「いつでも連絡ください」横暴な夫の態度に悩む32歳の社長夫人に手を差し伸べた、意外な人物とは

夫は、こんな人だった―?

周りに相談しても、誰も信じてくれない。子どもと一緒に夫の機嫌を伺う日々…。

最近、こんなモラハラ夫に悩む妻が増えている。

有能で高収入な男性ほど、他人を支配しようとする傾向が強い。

優衣(32)も、経営者の夫が突然マンションを買った日から、徐々に自由を失っていく。

広告代理店ウーマンから、高級マンションという“籠”で飼い殺される専業主婦へ。

彼女が夫から逃げ出せる日はくるのだろうか―?

◆これまでのあらすじ

いきなり育児に協力的になった夫。だが、ある休日、チャイルドシートを外し、1人車で外出した。そして、寝室で見てしまった夫のノート…。優衣の中で夫への不信感は募る一方だった。

▶前回:もしかして夫には私の知らない裏の顔がある…32歳専業妻の中に芽生えた夫への懐疑心とは


「いってらっしゃい」

朝9時。夫を送り出した後のこの時間、優衣は一日の中で一番リラックスできる。コーヒーを入れ、テレビをつける。

雄斗がいつも見ている教育番組に変えようとした時、ふとワイドショーのテロップが目に入った。

“コロナで生活はどう変わる?”

2020年2月、大型クルーズ船の乗客に感染が確認され、日本中にコロナという未知の感染症の恐怖が広まった。

3月に入り、学校も休校。世間はリモートワークを徹底する会社も増えつつあるが、相変わらず雄二は毎日同じ時間に会社へ出勤していく。

去年から企業以外に、個人宅への植物のリースを強化していたことが幸いして、コロナ禍でも発注は多いらしい。

― でもそれにしちゃ、忙しすぎない?

そういえば、義母をわざわざ呼び出し、出張にも出かけていた。優衣は事前に知らされていなかったが、夫は伝えたと言い張った。

会食もしょっちゅうあるし、週末を利用した接待や出張もたびたびある。

そんな事情もあり、優衣の夫への不信感は止まないのだった。

優衣はテレビのテロップとコメンテーターのやりとりをじっと見つめている。どうしてもある一つの可能性を払拭することができないのだ。

― やっぱり浮気…。

だが、仮に夫が浮気をしていたとしても、今の優衣ならまったく動じることはないだろう。むしろ夫が自宅にいないほうが気楽に過ごすことができる。

― 私、もう雄二に気持ちがないのかも。

でも子どものために簡単に離婚するわけにもいかない。仕事もしていない現状や、コロナ禍で社会の機能が停滞していることを考えると、離婚は現実的ではないと思う。

深いため息をつき、カップのコーヒーを飲み干すと、雄斗に向かって笑顔を作った。

「お買い物に行こうか!」

優衣は気分転換に、息子と2人で食材の買い出しに行くことにした。

人の少ない表参道で、優衣は見知らぬ男に呼び止められるが

人のいない裏原宿を雄斗の手を引きながら歩く。

運動不足になりがちなコロナ禍。散歩も兼ねて歩いて買い物にいくことが増えた。

途中、銀行で用事を済ませようと、表参道の交差点に差し掛かったときのことだ。

優衣は見知らぬ男性から声をかけられた。

「あの…、失礼ですが…GREENERYの社長の奥様では?」

スラッと背が高く、ウェーブがかった茶色の髪。ダウンコートからはシャツの襟が見えるが、足元はスニーカーといった気楽なビジカジスタイルの男性。


歳は30歳前後、といったところか。

「あの、失礼ですが?」

優衣は、警戒しながら尋ねた。

「GREENERYの社員の東山です」

男は穏やかな笑顔で、名刺を差し出した。

「主人の会社の方!申し訳ありません。いつもお世話になっています」

優衣は驚きながらも丁寧に挨拶を返した。だが、なぜ自分のことを知っているのだろう。実は、雄二の会社の人間には、一度も会ったことがないのだ。

「なぜ、私が妻だと?」

「あ、すいません。えっと、あの以前社長から写真を見せてもらったんですよ。お子さんと奥様の」

優衣が聞くと、東山は少し慌てているようにも見えた。

― 1回見ただけで、覚えていられるもの?

だが、目の前にいる東山と名乗る男から、少しの訝しさも感じられない。

「それと…」

東山は付け加えるように言った。

「何度かお見かけしてます。僕のお客さん、この辺の飲食店やインテリアショップが多いので。今日は歩いてらっしゃったので、思い切って声をかけさせていただきました」

なるほど、と優衣は納得した。

「あの…会社の方はどうですか?こんなご時世ですし、ちょっと心配で。リモートじゃないんですよね?」

優衣は気になっていたことを聞いてみた。

「多くのクライアントが休業かリモートなので、わざわざ会社に出向いてまでやる仕事はあまりないんですけどね…」

と言うと、東山は申し訳なさそうに尋ねてきた。

「あの、社長のお加減はいかがですか?」

突然東山の口から飛び出してきた、夫の体調を気遣うような言葉に、優衣は驚きを隠せない。

「お加減って…今日は普通に出勤しましたけど、行ってないんですか?」

東山の答えを待つまでもなく、夫への不信感がますます膨らんでいく。

― やっぱり、何か怪しいと思ってたけど…。

不安そうな優衣の様子から、ことの重大さを察したのだろうか。東山はさりげなく取り繕うように言った。

「いや、僕が朝、顔を合わせた時、社長は調子悪いから帰るかも、っておっしゃってたので。そう思っただけですよ」

そして、東山は鞄の中をゴソゴソとあさると、小さな袋を出し、雄斗に「あげるよ」と言って手渡した。

「僕のお客さんのカフェで作っているグルテンフリー、シュガーフリーのクッキーなんです。よかったら」

「ありがと」と嬉しそうに受け取る雄斗。

「すみません、いただきます」

優衣も礼を言った。そして、小さな子どももちゃんと気遣うことのできる東山の人柄に、優衣は少し感心した。

「それじゃ、お忙しいところ呼び止めてすみませんでした」

と東山は立ち去ろうする。

「あのっ!!」

その時、なぜか反射的に優衣は東山を呼び止めていた。

この人は信用できるかも?優衣は目の前の男に助けを求めるが…

「どうしました?」

驚いた様子で東山は振り返った。

― この人に聞いてみよう。

優衣はとっさに思いついた。

「聞いてもいいですか?会社、うまくいってますか?夫は会社ではどんな感じなんですか?」

東山は唖然とした様子で優衣を見ていた。

「あの、私が聞いたことは夫には言わないで欲しいんです」

東山は不思議そうに言った。

「どうして僕に?」

優衣は考えたのだ。今日初めて会った東山に、夫・雄二のことを尋ねたとしても、それが夫を勘ぐるような内容であればあるほど、彼は夫に報告できないだろうと。

社員なら社長夫妻のプライベートに巻き込まれ、とばっちりは食いたくないはずだ。

「困っているんです。最近、夫の様子が以前と違うので」

心のうちを隠し、優衣は真顔で答えた。

「立ち話も寒いので、この裏のカフェでお茶でもいかがですか?」

東山いわく、交差点の2つ先の角を曲がったところにあるカフェなら、コロナ禍でも席数を少なくして営業しているという。

「ぜひ」

優衣は快諾した。

ほかに客のいない『ラ・ボエム』は、話をするにはぴったりの場所だった。

優衣と東山はコーヒーを、雄斗にはジュースをオーダーする。

「会社では以前とまったく変わりませんよ。思いついたことを即実行に移す行動力は、本当にすごいと思います」

東山は淡々と会社での様子を教えてくれた。


東山の話では、多くの会社が社屋をクローズし、飲食店も自粛しているが、幸い解約までは至っていないという。

それにおうち時間を充実させるために、個人宅からの問い合わせが増えているという話は、雄二も言っていたことだ。

「ただ、人手不足でなかなか思うようにまわりません。そのことがますます社長をイラつかせてしまい、申し訳なく思っています」

東山の沈痛な表情に、優衣は若干の違和感を覚えた。

「このご時世、募集すればいくらでも応募が来そうなものですが」

優衣の頭に、この間自宅の寝室で見てしまったノートの走り書きが思い浮かぶ。

「新しく入ってきても、なかなか続かないんですよ。社長の植物に対する情熱についていける人がいるといいですが。奥様をスカウトしたいくらいです」

冗談めいたことを言って東山は笑った。

「主人が従業員のみなさんに、無理難題を押し付けているのではないですか?」

優衣は、直球をぶつけてみる。

「いや、無理ってほどのことでも…」

東山の言葉を濁す様子を見て、優衣は思った。

― やっぱり…。きっとそうなのね。

「もうひとつ伺いたいのですが、この間の三重への出張は夫が1人で行ったんでしょうか?」

優衣は引っかかっていたことを聞いてみた。

「いえ、出張に行かれたかどうか、僕は把握していません。すみません」

「そうですか。ありがとうございます」

カフェを出てから別れ際、東山が言った。

「何か僕にできることがあったら、遠慮なく連絡をください」

何か言いたげな東山の目を見て、優衣は思ったのだ。

夫にはきっと自分の知らない顔がある。

きっと、浮気もしているだろうと。



20時をまわった頃、雄二が上機嫌で帰宅した。

「忙しいからUberで済ましたよ。連絡できなくてごめんね」

目が合うなり謝ってくる様子から、優衣の直感が働く。

― 東山さんも、帰ったって言ってたし。やっぱり女かもね…。

雄二の言動を注意深く見ながら、明るい声で聞く。

「そうなんだ。何を食べたの?」

「えっと…、ピザかな」

曖昧で怪しい返事をする夫に、不信感は募るばかりだった。

優衣は雄二に、昼間の一件を話す。

「あなたの会社の東山さんに会ったわよ。素敵な方ね」

雄二の目尻が一瞬ビクッと動いた。

「あいつ、なんて?」

「社長の植物への情熱はすごいって。尊敬してるって」

急須から温かいお茶を注ぎながら、ちらっと夫の方を見る。

「そうなんだ。東山は仕事もデキるほうだけど、あいつは人に厳しいから、なかなか人がいつかないんだよ。人手不足でさ。社長の俺がこんな時間までフォローにまわらなきゃいけないわけ。困っちゃうよ」

ソファに深く腰をおろし、偉そうに東山について話している。だが、東山が匂わせていた話とはだいぶ違う。

自分の会社の社員を悪く言うのも、経営者としてどうなのだろう?

優衣はいますぐその場を立ち去りたい衝動を抑え、不愉快な夫の話をじっと聞いていた。

聞くほどにいら立ちが募るが、夫の本性を暴きたいという気持ちも少なからずあった。

― 雄二、あなたっていう人は、一体…。

優衣は夫に得体の知れない何かを感じるのだった。


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優しくなったのは一瞬でまたワガママな夫に。耐えられなくなった妻は…

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