村上春樹、スガシカオの魅力を語る「作詞家としても優れた人」

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作家・村上春樹さんがディスクジョッキーをつとめるTOKYO FMの特別番組「村上RADIO」(毎月最終日曜 19:00~19:55)。10月31日(日)の放送は、「村上RADIO Music in MURAKAMI ~村上作品に出てくる音楽2~」と題して、8月に放送した特集の第2弾をオンエア。全国から寄せられた「村上春樹の小説に出てくる音楽」のリクエストに応えて、村上さんが執筆した当時の話を思い出しながら解説していきました。

この記事では、収録中のつぶやきと、村上さんの長編小説『アフターダーク』、短編小説「木野」についてお話された概要をお届けします。


◆スガシカオ「バクダン・ジュース」

(愛知県 40代 女性)
『アフターダーク』に出てくる、スガシカオさんの「バクダン・ジュース」をお願いします。というのは、私は20代前半からスガシカオさんを知って、それ以降ミーハーなファンだからです。今も、よく聴きたくなって聴いています。

(三重県 50代 女性)
スガシカオさんの「バクダン・ジュース」どんな音楽なんだろうってすごく興味を持って、でも怖くてなかなか聴けなかった。(気に入らなかったら……と思うと怖かったのです。)でも数年後やっと聴いて、結果、現在スガマニアです。春樹さん、ステキな曲をありがとうございます。

『アフターダーク』に「バクダン・ジュース」が出てきましたっけ? どっかで出した覚えはあるんだけど、どこで出したかはわからなくなっていました。どんなところで出したっけなあ? でもとにかく『アフターダーク』って、ちょっと暗めのシュールな感じの小説なので、スガさんのこの歌の雰囲気はしっかり合っているかもしれませんね。

僕はこの「バクダン・ジュース」という曲の歌詞が好きなんです。何かストーリーはそこにあるんだけど、その話の内容は明らかにされない……みたいな世界が、彼の曲にはけっこう多いんです。そういうところ、いいですよね。作詞家としても優れた人です。一昨年、「村上JAM」にも来て、歌ってくれました。聴いてください。スガシカオ「バクダン・ジュース」。

* 

「セブンイレブン」の店内。高橋はトロンボーンのケースを肩にかつぎ、真剣な目つきで食料品を選んでいる。アパートの部屋に戻って眠り、目を覚ましたときに食べるためのものだ。店内にはほかに客の姿はない。天井のスピーカーからはスガシカオの『バクダン・ジュース』が流れている。

彼はプラスチックの容器に入ったツナサラダのサンドイッチを選び、それから牛乳のパックを手に取って、ほかのものと日付を見比べる。牛乳は彼の生活にとって大きな意味を持つ食品なのだ。どんな細かいこともおろそかにはできない。
(『アフター・ダーク』より)

◆Art Tatum「Louise」

次は短編小説「木野」のなかに出てきた曲をかけます。「木野」は、「ドライブ・マイ・カー」と同じく短編集『女のいない男たち』に収められていた作品です。これも暗くて、シュールな話です。暗くて、シュールな話――僕の場合けっこう多いかもね。僕は上田秋成(江戸時代後期の文人。「雨月物語」の作者)へのオマージュみたいな気持ちでこの小説を書きました。作者個人的にはけっこう好きな作品です。まあ、作者がどう思おうと、読者の皆さんの知ったことではないんですけど。

(静岡県 50代 会社員 男性)
「木野」に出てくるアート・テイタムのソロピアノのレコードをリクエストします。きっと、今の僕の気持ちに似合っているはずだから。

(岩手県、40代、専業主婦、女性)
短編集『女のいない男たち』のなかの5編目「木野」で、同名主人公が「木野」という自分の店のバーで聴くアート・テイタムのソロ・ピアノのレコードは、実際どのレコードだったのか? 興味があり、そのなかの曲をリクエストしたいと思います。曲はおまかせします。

僕は小説のなかで「アート・テイタムのソロ・ピアノ」と書いたんだけど、曲名までは考えませんでした。だから今考えます。うちのレコード棚にはアート・テイタムの古いソロ・アルバムだけでLP11枚もありました。けっこうたくさんありますね。えーと、何がいいかな? はい、これでいきます。僕の大好きな曲「ルイーズ」(Louise)、1954年の録音です。

* 

客がまったく来ない店で、木野は久しぶりに心ゆくまで音楽を聴き、読みたかった本を読んだ。乾いた地面が雨を受け入れるように、ごく自然に孤独と沈黙と寂寥を受け入れた。よくアート・テイタムのソロ・ピアノのレコードをかけた。その音楽は今の彼の気持ちに似合っていた。

誰かを幸福にすることもできず、むろん自分を幸福にすることもできない。だいたい幸福というのがどういうものなのか、木野にはうまく見定められなくなっていた。かろうじて彼にできるのは、そのように奥行きと重みを失った自分の心が、どこかにふらふらと移ろっていかないように、しっかりと繋ぎとめておく場所をこしらえておくくらいだった。「木野」という路地の奥の小さな酒場が、その具体的な場所になった。
(『女のいない男たち』所収「木野」より)

* 

<収録中のつぶやき>
ウラディミール・ホロヴィッツがアート・テイタムを聴きに行ったという話があるんだ。バージョンが2つあって、どちらがほんとかわからないんだけどね。1つはウラディミール・ホロヴィッツがアート・テイタムのピアノを聴きにいって、あまりのテクニックのすごさに感心し、驚愕して、もう1回聴きにいって、また聴きに行きたいと言ったという話。

もう1つは、素晴らしいけど、1回でもういいと言ったという話。どちらが本当かわからない(笑)。でもそのテクニックに驚愕したということは本当みたいですね。

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<番組概要>
番組名:村上RADIO Music in MURAKAMI~村上作品に出てくる音楽2~
放送局:TOKYO FM/JFN全国38局フルネット
放送日時:10月31日(日)19:00~19:55(※放送日時が異なる局があります)
パーソナリティ:村上春樹
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/murakamiradio/

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  • 10/31 21:30
  • TOKYO FM+

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