国際線CAからコロナ転職した女性。「自分は成長していない」が発奮材料に

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 航空業界に大打撃を与えた新型コロナウイルスの世界的大流行。国際航空運送協会(IATA)の10月上旬の発表によれば、各国の国内線で需要回復の兆しが見える一方、国際線では入国制限などから厳しい状況が続く見通しだという。

 先行きが見えないなかで当然、航空業界から去る人たちもいる。日本の航空会社で国際線キャビンアテンダント(CA)として勤めていた上田光さん(25歳)は今年、まったく異なる仕事に“コロナ転職”。新たな道を歩き始めている。

 とはいえ、一般的に“憧れの職業”のひとつであるCAから転職することには大きな葛藤があったに違いない。今回は、上田さんの大きな決断と「その後」に迫った。

◆学生時代、「幸せってなんだろう」と考えていた

「航空会社のCAになれたとき、家族や親戚はとても喜んでくれました。飛行機が空を飛んでいるのを見れば『光ちゃんが乗っているのかな』と、顔を思い浮かべていたみたいで。

 とくに今は亡き祖母が、私の搭乗する飛行機に何度も乗りに来てくれて。機内でも『成長したね』って、わんわん泣いていましたね」

 CAは、明確な意志がなければなれない職業である。そもそも上田さんが航空業界を目指すきっかけはなんだったのか——。

 兵庫県の淡路島出身。大学3年生でオーストラリアのメルボルンに留学。海外が好きになった。そして、東南アジアを中心にひとり旅を始める。

「大学時代に合計10か国ぐらい行きました。高校では柔道部だったので、ひとり旅でなにかあっても負けない自信があったんです。今思うとちょっと危ないんですが(笑)。発展途上国と言われるラオスを訪れたとき、現地の人たちが私をよそ者扱いせず、親切に接してくれて。イキイキと楽しそうに過ごす姿を見て『幸せってなんだろう』と考えるようになりました」

 日本では、電車でだれもがスマホをいじりながらうつむいている。そんな日常に違和感を覚えた。

「いくら経済が豊かでもみんなあんまり幸せそうじゃないなって……」

◆将来ドバイに住むためには「CAになればいい」

 海外に思いを馳せるなか、上田さんは4年生で中東のドバイを訪れた際、「将来はここに住む」と決意する。アジアとヨーロッパ、歴史ある遺産と近代的な建造物、あらゆる人種や文化が混ざり合い、“多様性”を受け入れていることに衝撃を受けたのだ。

「日本で報道されているような中東のイメージとは違っていました。ドバイに住むためにはどうしたらいいのか考えたとき、エミレーツ航空(ドバイが本拠地の航空会社)のCAになればいいんじゃないかって」

 そこからは急ぎ足の就職活動だった。TOEIC830点、英検準1級、CAとしての作法に役立つのではないかと秘書検定を取得した。

 しかし結局は、第一志望のエミレーツ航空や同じく中東のカタール航空などには英語面接で落ちてしまう。そんななか、ある航空会社から内定を得る。

「東京五輪のインバウンド需要を狙って例年よりも採用数が拡大していた時期だったので、運が良かったのかもしれません」

◆念願の国際線CAになれた矢先…

 2019年3月に入社。1年目は国内線を担当した。

「CAといえば、ニコニコしながらジュースや機内食を配るイメージがあると思いますが、実際はお客様の命にもかかわる安全面の確認など“保安業務”が中心。裏では重たい荷物を運んだり、力仕事も多かったです」

 年末年始も関係なく、基本的には4勤2休が続いていく。搭乗が早朝の便ならば、深夜2時に起床してタクシーで空港に向かう。そんな生活にも慣れてきた頃、2年目で念願だった国際線に。ようやく「これから」という矢先に新型コロナが猛威をふるう。

「国内線も国際線も減便になり、自宅でリモート研修の日々でした。CAの収入は基本給のほか、フライト時間による手当や現地での滞在手当などを足すことで成り立っているので、それが無くなってしまいました。私は寮に住んでいたので生活するぶんには困りませんでしたが、お給料、下がったなって……

 当初は楽観視していたが、それは夏を過ぎても収まらなかった。当たり前の日常が輪郭を失いゆくなかで、次第に焦燥感ばかりが募っていく。

◆コロナが奪った仕事「自分は成長していない」

「いちばん精神的にツラかったのが『仕事がない』ということ。20代でたくさんの経験を積みたかったんです。接客において、実務が何もないなかで『自分は成長していない』と思い悩むようになりました」

 久しぶりに出社してみると、電気は消されて薄暗かった。ふだんは賑わっていた更衣室がしんと静まり返っている。コロナ禍が、多くの人たちの仕事を奪った現実を目の当たりにした。

「エミレーツ航空は大量リストラ。航空業界全体が落ち込み、この状態が何年続くかもわからない。希望者には出向して電話受付やデータ入力の仕事がありましたが、それは私のやりたいことではありませんでした。このまま成長を実感できないまま、時間を無駄にしたくない。そして、転職を意識するようになりました。ただ、自分は一歩外に出てしまえば、“スキルが何もない”と思って

 実際、転職活動には困難が待ち受けていた。

◆一歩外に出てしまえば「スキルが何もない」という現実

「昨年10月頃から履歴書を送るようになったのですが、“未経験OK”と書いてある求人でもぜんぜん受かりませんでした。募集自体が少なく、“即戦力”を求めているんだなって」

 上田さんはスキルを得るため、オンラインスクールでWebデザインとマーケティングを学ぶようになった。そのときに初めてパソコンを購入したという。自分にはなんの仕事が向いているのか思案した。

「デザインに興味があったのですが、やっぱり無理で。大学時代にマーケティングを勉強していたので、それを活かすかたちで広報などの仕事を探すようになりました」

 そして今年1月、転職サイトで見つけた株式会社Enjin(エンジン)に入社することになる。

「家族にCAを辞めることを伝えたときは、驚いていました。『コロナなんてすぐに終わるよ』って。ただ、私としては現実を知り、長い目で見てキャリアデザインが思い描けるようになりたかった。最終的には、みんな応援してくれましたね」

◆未知なる世界での新たな挑戦

 現在は、メディア関係者と企業をつなぐプラットフォーム「メディチョク」の広報担当として試行錯誤。コロナ禍で直接営業には行けないなか、Twitterでメディア関係者と思われる人たちに「取材先を探していませんか?」とDM(ダイレクトメッセージ)を送る。

 じつは、記者が上田さんと知り合ったきっかけもそれだった。彼女のアカウント(@h_chiaro)のプロフィールには「国際線CAからコロナ転職しました」と書かれている。そこで、「上田さん自身を取材させていただけませんか?」とお願いしたのだ。

「私が何者なのかわからないと思うので、どうしたら相手に興味をもっていただけて、なおかつ信用してもらえるのか工夫しているつもりです。『SNSに力を入れたい』という話を上司にしたら、どんどん挑戦してみなよと言ってもらえて」

 入社後すぐに緊急事態宣言が発令され、基本的にはリモートワーク。マニュアルを見ながら不明点はチャットや電話で質問するなど、苦戦しながらも少しずつ慣れていった。

「最初は不安でしたね。業界に対する知識不足はもちろん、オンラインスクールで少しパソコンをいじっていましたが、ワードやエクセル、Googleのツールなども初めてだったので。YouTubeで見たり、本を読んだりして、自分で勉強する時間を意識的につくっています。

 もしも隣の席に先輩がいれば3秒で聞けることでもリモートでは貴重な時間を奪っている感じがして。だから、顔を合わせてランチができたときは、なんだか安心しましたね」

 また、CAとして培った経験は決して無駄ではなかったという。

「相手に対する気遣い。CAは1日何百人の知らない人たちと出会うので、それぞれに合わせた“距離感”を掴めるようになりました。また、常に“笑顔”でいられること。いっしょに働く人は笑っているほうが場の雰囲気も明るくなるじゃないですか。基本的なことですが、改めて大事だなって」

 保安業務の名残で、今でもあらゆる場面で「指差し確認」をしてしまうという上田さん。とはいえ、CA時代にはなかった“数字”の目標とも向き合う。月末になれば、大忙しなんだとか。

◆会社と自分の成長を実感している

 ようやく緊急事態宣言が解除され、最近は週1〜2回程度は出社。福利厚生の一環で食べられるランチを楽しみにしているそうだ。同僚たちと海外旅行に行けば、会社から補助金も出るという。そんな環境で充実した毎日を過ごしている。

「コロナ禍が終わりを迎えてもCAには戻れないと思います。弊社は平均年齢が若く、私の部署は全員中途採用で入った人たちなので、とにかく風通しが良い。提案すればどんどん任せてもらえます。

 会社と自分の成長を実感するなかで、ゆくゆくは英語を活かして海外事業を開拓するなど、飛躍に貢献したいと思っていますね」

 人生の幸福度を決める要素のひとつとして、「仕事」は切っても切れないものだ。転職活動とは、言い換えると、その人にとって「幸せとはなんなのか」を探す旅。上田さんの晴れやかな表情がすべてを物語っているようだった。

<取材・文・撮影/藤井厚年>

―[「コロナ転職」のその後]―

【藤井厚年】
Web/雑誌編集者・記者。「men’s egg」編集部を経てフリーランスとして雑誌媒体を中心に活動。その後、Webメディアの制作会社で修行、現在に至る。主に若者文化、メンズファッション、社会の本音、サブカルチャー、芸能人などのエンタメ全般を取材。趣味は海外旅行とカメラとサウナ。Twitter:@FujiiAtsutoshi

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