1兆円規模のコロナ補助金は抜け穴だらけ?タピオカや水素水の事業まで採択

財務省の矢野康治事務次官が「ばらまき合戦」と与野党のコロナ対策を月刊誌で批判したことが話題となったが、実は今、一般的にあまり知られていない巨額の補助金が交付され始めていた!

◆タピオカや水素水にNFT。採択された事業をチェック

 424万の事業者に総額5.5兆円という、前代未聞の規模となった持続化給付金は、不正受給による逮捕者も続出する事態となった。以後も家賃支援給付金や一時・月次支援金など、コロナ禍においては複数の経済支援策が打ち出されたが、今最もアツいといわれているのが「事業再構築補助金」だ。

 行政書士SAI法務事務所代表の上松功二郎氏が解説する。

「事業再構築補助金は、既存事業の経営資源や経験を生かしながら、社会的に意義のある新規ビジネスに挑戦する中小企業や小規模事業者を支援する制度。3月に第1回公募が開始され、間もなく4回目の公募が始まる予定です。補助額の上限は1億円と大きく、総額1兆円以上というケタ違いの予算が組まれていることも特徴です」

◆疑似科学・スピリチュアル系の事業者が採択

 第2回公募までに、事実上の補助金交付内定者にあたる「採択事業者」となった約1万7352者の事業計画については、事務局のHPで公開されている。しかし。それらに目を通すと、首をかしげたくなるような事業も少なくない。

 特に目に付くのが疑似科学・スピリチュアル系の事業者だ。例えばある県でパワーストーンの販売などを行う事業者は、肉体的・精神的な面でQOLを高めるという主旨のおぼろげな事業計画で採択されている。この事業者に問い合わせたところ、300万円を超える補助額が採択されていることが明らかになった。

 ほかにも水素水や酵素風呂など疑似科学と指摘されているもの、ブロックチェーンやNFTといった最先端技術を導入する事業が採択されているかと思えば、レンタカー事業者による「タピオカドリンク・フード店の新規出店」といった「なぜ今さら?」と思ってしまうような事業も採択されている。

 もちろんこれらの情報だけで、その事業への補助金投入の是非について判断することはできない。SPA!は今回、公表されている採択事業者のうち、約30の事業者に採択金額や事業計画について尋ねる質問状を送付したが、回答があったのは前出のスピリチュアル系事業者の一社のみだった。

◆「総事業費1億円」の謎

 一方で、別の取材ルートからある補助金採択事業の内部資料の入手に成功した。

「商店街空き店舗対策支援事業」と題されたこの資料の作成者は、四国地方の商店街組合などから活性化事業などを請け負っている民間企業M社だ。

 資料には、「店舗所有者と交渉し、空き店舗などを短期間での活用もできるよう調整し、チャレンジショップや交流スペースなどへの利用を促す」ことや「出店希望者と空き店舗所有者とのマッチングを支援するアプリを構築し、不動産事業者との連携などにより商店街内の空き店舗情報を集約して提供する」ことが事業計画の二本柱として掲げられている。総事業費は約1億円。うち5983万円はすでに事業再構築補助金が採択され、補助される予定だ。

 だが、地元紙記者はこう話す。

「いくら空き店舗が増えているとはいえ、店舗数400弱しかない商店街専用の不動産マッチングアプリをわざわざ開発する必要があるのか。空き店舗の不動産物件サイトに掲出すればいい話ではないか。仮にアプリを作るとしても、せいぜい数百万円でできるはず」

 SPA!がM社に総事業費の内訳について尋ねたところ、担当者は「かなり大きなプロジェクトであることは間違いない。詳細についてはこれから詰めるので、具体的にお答えできることはできない」と回答した。しかし、事業計画の詳細は補助金申請時に確定しているはずではないのか……。

◆「でき上がったものを見ると、金額に見合うとは思えず」

 前出の記者によると、このM社はほかにもさまざまな公的補助金を獲得した過去があるという。

「空き店舗支援事業は、市による別の補助金も2500万円獲得している。さらに過去には事業再構築補助金以外にも、商店街の歩道のタイルに屏風絵を埋め込む事業や免税カウンターの設置などを名目に1000万円単位の補助金を獲得している。しかしでき上がったものを見ると、金額に見合うとはどうしても思えず、地元では疑惑の声も出ているんです」

 1兆円超のコロナ対策事業の原資はもちろん税金だ。補助金の細かな使い道や事後検証などしっかりしてほしいものだ。

 中小企業庁の技術・経営革新課の担当者は言う。

「交付決定が行われてまだ4か月ということもあり、事業再構築補助金の交付事業でこれまでに不正申請などが判明したケースはありません。今後、明らかとなった場合はHPなどで事業者名を公開することになると思います」

 ところが、ある経産省関係者は「すでにいくつか不正が疑われる事業はある」と内情を明かす。

◆ブローカーも暗躍!仲間内で不正行為も

 持続化給付金同様、不正のスキームがあると証言するのは関東の建設業者だ。

「内装や建築などの工事を伴う事業では、繫がりのある複数の企業に、水増しさせた見積書や架空の相見積もりを作らせることで、総事業費を膨らませ、補助金を多く取ることは簡単にできます。3000万円未満なら金融機関による事業計画のチェックを受けなくてもいいので、こうした手口が一部で横行しているようです。

 さらに一部の悪徳な士業は、『事業計画をイチから作ってあげるから、採択されたら成功報酬を半分よこせ』とコロナに苦しむ中小企業に持ちかけるケースもよく耳にします」

◆むしろ大変なのは採択後?

 一方で、真剣に事業再構築に取り組む業者は別の問題を指摘する声もある。採択通知を受けた関東の不動産業者が話す。

「むしろ大変なのは採択後です。見積書を提出しなければならないのですが、アマゾンとか楽天などEC出品業者は見積書発行に応じてくれないのです。結果、見積書を発行してくれる高い業者から仕入れなければならなくなり、無駄遣いになる。こっちは少しでも安くしようと努力したのに変な話ですよ」

 前出の上松氏は「不正申請は言語道断」としながらもこう話す。

「事業再構築補助金は、コロナの影響で既存事業が深刻なダメージを受けていることが審査のポイントとなりますが、収益を上げ事業を拡大することで雇用創出や経済成長を促すことも事業者の使命として課されているのです」

 補助金制度に不埒な輩が触手を伸ばすのは世の常だが、これだけ巨額な財政出動が行われている以上、せめて景気刺激に繋がるものであってほしいものだ。

◆狙いは省益拡大と天下り先確保!?

「1兆円以上という予算規模も破格ですが、単年度で事業者に配りきる補助金としては異例です。しかも申請件数の5割という高採択率。補助金の大部分はIT化などの設備投資に使われることになりますが、恩恵を受けるのは経産省所管の企業。つまり省益拡大や天下り先の確保に繋がるのです」

 こう話すのは元経産官僚で政治アナリストの古賀茂明氏だ。

 同補助金を巡っては、申請のサポートを行う民間支援機関の一部が、補助金交付額の2割を報酬として徴収していたケースがわかり、問題視されている。

「かつて中小企業庁のあらゆる事業には、自民党の票田である商工会などの中小企業団体を絡めることが求められ、各種補助金の申請もこれらの団体を通して行われていました。しかし今の団体にその能力はなく、金融機関や税理士、行政書士、コンサル会社を使わざるを得ない。コンサル業者は報酬規定に関するルールもなく、やりたい放題の状態です」

◆第三者の検証が必須

 古賀氏はこう提言する。

「不正申請などについて厳罰を科すと同時に、この事業自体が、予算に合った効果があったのかを第三者が検証すべきです」

 税金が使われる以上、当然だ。

【政治アナリスト・古賀茂明氏】

’55年、長崎県生まれ。東大法学部卒業後、通産省(現・経産省)に入省。産業再生機構執行役員、内閣審議官を経て政治アナリストに。近著に『官邸の暴走』など

取材・文/奥窪優木

【奥窪優木】

1980年、愛媛県生まれ。上智大学経済学部卒。ニューヨーク市立大学中退後、中国に渡り、医療や知的財産権関連の社会問題を中心に現地取材を行う。2008年に帰国後は、週刊誌や月刊誌などに寄稿しながら、「国家の政策や国際的事象が末端の生活者やアングラ社会に与える影響」をテーマに地道な取材活動を行っている。2016年に他に先駆けて『週刊SPA!』誌上で問題提起した「外国人による公的医療保険の悪用問題」は国会でも議論の対象となり、健康保険法等の改正につながった。著書に『中国「猛毒食品」に殺される』(扶桑社刊)など。最新刊『ルポ 新型コロナ詐欺 ~経済対策200兆円に巣食う正体~』(扶桑社刊)発売

2021/11/1 8:53

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