日本からタクシー運転手が消える? タクシー業界の不安な現状を栗田シメイが解説

『コロナ禍を生き抜く タクシー業界サバイバル』(扶桑社新書)を上梓された栗田シメイさん。前編では、コロナ禍の外国人観光客の激減やタクシー業界の実情を伺った。今回は、ライドシェア導入を拒む業界の古い体質や、増加する女性ドライバーについて聞いた。

 

■ライドシェアはあり得ない 業界の古い体質

――タクシー業界の特徴として、変化を拒む体質について書かれていました。

栗田 価格競争の激しい大阪のタクシーを除けば、ほとんどの地域は料金体系と初乗り料金が統一されています。改革をしようにもなかなか難しいことが多く、業界全体が遅れている部分があります。2018年にライドシェア解禁が検討されていた時は、国土交通省や厚生労働省の前にタクシー運転手が大挙してデモをしたくらいです。

 

――なぜそこまでの反発があったのでしょうか?

栗田 ライドシェアはタクシーより安く利用できますから、自分達より安価なサービスができたら客が取られて、縮小しているタクシー市場が更に小さくなると考えているからだと思います。そこに対して強いアレルギーがあると思います。

 もう1つ、タクシー会社の経営者達が「ライドシェアはあり得ない」と口を揃える理由として「ライドシェアは安全面が保障されない」ことを挙げています。タクシーの料金体制は安心安全を運ぶためのものだということです。一部高齢ドライバーの事故がありますが、確かに日本のタクシーの安全面は世界でもトップクラスだと思います。

 安全に関する教育や、乗車前、乗車後の飲酒チェックはもちろん、疲労度のチェックなどの健康管理に力を入れています。

 

――ライドシェアだと誰でも運転手になれるんですよね。運転が荒い人かもしれないし、徹夜後で疲労していても分からない。

栗田 二種免許を持っていない素人が運転することになります。ライドシェアなら僕でも運転手できますが、タクシーの方が絶対安全だと思います(笑)。そういった意味で「ライドシェアで何かあった時に責任が取れるのか」というのがタクシー業界側の意見です。

 しかし世界的に見て先進国でライドシェアが全く導入されていないのは日本やドイツなど限定的です。アメリカや中国はかなり進んでいます。

 安い移動料金に慣れた外国人観光客からすると、日本のタクシー料金はすごく割高に感じます。特に中国からの観光客は日本のタクシーでは中国語が通じないこともあって、日本に住む中国人達の違法な白タク(白色のナンバーを付けた個人タクシー)を利用する人が多くいました。インバウンド需要の何割かは白タクに取られていたと言われています。

 

――現状のシステムを維持することで取りこぼす客層もあるんですね。

栗田 このままでは先細りが目に見えているのですが、どうしていいか分からないのが現状だと思います。

 

■日本からタクシー運転手が消える?

――コロナ禍で、タクシー運転手を辞める方も多いのでしょうか?

栗田 全国タクシー・ハイヤー連合会の調査によると、全国の運転手さんは2015年まで34万人くらいでしたが、2020年の時点で28万人まで激減しています。

 また高齢化の影響も大きく、定年が70歳から75歳くらいなので、団塊世代の運転手が定年になると2025年には24万人ほどになるという予測があります。

 一部のタクシー会社は人材確保のために研修制度を充実させていて、希望すれば語学研修を受けることもできます。多くの会社が二種免許を取得する費用を出してくれるので、実質無料でタクシー運転手になることが可能なんです。しかし裏返せば、そこまでしなければ人が集まらないともいえます。

 

――なぜ運転手のなり手が少ないんでしょうか?

栗田 拘束時間が長いことが嫌がられる理由の1つだと思います。消防士さんのような、24時間、又は18時間働いて翌日は休みという隔日勤務が一般的です。時短勤務や日中数時間の日勤だけなどの柔軟な働き方を認めないと今後は厳しいのではないでしょうか。

 ただ、最近では留学資金を貯めるために短期間だけ働きたい人や、仕事の合間に資格勉強するためにタクシー運転手になる人も増えてきています。そのことを許容するタクシー会社の動きもあります。女性の育休や産休の制度を整備するタクシー会社も多いですし、変わってきている部分もありますね。

■女性ドライバーの実態

――女性のタクシー運転手は増えているのでしょうか?実感としてはあまり見かけたことがないように思います。

栗田 全国ハイヤータクシー連合会の調査では2019年3月末の女性運転手の人数は9,723人でした。全体の割合からいえば3%程度ですが、確実に増加傾向にあると言われています。 

 都内だと国際自動車さんや日本交通さん、日の丸自動車さんは女性運転手が多いですね。

 

――なぜ女性の運転手が増えているのでしょうか?

栗田 女性が働きやすい職場という意見を聞きます。運転手同士はあまり干渉しないので人間関係が楽だし、時間の融通が効くので地方ではシングルマザーの女性運転手が多いです。

 確かにレジ打ちなどの時給制のパートをするよりは、ずっと多く稼ぐことができます。二種免許があれば復帰できるので、子育てがひと段落してから復帰する方も多いです。

――女性が働きやすいというのは意外でした。危ない目に遭うことはないのでしょうか?

栗田 セクハラをするお客さんは確かにいるそうですが、本当にごく一部だといいます。大半のお客さんは女性運転手には優しいらしいんです。道を間違えたりすると、男性運転手には「わざと遠回りしただろう」と暴言を吐く人が多いのですが、女性相手だと「まだ慣れていないんだよね」と気遣ってくれることが多いそうです(笑)。

 

――女性のお客さんは、女性運転手の方が安心しそうですね。

栗田 それは大きいですね。女性のお客さんにアンケートをとると「男性ドライバーに自宅を知られたくない」という意見が多いそうです。わざわざ自宅から少し離れたところでタクシーを降りて歩いて帰るという人が大勢います。

 

――女性ドライバーを指名することはできるのでしょうか?

栗田 現在のシステムではできないのですが、名刺を作っている運転手は多いので、女性運転手に名刺をもらって個人的に指名する女性客が多いようです。

 個人指名は会社としては表向きには推奨していないのですが、稼いでくれた方が儲かるので黙認している部分もあるのが状態です。実際、コロナ禍でも稼ぐことができている運転手は個人的な指名客が多いことも条件の1つなんです。

 

栗田シメイ

1987年生まれ。広告代理店勤務などを経てフリーランスに。スポーツや経済、事件、海外情勢などを幅広く取材する。『Number』『Sportiva』といった総合スポーツ誌、野球、サッカーなど専門誌のほか、各週刊誌、ビジネス誌を中心に寄稿。著書に『コロナ禍の生き抜く タクシー業界サバイバル』。『甲子園を目指せ! 進学校野球部の飽くなき挑戦』など、構成本も多数。南米・欧州・アジア・中東など世界30カ国以上で取材を重ねている。連絡はkurioka0829@gmail.comまで。

2021/11/1 18:00

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