよ。

Misa:太陽が昇ったり沈んだりしている時間帯だと、このUoCのコルクの地形が砂丘のように見えるんです。まるでアフリカにいるかのような壮大感があって、すごいんですよ(笑)。ビルのなかにいると窒息しそうな感じになることもあるけど、ここにいるとそういうことはなく、1日いてもすごく気持ちがいいんです。

◆新しい価値観に触れることが、ものづくりの原動力

Misa:長坂さんが普段から、建築をするときに気を付けていることはなんですか?

長坂:建築に限った話ではないんですけれど、「知る」というのは大事だと思っています。物を作る前に新しい価値観に触れることを、物を作る原動力にしていて、それはお客さんが話している言葉や、訪れた敷地に落ちていたものかもしれない。なんでもいいんですけれど、新しいことに気づくということが、物を生み出す一番大事なところだと思ってやっていますね。

Misa:最近で「こんなこと知らなかった」って思ったような、衝撃的な(新しい)知識はありましたか?

長坂:最近SUP(スタンドアップパドルボード)にハマっているんです。毎週のように行っていて、最近行ったのは神田川、隅田川、東京湾。けっこう楽しいんですけれど、誰も(川で)遊んでいない。みんな川に背を向けて生活をしていて、「こんなに素敵な場所で、なぜみんな遊んでいないんだろう?」って。たまにクルーザーが通ったりはしますけど、ほとんど遊んでいないんですよね。

Misa:へぇ~。

長坂:これはもったいないな、と思って。例えばお茶の水の聖橋の下。普段お茶の水を歩いているとき、下に川が流れていますけれど「あそこってどうなっているんだろうな?」と思っていたところに、自分が(SUPで)プカプカ浮いて確認する体験をしてみたりとか。それが僕にはすごく新鮮で、みんながもっとこれで遊んだほうがいいんじゃないかなと思っていて。

昔は水が汚かったから、全部のビルが川を背にしているんですよ。小さい窓が川のほうについていて、反対側に道路があるから大きい窓がついているみたいな街の作りになっているんですよね。豊洲のほうに行くとだんだん自然の素晴らしさに気付いてきて、ビルも川や東京湾を向いているものも増えてくるんですけれど。あの辺をもうちょっとうまく遊び場所を作っていけると、「街も面白くなるのにな」と思いながら見ています。

◆ヴェネチア・ビエンナーレで感じたこと

Hide:長坂さんは今年5月のヴェネチア・ビエンナーレの日本館で、一軒の木造家屋を解体して再構築するプロジェクト(「ふるまいの連鎖:エレメントの軌跡」)に参加されていますね。このときのお話を聞かせてください。

長坂:もともとミラノサローネ(イタリア・ミラノで毎年行われる家具見本市)にはよく行っていたのですが、これだけSNSが発達しているのに、あれだけの壮大な工事をして1年に1回人を迎え入れるイベントというものが、果たしてどれだけ必要なんだろうか? と、考え始めたんです。

そのタイミングで声をかけていただいたのですが、喜び半分「本当に俺、やるのかな?」という気持ちもありました。(従来の展示に)疑問に思っていることを伝えたら、「その疑問とどう向き合うかを考えましょう」みたいなことになったんです。日本できれいに作ったものをコンテナに入れて、向こうで組み立て直して「はい、どうぞ」って展示する、それだけのエネルギーを使って意味があるのだろうか? と。

どうせ移動するのであれば「移動する意味を考えよう」ということで、移動中に起こる材料の劣化とか、加わっていく情報とか、そういうものを足しながら変化していくことがいいんじゃないか? と。

それならば、新しい材料をわざわざ買ってやるのではなく、何十年と歴史を積み重ねて朽ちていく家が、もう一度建ち上がってヴェネチアで展示され、もしかしたらそれがまたどこかで使われていく……。そういうストーリーだったら移動している意味も感じられるかなということで始まったんですよね。

(展示に使われた)その建物が増築に増築を重ねていたので、それぞれその時代で最新の建材が使われていたということが解体しながら見えてきました。なんてことのない建物ですが、層状に歴史が重なっていて、それを読み解いていくとその時代が見えてくるので、それが面白いなと。

Hide:文化の地層というか、きれいなピカピカの新しいものを作るというよりも、古いものを使いながら新しいものを作っていくというのが、すごくヒントになるなと思いました。

長坂:材料として考えたら、スタジオから見えている建物の分だけあるから、すごくたくさんある。そうやって考えると、世界がすごく楽しくなる。

今って1個1個データ化できるじゃないですか。曲がった材料もそれありきで設計できるから、朽ちているものを共有化できて、求めている人のところにちゃんと届けられる時代なのかなと。

Misa:常さんの建築やプロダクトは新しいものと古いものの組み合わせが絶妙すぎて、いつも“砂糖”を感じるんです。きっちりと作る美しさもあると思うんですが、そうじゃないところを出していくところに愛情を感じて、それが砂糖みたいに甘く感じるなと、いつも思っています。

次回11月10日(水)のゲストは、湘南乃風の新羅慎二さんをお迎えします。お楽しみに!

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聴取期限 2021年11月11日(木) AM 4:59 まで

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<番組概要>

番組名:UoC Mandala Radio

配信日時:毎週水曜23:00-23:30

パーソナリティ:近藤ヒデノリ(Hide)、平井美紗(Misa)

番組Webサイト:https://www.interfm.co.jp/mandala

2021/11/4 6:00

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