アポ無しで男の部屋を訪れた女。扉を開けた瞬間、見てしまった衝撃的な光景とは
エリートと結婚して優秀な遺伝子を残したい。
そう願う婚活女子は多い。そのなかでも、日本が誇る最高学府にこだわる女がいた。
― 結婚相手は、最高でも東大。最低でも東大。
彼女の名は、竜崎桜子(26)。これは『ミス・東大生ハンター』と呼ばれる女の物語である。
◆これまでのあらすじ
最高の遺伝子をゲットするため、東大卒と結婚することを夢見る桜子。サークル時代の同期・慶一郎にお願いして紹介してもらった東大卒男性は、あまりピンと来なかった。その一方で、サークルの先輩・タケルのことを思い出し、彼にもう一度アタックすることを考えたが…。
▶前回:「実は、俺」東大卒・キャリア官僚の秘密。週末、彼はスーツを脱ぎ捨て…
憧れの先輩は、実は…
「今だから言うんだけど…」
東大インカレサークル時代の同期女子会。美由紀が意味ありげに口を開いたとき、桜子はハラハラしながら次の言葉を待った。
― タケルさんのことで、まだ何かあるの…!?
桜子が大学時代にずっと憧れていた先輩・タケル。
そんな彼が聖心女子大の美女・玲香と水面下で交際を続け、既に結婚していたことを、桜子はつい先ほど知った。それだけでもショックなのに、この上さらなる新事実など、聞きたくなかった。
「私、昔タケルさんと付き合ってたんだ。1年生の夏ごろから1年くらい、かな。最後は玲香さんが本命だったことを知って、私から別れたんだけどね」
美由紀の告白に、桜子は言葉を失った。
― 1年生の夏…!?もしかして、美由紀と付き合ったから私は切られたってこと?
桜子も、ちょうどその時期にタケルとデートを重ねていた。しかし次第に、何かと理由をつけて避けられるようになったのだ。
美由紀が語る、“完璧すぎるお嬢様”の意外な一面とは…
完璧な女と完璧な男の正体
麻布高校出身のタケルは、東大工学部を経て工学系研究科を修了し、今は六本木の外銀で働いている。
実家は麹町にあり、金融業で財を成した家で、父親は現在、丸の内にある外資系証券会社の日本ヘッドという話を聞いたことがある。
その上、端正な顔立ちに誠実な人柄、まさに『完璧な男性』だと思っていた。さっきまで…。
「タケルさん、美由紀と並行してたのね。ひどい…」
低い声で桜子がつぶやくと、他の2人は激しくうなずく。
「本当!玲香さんに美由紀、2人と同時に付き合うなんて」
「美由紀、つらかったね」
口々に非難する彼女たちの声が、桜子の耳を通り過ぎていく。
― 玲香さんと付き合いながら、美由紀と1年も関係を続けるって、どういうこと…?
しかし美由紀は、さらなる衝撃の事実を告げる。
「私がタケルさんの二股を知ったのは、彼が一人暮らししていたマンションに忘れ物を取りに行った時に、玲香さんと遭遇したからなの。
合鍵で中に入ったら、彼はいなかったんだけど、キッチンで玲香さんがお料理してて。私、心臓が止まるかと思うくらいびっくりした」
桜子は地獄のようなその状況を想像して、絶句した。
「でも玲香さんは、全然動じてなかった。淡々と料理を続けながら『大丈夫よ、慣れてるから。なんだかんだで、最後は私のところ戻ってきて結婚さえできればいいかな』って言ってたわ」
美由紀の言葉を聞いて、別の友人が言う。
「まぁ、タケルさんみたいな完璧な東大生がモテるのは、当たり前だしね。ある程度は目をつぶっていたのかな」
桜子は驚きを隠せなかった。タケルの裏の顔はもちろん、玲香の態度も、彼女へ抱いていたイメージとかなりかけ離れていたのだ。
玲香といえば、小学校から聖心に通うお嬢様。実家は四谷の大地主だと聞いたことがある。お嬢様らしく楚々とした振る舞いの彼女は、壊れ物のように繊細な雰囲気が漂っていた。
そんなしたたかな一面を持っているなんて、誰が見ても想像さえできないだろう。
「でも玲香さんがもくろんだ通り、散々遊んだタケルさんも、最終的には玲香さんのところに落ち着いたんだものね」
アイスコーヒーを飲んでいた美由紀が、ストローから口を離し、ぽつりとつぶやいた。
「そうね。あの2人は、お似合いだと思うわ。いろんな意味で似た者同士っていうかさ…」
彼と1年も付き合った美由紀の言葉は重みがあり、その場はなんとなく静かになる。
― 玲香さんは結婚して、美人の美由紀は二番手とはいえ、タケルさんと1年も付き合った。 私は、数回遊ばれてポイ、か…。
明確に序列をつけられていたという事実を突きつけられ、桜子はなんとも言えない気持ちになる。
つい1時間ほど前まで、桜子は、完璧な男・タケルとの結婚もありかもなんて、浮き足立っていた。
しかし実際には、タケルは完璧どころか、とんでもない浮気男だった。しかも自分は、セカンドにさえ劣るポジションだったのだ。
色んな意味で人は収まるべきところに収まるのだ。非現実的なことを言っていないで現実的に相手を探さなきゃ。
それを知った今、改めて、男性を見る目の重要性に気づかされるような気持ちだった。
「私も、自分に合った人を見つけよう…」
がっくりとうなだれた桜子を、他の面々は不思議そうに眺めていたのだった。
失意の桜子のInstagramにコメントしてきた男の正体は…
Instagramにコメントしてきた男
帰り道。
日比谷線に乗り込み、シートに深く腰を下ろした瞬間、どっと疲労感が押し寄せてきた。
気を紛らそうと、スマホを取り出してInstagramを開く。女子会で撮影した写真に簡単なキャプションをつけ、手早く投稿した。
― SNSはそんなに好きじゃないけど、何かのキッカケになるかもしれないしね…。
社会に出て数年。普段は連絡を取ることもない友人たちと、SNSの投稿を機にコメント欄やDMで会話が始まり、デートやお食事会に発展することが何度かあった。
何気ない投稿が、思いがけない出会いにつながる可能性もある。桜子にとって、SNSはそのためにやっているようなものだ。
数分後、コメントがついたことを知らせる通知音が鳴った。中を確認した桜子は、思わず「えっ」と声を漏らす。
― 宏太からコメントがきてる…!!
『@konjac_kota:この4人、懐かしい!みなさま相変わらず綺麗で、何よりです』
コメントしてきた宏太は、同じくサークルの同期で、お互いのSNS投稿に気まぐれで『いいね』する程度の関係だ。
桜子は、彼のIDをタップしてプロフィールページに飛んだ。そこには、彼がこれまでに投稿した10枚の写真が表示されていた。
― 前に見た時と同じで、『年末の納会。今年もお世話になりました!』が最後の投稿か。年末といってもこれ、2019年末の投稿だけど…。
おしゃれな内装のオフィスでラフな服装の男女が肩を寄せ合い、仲睦まじそうに写真に納まっている。
その中央に、宏太はいた。彼が立ち上げたIT系の会社"Konjac"のロゴが入った旗を胸元で広げている。決して正統派イケメンではないが、弾けるような笑顔は自信に満ちていて、魅力的だ。
スマホが震え、LINE通知が表示された。
『慶一郎:お疲れ。昨日の拓哉との食事、どうだった?』
― あ、やばい。せっかく紹介してもらったのに、慶一郎にお礼の連絡ができてなかったわ。私としたことが…。
慌ててトークルームを開き返信する。
『桜子:昨日は拓哉さんを紹介してくれてありがとう。面白い人だったけど2回目はないかも…』
その瞬間、ぷしゅうと音がして、電車は中目黒駅に到着した。東横線へ乗り換えるため、桜子は電車から降りる。
ホームに出た瞬間、慶一郎からの返信がきた。
『慶一郎:そっか、拓哉はダメだったか。てか、インスタみたけど、宏太からコメントされてるじゃん(笑)あの時、桜子が宏太から他の男に乗り換えさえしなければな〜』
桜子は、既読をつけずにメッセージを確認すると、動揺を隠すようにスマホをバッグに押し込む。
宏太との思い出を振り返る時、桜子はいつも複雑な思いにとらわれるのだ。
桜子はかつて、宏太と付き合っていたことがある。
宏太は、群馬県立前橋高校出身。“前高”は名門高校ではあるものの、開成や筑駒、灘などの出身者が数多くいるなか、出身校ヒエラルキーでは下の方だった。
しかも、文Ⅲ入学の彼は物静かな性格で「なんだかパッとしない」というのがインカレ女子からの総評。
そんな、サークル内では評価が低かった彼と付き合っていることが引っかかって、最後は、桜子から別れを切り出したのだ。
当時はタケルのような人と付き合いたいと思っていた。でも今日、タケルの浮気話を聞いて、ますます「逃した魚は大きかったのかも」と思う桜子だった。
― あの頃の私に、もうちょっと見る目があれば、今ごろ宏太と結婚してたのかな…。
▶前回:「実は、俺」東大卒・キャリア官僚の秘密。週末、彼はスーツを脱ぎ捨て…
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宏太との過去を回想する桜子。2人の間に起きた出来事とは…?