SNSの誹謗中傷に悩むアイドルたち「ファンの顔を見て“あの人かな?”」
だれもがSNSを活用する時代。実名に限らず、匿名でもできることから、誹謗中傷に悩むひとたちが絶えない。芸能人のなかには、精神を病んでしまったり、活動を休止したりするほどまで追い込まれてしまう人も。それは今、社会問題のひとつと言えるだろう。
◆SNSの誹謗中傷が原因でアイドル活動の継続を断念
るるさん(23歳・仮名)はライブアイドルとして活動していたが、SNSの誹謗中傷が原因で続けていくことが困難になってしまったと話す。
「ずっと歌って踊れるアイドルになりたかったけど、現実はキツい。あるユニットの新メンバーとして加入したけど、平日は動員が一桁なんてことも多かった。
マネージャーさんからは、ライブの質をあげるのはもちろんだけど、いつでも更新できるSNSを頑張るようには言われていました」
ライブは週2〜3回あり、レッスンが週1回。それ以外の日は生活費を稼ぐためにアルバイトをしつつ、四六時中SNSを更新していたという。
「最初はそんなに更新していなかったんですが、それに対して『新メンバーやる気がないね』って、リーダーのところにコメントがきて。そこから、バイトの時間以外は頑張ってマメに更新するようになりました」
◆目に入るのはアンチコメントばかり
とはいえ毎日、面白い出来事があるわけではない。それでも何かしらのネタを考えて、写真付きで投稿していた。しかし結果は、散々なものだった。
「1日でも投稿がないと『新人のくせに男にうつつを抜かすな』と書かれたり、『どうせこんなユニットにいても上にはいけないよww』と書かれたり。自撮りを載せれば『アプリでごまかすな』って書かれるし、無加工のライブ写真を載せれば『肌汚いね、もっとケアしなよ』『おデブちゃんで残念』って書かれる。もうどうしたらいいのか。
私の同級生と名乗るアカウントまで出てくる始末。そこで私が“元ヤンキー”とかイジメをしていたとか、根も葉もないことを書かれました」
誹謗中傷をしてくるアカウントのほとんどが全く誰なのか検討もつかないものだった。SNSの匿名性を利用して、好き勝手に書いている……。
◆ライブ会場で疑心暗鬼に「あの人が書いているのかな?」
るるさんは気丈に振る舞っていたというが、徐々にアイドル活動に支障が出てきてしまう。
「私なんて動員も少ない地下アイドルだったんですが、もうライブに出るのが怖くなって。歌いながらファンの顔を見て『あの人が書いてるのかな?』って思ったり、他のグループのファンであろう人の顔を見て『蹴落とすために書いてるのかな?』って疑ったり。楽屋でも他のアイドルの子に対して『あの子かな?』『それともあの子が書いているのかな?』と疑心暗鬼が止まらなくなってしまって」
デビューして半年が過ぎた頃、るるさんはユニットを脱退してしまう。辞めてしまうほどに誹謗中傷のコメントに悩まされたわけだが、実際は褒めてくれるコメントの方が多かったという。
「全体的に見れば、誹謗中傷は1割に満たない程度で、ほとんどが応援してくれてるコメントだった。不思議と99回の『可愛い』より1回の『ブス』の方が心に刺さってしまうんですよね。気にしなければいいのかもしれないけど、私には無理でした」
◆一般人も他人事ではない
SNSの誹謗中傷に悩まされるのは、芸能人に限った話ではない。一般人でもTwitterやInstagramで発信する時代。東京都内の会社に勤める麻美さん(29歳・仮名)もそのひとりだ。彼女はダイエットの記録をTwitterで報告していたというが……。
「“誰かに見てほしい”というよりは“自分用のメモ”として。あとは、“サボらないため”にやっていました。全くバズりたいとか目立ちたいとかはなかったんです」
顔出しはせず、あくまでダイエットの記録としてアカウントを運用していた。だが数か月が経った頃、変なフォロワーやリプライが増えてきたんだとか。
「ちょうど7キロぐらい痩せた頃だったかな。普段は励ましてくれたり、褒めてくれたりするコメントがほとんどだったのに、急にアンチコメントが湧き出したんです。たとえば、ウエストのビフォー・アフターを載せたら『前のほうが男ウケ良さそうですね』『まだまだクビレにはほど遠い』みたいな」
それは、だんだんエスカレートしていく。
「目標体重とサイズに到達する直前ぐらいで『顔写ってないけどブス』『身体は痩せたけど顔がでかいから残念ですね』『こんな写真載せて美容家気取りかよ』などと書かれました。ブロックしてもまた同じような文体の人が現れて、いたちごっこ状態でした」
◆「絶対にバレるはずがない」と思っているのだろうか…
現在は目標体重に到達し、Twitterはヤメてしまったという麻美さん。
「せっかく痩せたのにアンチコメントのストレスでリバウンドしたら、あいつらの思い通りになっちゃうから(笑)。それに、私にとってSNSは仕事でもなんでもないんで。無理してやる必要もない。最近のニュースを見て、芸能人って大変だなって。一般人の私に対してあれだけしつこくアンチコメントする人がいるんだから」
SNSで誹謗中傷する人たちの目的は何なのか。たんなるストレス発散のつもりなのかもしれないが、昨今は泣き寝入りせず、法的措置や発信者情報開示に踏み切るひとたちも増えている。「絶対にバレるはずがない」と思っているのだろうが、今後は少しずつ変わっていくのかもしれない。
<取材・文/吉沢さりぃ>
―[SNS誹謗中傷に悩む芸能人]―
【吉沢さりぃ】
ライター兼底辺グラドルの二足のわらじ。近著に『最底辺グラドルの胸のうち』(イースト・プレス)がある。趣味は飲酒、箱根駅伝、少女漫画。『bizSPA!フレッシュ』『BLOGOS』などでも執筆。Twitter:@sally_y0720