『ブルーピリオド』のように美術素人が高2から藝大を目指し現役合格した人はいるのか → 藝大受験のプロに聞いてみた

拡大画像を見る

2021年10月1日よりテレビアニメの放送も開始された人気漫画『ブルーピリオド』。この作品は美術に縁のなかった主人公が高2から、現役合格が超難関である東京藝術大学の受験に挑むところから始まる。

藝大を目指して繰り広げられる「スポ根」のような熱い物語を夢中になって読んだが、その一方でこうも思った。実際に高2から絵の勉強を始めて現役合格できるのか? めちゃくちゃ気になったので、藝大受験のプロに話を聞いてみた。

・事実は漫画よりも奇なり

『ブルーピリオド』の主人公・矢口八虎のように美術に全く縁のなかった人が突然美術の魅力に惹きつけられ、高2から藝大を目指す人は実際にいるのだろうか。そして、その中から現役合格を成し遂げた人はいたのだろうか。

そんな単純な疑問を、藝大・美大現役合格者総数10年連続No.1だという予備校『新宿美術学院』にぶつけてみた。『ブルーピリオド』に登場する予備校『東京美術学院』と同様の、藝大・美大受験に特化した予備校だ。

今回お話を伺ったのは、講師長として『新宿美術学院』の全科総合主任を務める阿部高治先生。先生自身も東京藝大大学院まで油画専攻で修了しているため、「あり得ないことを聞くな」と笑われるのでは、なんて思いながらも「美術に縁遠い高2が絵の勉強を始めて藝大に現役合格した事例、本当にありますか?」と直球で質問してみた。すると……

「いますよ! 全然います!」と余裕の笑みで返されてしまった。しかも……

「何なら、高3の夏からはじめて藝大現役合格する子もいますよ!」とのこと。高3の夏に運動系の部活を引退し、何かのきっかけで美術に興味を持ち始め、藝大受験に挑んで現役合格、なんて人もちらほらいるらしい。本当に!?

『ブルーピリオド』では藝大現役合格は実質倍率60倍とも200倍とも言われていたが、一体どういうことなのだろうか。1人いるかいないか、という話かと思っていたのに、あまりにも普通にいるっぽい反応。物凄い天才がいっぱいいた、という話なのだろうか。

阿部先生に詳しく聞いてみたところ、「実は(ブルーピリオドの主人公と同じ)油画専攻狙いなら、学びはじめたてでも現役合格は十分あり得る」とのことだった。東京藝大と一口に言っても当然、学科や専攻は多岐に渡る。その中でも油画専攻を目指すのであれば比較的、現役合格できる確率は高いという。

大学で習う画法や手法のある日本画専攻や彫刻科、商品として多くの人に受け入れられるものを作る必要のあるデザイン科志望では基礎力がかなり重視されるが、油画専攻は「100人のうち98人が嫌いでも、1〜2人が強烈に気に入れば良い」世界のため、基礎力がそれなりでも一発逆転があり得るんだそう。

例えば「デッサン」にしても、日本画専攻やデザイン科志望だと鉛筆で正確に形をとること・全体の印象を捉えること・完成度を上げることが求められる。彫刻科では立体的な構造感が出来ているかを特に重視され、木炭を描画材として、しっかり陰影をつけ存在感を表すことが大事なんだそう。どちらも高い基礎力が問われるものだ。

ところが油画専攻の場合、ある程度の基礎力はもちろん大事だが、最も重視されるのは背景や構図なども含めた「画作り」だそう。そのため、形の正確さなどよりも「画作り」そのものの力や「こだわり」を気に入られれば、合格出来る可能性が高いという。

前述の通り、油画専攻は「100人のうち98人が嫌いでも、1〜2人が強烈に気に入れば良い」世界。そのため、美術に縁遠かった学生さんが急に高3の夏から勉強を始めたとしても、その熱意や「こだわり」などが作品に現れ、そこを見込まれて現役合格することは十二分にあるとのことだった。

他にも、予備校での評価が低かったにも関わらず藝大の油画専攻に現役合格した、なんて事例も多くあるという。そうした番狂わせが最もよく起こるのが油画専攻なんだそう。

逆に、基礎力が高く絵が上手い、というだけでは評価されづらいのも油画専攻だという。何か強い「こだわり」が感じられないと基礎力が物凄く高くてもあっさり落とされてしまうらしい。「正解」のない、なかなか厳しい世界だ。

・なぜ藝大に行くのか

せっかくなので、自身も藝大出身という阿部先生に「なぜ藝大や美大に進学するのか」も聞いてみた。すると、「何となく漠然と進学する方もいる」とのこと。小さい頃から絵を描くのが好きで仕事にしたい! という方が多いと思っていたので意外すぎる。

もちろん芸術関係の仕事がしたくて進学する方や「自分の絵で世界を変えたい」という方もいるそうだが、「勉強は苦手だけど絵を描くのは好きだから」「会社などに縛られたくないから」という方も多いらしい。藝大志望でなくとも「縛られたくない」と言う方はよくいる気がするが、厳しい受験を超えてでも、という方はなかなかいないだろう。意志の強さを感じる。

他の有名美大ではなく藝大にこだわる受験生の場合、多くは学費の安さから選択しているそう。『ブルーピリオド』の主人公・八虎も学費の安さから藝大一本で受験しようと決めていたが、国立である東京藝大は私立美大よりも格段に学費が安いのだ。そこに惹かれる学生は多いという。

その他、藝大は日本における芸術関係の世界でブランド力が高いからという方もいれば、最近だと藝大は語学関係の支援や留学に関する支援が手厚く、海外進出を見越して志望する学生も増えているという。

入るのは難しいが、入学してからは大らかで自由度が高いところも魅力だという東京藝大。進学してからゆっくり自分のやりたいことや方向性を模索する時間が取れるのも貴重かつ魅力的なんだそう。

少子化や受験時期の変更により三浪四浪の末に入学する方は減ったというが、今後も魅力的な難関校として君臨し続けるのだろう。

・「こだわり」を磨こう

もし『ブルーピリオド』の八虎のようにド素人が急に藝大(油画専攻)へ進学したくなった場合、予備校へ通う前にしておいた方がいいことはあるのだろうか。これも阿部先生に聞いてみたところ「とにかく色んな絵を見て欲しい」とのことだった。

美術館へ行って実物を見るのでも、画集などで見るのでも良いので、とにかくたくさんの絵を見て、好みを把握していくのがオススメだという。これには特別な知識など必要なく、「なんか綺麗」「これはイマイチ」ぐらいの感覚でいいそう。しかし、物凄く大切なことらしい。

というのも、前述の通り油画専攻では「こだわり」などが重視されるため、自分が描きたいものの方向性を固めることが大切だからだという。基礎的な知識や技術は予備校で教えてもらえるため、とにかくこの「好みの把握」をガンガンやっておくのが吉だそう。

実態も漫画のように凄く、そして複雑だった藝大受験。志望先によっては基礎力の高低ですら受かるかどうかの判断材料になりづらいというのは、美術ド素人からすると博打のようにも思えてしまう。しかし、狭き門の先でしか見られない世界もあるのだろう。

なかなか厳しい世界に見えるが、もしド素人から挑戦するという方がいたら、是非とも陰ながら応援させて欲しい。あなたの作品を美術館で見る日が来ることを、勝手に楽しみにしています。

・今回訪問した施設の情報

施設名 『新宿美術学院』新宿校
住所 東京都新宿区西新宿3-16-6

参考リンク:『ブルーピリオド』公式ページ
執筆:伊達彩香
Photo:RocketNews24.

関連リンク

  • 10/31 18:00
  • ロケットニュース24

スポンサーリンク

記事の無断転載を禁じます