世帯年収300万円と1000万円で「虫歯」にも格差。高額な歯科矯正を諦める親も
年収と健康には因果関係がある――近年、さまざまな研究によってそんな事実から明らかにされてきた。格差が広がる日本でも問題視され始めた「健康格差」が今、新型コロナの影響で深刻化している。残酷なまでに広がりだした“命の格差”の実態に追る。今回は1000人調査で判明した「歯」の格差。世帯年収300万円と1000万円での違いを比較する。
◆年収別「歯」の格差。高額な歯科矯正を諦める親も
年収による健康格差は「歯」にも表れる。世帯年収300万円以下の男女500人(40~59歳)と、世帯年収1000万円以上の男女500人(同)に実施した健康に関するアンケート結果でも、世帯年収300万円以下の層は1000万円以上に比べて虫歯や抜けた歯が多くなった。
Q。虫歯や抜けたまま放置している歯がどの程度ありますか?
※本数/年収300万円以下/年収1000万円以上の順
1本以下 71% 84%
2、3本 15% 10%
4、5本 5% 4%
数えきれない 9% 2%
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「虫歯の数は収入や家庭環境に左右されやすい」と話すのは、民医連歯科部長の岩下明夫氏だ。
「虫歯がひどくなればなるほど治療費も通院回数も増えます。しかし、収入はもちろん仕事が休めるかといった就労環境がダイレクトに影響するため、受診が難しいことも事実です。同様に、育った家庭環境の差も大きい。親が歯科に行く習慣がない家庭で育てば、子供も行くことは難しいでしょう」
◆歯は生活習慣の差も影響
また、生活習慣の差も影響する。
「低所得者の人のほうが安価でエネルギーを取れるような食事中心で、野菜が少なく糖質過多にりやすいことが言われています。ほかにも食事や睡眠の時間が毎日バラバラだったり、不規則な生活も虫歯になりやすい環境と言えます」
◆歯並びにも収入による差
さらに、虫歯だけでなく歯並びにも収入による差が生じるという。
「例えば子供の歯科矯正治療です。学校検診で治療が必要と診断されても、歯の矯正は保険が利かないため治療費が高額なので金銭面で諦めてしまうケースが多いです。今年、国会で子供の歯科矯正への保険適用の拡充に関する請願が採択されましたが、そうした声は多く聞かれます」
歯並びが悪いまま大人になれば、「口の中を見せたくない」と、話すのをためらう人もいるだろう。将来を左右しかねない問題なのだ。
※世帯年収による健康意識の差を調査。年収ごとに500人の40~59歳の男女(独身・既婚/就業形態は問わず/調査期間は9月3~8日)が解答
【岩下明夫氏】
全日本民医連副会長・歯科部長。所長を務める相互歯科では、無料低額診療も行っている。共著に『国保はどこへ向かうのか-再生への道をさぐる』(新日本出版社)
<取材・文/週刊SPA!編集部>
―[年収×健康 残酷な格差]―