「維新、イラン!」を掲げる、大阪のから揚げ店主を直撃した

―[取材は愛]―

◆客商売の飲食店が、強烈な政治的主張

 それはほんの偶然だった。何気なく見ていたツイッターのある投稿が目を引いた。

「これ、凄いですね」

 見てみると、ほんとにスゴかった。

 店のガラス戸に貼られた張り紙に、大きく目立つ「維新、イラン!」の文字。その横に「美章園飲食店組合は 大阪維新の会を絶対に許しません」と書いてある。

 批判の言葉はよく目にするけど、「絶対に許しません」というのには揺るぎなき確信を感じさせる。でも客商売の飲食店が政治問題で発言するのはリスクが大きい。特定の政党を「支持する」というならまだしも、「許さない」とまで断言するとは。ましてここは大阪、維新の本拠地で根強い人気がある。一体どんなお店のどんな店主が掲げているのだろう?

 ツイッターでは店の看板や人を写していないので(おそらく配慮して)わからない。でも興味を持つ人は多いようだ。6000を超える「いいね」がつき、3000以上リツイートされている。記者心がうずいた。野次馬根性とも言う。これは行くしかない!

◆「アイツら、命が生まれてくる機会を奪っているからや。緊縮政策でな」

 さっそくその日(10月26日午後)、JR阪和線に乗り美章園駅に向かった。大阪市南部の阿倍野区にある。ここで降りるのは初めてだ。線路沿いに商店街を歩いていくと、あの張り紙がすぐ目についた。

「から揚げや まーちゃん」。店の奥で数人の店員さんがおいしそうなから揚げをジュウジュウ揚げている。お客さんがひっきりなしに訪れて「から揚げ5個ちょうだい」「皮せんべいも」。揚げるはしから次々に売れていく。商売繁盛のご様子だ。

 店主らしき男性に声をかけた。

「この張り紙ですけど」

「あ~これな。そのまんまやろ。維新はアカン、イランねん」

 店主は十倉雅宏さん(38歳)。店名の「まーちゃん」は雅宏という名前から付けた。ゴリゴリの保守を自任する。

「ワシは天皇主義者やからな。紀元節には毎年お祝いするんや。わかるか? 紀元節」

「建国記念日ですよね、2月11日」

 その“ガチ保守”で天皇主義者の十倉さんは、なぜ「維新が絶対に許せない」のか?

「それはな、アイツら、命が生まれてくる機会を奪っているからや。緊縮政策でな。あれのおかげでみんな生活苦しなって、子育てができへん、子どもが生まれてこんやろ。それは天皇陛下の赤子が生まれてこんようにしとるんと同じや。だから許せん」

◆「何もせんかったら、きっと後悔する」

「それにあのコロナ対策。死者数も給付金の遅れも大阪は全国ワーストばかりや。商店街の店はどこもブーブー言ってるで。だから維新はイランのや」

 力強く持論を語った。信念はよくわかるが、影響力の強い政党を飲食店が真正面から批判して、商売にさわりはしないか?

「何もせんかったら、きっと後悔する。ワシは後悔したくないんや。ゴリゴリの保守やからな」

 素晴らしい覚悟だが、飲食店組合の他のお店はどうなのだろう?

「それがあるからな、組合にどの店が入っているかは言えないんや。でも商店街の会長には話を通しとるで。商店街の名前を使わんのやったらまあしゃあないな、ということになっとるから、飲食店組合の名前にしとる」

◆若い子たちに、夢をかなえてほしい

 張り紙は先週から掲げているが、それで客足が落ちることはなく、むしろ伸びているという。だが十倉さんにとって、売り上げに響く別の要因があった。

「ワシは維新と巨人が大嫌いなんや。阪神ファンやからな。だから阪神の佐藤輝がホームランを打ったら、から揚げ半額というセールをやったんや。そしたらようけ打ってくれてなあ。まあそれはええんやけど、近くの高校の野球部の子らが、佐藤がホームラン打つと部活の終わりに大勢で押しかけてきてな。そらもう赤字やんか。でもまあええわ。若い子が腹いっぱいになるからな」

 十倉さんは若い頃、アメリカや中国に渡った。中国革命の父、孫文が設立した中国・広東の中山大学を卒業したそうだ。だから若者の応援をしたいという。

「あそこ(厨房)で働いてる若い2人な。すぐ近くの天王寺の辻調(辻調理師専門学校)に通っとるんや。そんで1人は海外で修業したい言うて、ここで働いて金をためとるんよ。ワシも若い時海外に出たから、あいつらにも夢をかなえてほしい。だから時給は1200円払ってる。最低賃金(大阪は992円)で人をよう使えんよ」

「維新、イラン!」の張り紙の主は、こんな心意気の持ち主でした。

文・写真/相澤冬樹

―[取材は愛]―

【相澤冬樹】

無所属記者。1987年にNHKに入局、大阪放送局の記者として森友報道に関するスクープを連発。2018年にNHKを退職。著書に『真実をつかむ 調べて聞いて書く技術』(角川新書)、『メディアの闇 「安倍官邸 VS.NHK」森友取材全真相』(文春文庫)、共著書に『私は真実が知りたい 夫が遺書で告発「森友」改ざんはなぜ?』(文藝春秋)など

2021/10/30 8:43

この記事のみんなのコメント

3
  • いち(

    10/30 12:51

    『ワシは維新と巨人が大嫌いなんや』スッゲーわかる~♪えーおっちゃんや。

  • 子沢山に反対しているのかなあ?

  • あきひろ

    10/30 11:47

    現状の小選挙区制では維新みたいな三番手の勢力は存在するだけで邪魔でしかないからね。

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