伊丹十三が不気味に卵の黄身をチュウチュウ…奇妙な演出に釘付け「家族ゲーム」

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 皆さんこんばんは、宮下かな子です。

 舞台『手の平』無事に完走致しました。約1カ月の稽古期間と、約1週間の本番12ステージ。今はもう、抜け殻状態です。

 実は私、1カ月休みがないことが今回、初めての経験でした。稽古の合間にもドラマ『最愛』(TBS系)の撮影があって行き来したり、連載原稿を書いたり、ほかの撮影があったり。常にお芝居のことを考える日々を送っていました。

 2020年から、年に一度舞台に出演させて頂いていますが、何度も同じ芝居を繰り返して成熟させていく過程や、本番中も日によって変化するライブ感に面白さを感じたり、どうしたらもっと良くなるのか毎日悩む苦労もあったり。一度良い芝居をしたらOKが出る映像の仕事とは異なるやり甲斐を、改めて感じました。

 そして、足を運んで生でお芝居を観てもらえるって、本当に有難いことだし、嬉しいことだなぁと。コロナ感染防止のため面会はできませんでしたが、ずっと会えていなかった友人や家族やお世話になっている方々にも観に来て頂けて、本当に嬉しかったです。観に来てくださった皆さん、本当にありがとうございました!

 舞台上で私が演じた琴声は、両親からの愛情を受けずに育ちながらも夫の家族の一員となる決意をし、奮闘しながら悩んでいる夫の背中を押してあげられる、包容力のあるかっこいい女性。脚本を読んで、そんな琴声の人間性に惚れ込み「演じてみたい!」と出演を決めたのですが、私にない彼女の強さを持つにはとても苦労しました。それでも常に全力で、絶対に諦めずに最後まで向き合って下さった演出の和田さんと、先輩キャストの皆さんの支えがあって、自信を持って琴声を演じきれたのではないかと思います。彼女を演じるための稽古過程や、彼女の台詞や行動のおかげで、私自身も少しは強くなれたのではないかな。そう思っています。

 苦しかったけれど、本当に充実した実りある1カ月でした。この経験を糧に、今後も更にパワーアップして頑張っていきたいです。

 さぁ、今日から11月ですね。楽しみにしている撮影が控えていたり、有難いことに今月もお仕事充実していますが、お休みの日もあるので今月の私は休息も取りつつ、お家でじっくり何か製作することにも力を入れる月にしようかなと。絵だったり、刺繍だったり、編み物だったり、自分の手で形にしたいものが沢山あるんです。それと、舞台期間中は混乱しないようインプットすることを控えていたので、今月は思う存分本やマンガや映画やドラマを観まくりたい! 食生活もかなり乱れてしまっていたので、自炊で健康管理をしっかり行うことも目標のひとつです。なんだか楽しい11月になりそうな予感。皆さんも、良い日々をお過ごし下さい。

 さて今回も、前回に引き続き〝家族〟をテーマにした作品をご紹介しようと思い、森田芳光監督『家族ゲーム』(1983年ATG)を選びました! 今まで紹介してきた中でも群を抜いて奇抜でシュールな演出と物語な故、好き嫌いが顕著に分かれる作品なのではないかと思います。私も初めて鑑賞した時は、「なんじゃこれ!」と頭にハテナが沢山浮かびましたが、森田監督の独特の世界観はしっかり胸に焼きついていて、あの衝撃はなかなか出会えるものではありません。まだご覧になったことのない方には、是非一度は観て頂きたい作品です!

〈あらすじ〉
 中学3年生の沼田茂之(宮川一朗太)は、父・孝助(伊丹十三)母・千賀子(由紀さおり)兄・慎一(辻田順一)の4人家族。茂之の成績を上げるため、家庭教師を頼む。そこにやってきたのは三流大学生の吉本(松田優作)という奇妙な男だった……。

 家族に無関心で息子達に良い学校に行けと言うだけの父親、そんな父親の言いなりになっている母親。両親の期待に応えた高校に通うも怠け癖のある兄。そしてイジメを受け、成績も悪く悪知恵の働く次男。それぞれが自己中心的で、他者と向き合おうとしない家族の物語です。

 冒頭、〝家中が、ピリピリ鳴っててすごくうるさいんだ〟そんなナレーションと共に映し出されるのは、この4人家族の食卓の様子。これがどうも普通の食卓風景ではない。長テーブルに、4人が横並びに並んでいるのです。家族全員揃っての食事、というのは一般的に幸せの象徴だと思いますが、それを逆手に取り、家族全員が集まっているのにも関わらず、それぞれが孤立して食事している4人家族の様子は、異様な不気味さを醸し出しています。この食卓の構図はとても衝撃的で、この映画を代表する演出のひとつです。

 私、人と横並びで会話するほうが好きで、対面ではなく横並びの食事だったり歩きながら人と会話するのを好むのですが、そんな私でもやっぱり、家族は別。私の家は5人家族ですが、みんなでラーメン屋さんに入ってカウンター横並びだったりするだけで、落ち着かない心情になります。家族との食事は、食卓を囲みたいものです。

 この異様な食卓風景で、食事をするシーンが多く登場しますが、この映画の食事シーンや食べ物は、驚くほど美味しそうに見えない!これもまたこの作品の特徴。映画のご飯シーン好きの私にとって、これはかなり衝撃的でした。加えてこの映画、音楽が一切使われないんですよね。レコードをかけ聴いているシーンでさえ音楽は流れず、代わりに脳裏に焼き付くのが咀嚼音。家族と向き合わない食事というのは、どれほど無機質で冷たいものかと驚かされ、貪るように食事をする彼らのその咀嚼音が強調されていて、更に不気味さを感じます。

 唯一食べ物のシーンで肯定的に見れたのは、父親の目玉焼きの食べ方。

 黄身の部分に唇を直接付け、ちゅうちゅう吸い上げるその仕草はかなり異様ですが、そういえば私も子供の頃、こんな風に先に黄身を吸う食べ方をしていた気がするなぁと、このシーンを見ながら不意に思い出しました。父親役の伊丹十三さんの食への愛情は、彼の監督作品やエッセイでも知られていますが、この目玉焼きの食べ方関しては、著書「女たちよ!」(新潮文庫)の中の〝目玉焼きの正しい食べ方〟に記載ありますので、気になった方はこちらも是非とも。

 そんな独特の目玉焼きの食べ方をしている父にある日、焼きすぎて黄身が固まった目玉焼きを出した母。

父「こんな固くちゃ、ちゅうちゅう出来ないじゃないか!」
母「ちゅうちゅうって……」

父「知ってるだろ、俺がいつも黄身を吸うのが好きなこと」
母「はぁ、好きだったんですか……」

 なんとも滑稽なやりとりですが、何十年も共に生活をしてきているのに、いかにこの家族が向き合っていないか示されている会話でもあります。少し例を挙げただけでおわかりなように、登場人物それぞれが印象に残る特徴的な言動をするキャラクター性。しかしながら、「実際にこういう人いるよなぁ~」と思わせる人物像で、その現実感と奇妙さのバランスが絶妙なんです。

 そんなバラバラな家族のもとに、台風のようにやってくるのが家庭教師の吉本。吉本を演じる松田優作さんがまぁ凄い! 画面に現れたら食い入るように見てしまう、あの圧倒的な存在感の正体は一体なんでしょうか。

 沼田家の元へ現れる風変わりな男を演じるにあたって、もっと派手に存在感を示すような、別のアプローチもあると思うんです。ですがここで松田勇作さんが選んだのは、静かなる狂気。飄々とした様子で、声を荒らげたり表情を変えることなく、誰に対しても常に無愛想に話すので、何を考えているのか全く読めない。時に手を挙げ茂之をビンタする機敏さ。無表情での一瞬の暴力なので、「ひどい! 暴力振るうなんて!」と考える暇もなく、衝撃にただ驚く感情だけ生じます。そんな吉本を、周囲の人々も変人と思っていない様子で普通に振る舞っていて、確かに社会に溶け込んでいて。それがまたこの吉本という人物を際立たせています。変人を演じる場合、不敵な笑みを浮かべるだとか、変わった容姿をしていたりだとか、そういった表現で狂気を示しているキャラクターをよく見かけますが、この松田優作さん演じる変人が、最も恐ろしい変人なのではないでしょうか。しかしこのタイプの変人を演じきれる役者はきっと多くいないですし、この松田優作さんの右に出るものはきっといません。

 片手に植物図鑑を持ち、船に乗り海の上から沼田家にやってくる吉本ですがこれは、ゴジラが日本に上陸する場面をイメージしたそう。確かにそのイメージがとても当てはまっていて、吉本ゴジラが沼田家へ足を踏み入れどんどん破壊していくかのよう。しかしゴジラと言っても派手に暴れまわるわけではなく、粛々と心に侵略していくような印象を受けます。

 茂之の合格祝いの食卓を映した長回しシーンはもう圧巻。いつもの長テーブルに家族の真ん中に座った吉田は、少しずつ料理をぶちまけ食卓をグシャグシャに汚し、終いには家族全員に暴力を振るってテーブルごとひっくり返す。そしてコートをはためかせ悠々と去っていく。それはもうカオス状態。

 吉田が去った後、床に散らばった料理や食器の破片を片付ける様子は、初めて見る家族揃っての共同作業。ラストシーン、家にヘリコプターの音が鳴り響く中、眠る家族の様子で映画が終わる。ピリピリ鳴っててうるさかった家はどうやら静かになったようですが、さて、この家族は一体どうなったのか……何度観ても答えは分からぬままです。

 茂之の成績が上がったとか受験合格できたかとか、そのような物語の展開よりも、松田優作さん演じる吉田が何を仕出かすかと釘付けになり、校庭を引きの画で撮るカットや、背景にジェットコースターが映っている意味は何だろうとか、何故父親がいつも飲んでいる豆乳をここで吉田が飲むのだろうかとか、そういった演出の奇妙さに目がいってしまう。これもまたひとつの視聴者を引き込む演出だと感じました。誰も真似できない型破りなアイディアで、視聴者にインパクトを残す森田監督。恐るべし。是非この奇妙な世界観をお楽しみください!

  • 11/1 18:00
  • サイゾー

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