Teams、Slack…チャットツールで「24時間仕事に拘束される」恐怖。現場で生まれた解決策とは

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 新型コロナウイルスの感染者数が劇的に減り、国民の過半数が2度のワクチン接種を終えた。いま、「ついに元の生活に戻れるのはないか」という期待感が高まっている。一方、コロナ禍で急速に進んだ仕事の「リモート化」をそのまま維持しようとする企業も少なくなく、「元の生活」と言っても、以前とはだいぶ違うライフスタイルをすでに確立しており、元には戻れないという人も多いだろう。

 そんななか、SNSだけでなく、新聞やテレビなどのメディアでも報じられるようになったのは「つながらない権利」なるキーワードである。

◆チャットツール普及で「仕事から逃れられない」「プライベートが無くなった」の声

 民放キー局の情報番組プロデューサーが「つながらない権利」について解説する。

「出社する必要がなくなり、自宅などで仕事をする人が増えましたが、欠かせないのが“チャットツール”を使った連絡手段です。マイクロソフトの『チームス』が代表的ですが、他にも『スラック』や『チャットワーク』を使う企業は多く、出社しているのと同様か、それ以上に効率的に他者とコミュニケーションが取れます」(民放キー局プロデューサー)

 これらのチャットツールでは、チャットだけではなくファイルの送受信や、ビデオ会議も簡単に行うことができることから「仕事がしやすくなった」と感じている人が多い反面、あまりにも円滑に、気軽に、そしていつでもどこでも連絡が取れてしまうことから「仕事から逃れられない」「プライベートが無くなった」と感じる人も少なくないという。

◆便利な反面、煩わしい特性

「SNS疲れならぬ、“チャット疲れ”とでもいいますか。取材をすると、何時以降は連絡を取らなくていいとか、土日はチャットを見なくてもいいとか、チャットやネットワークに“繋がっていなくてもいい”という独自の基準を設けている会社もありました。

 でも結局は、いつでもどこでも仕事ができるという便利だけど煩わしい『特性』はあるわけで、ほとんどの人が、以前に比べて仕事の拘束時間が増えていると感じています」(同)

 筆者も同様の「煩わしさ」を大いに感じている。深夜の3時に電話してくる編集者はいないが、深夜の3時にチャットをよこしてくる人間が増えたのだ。

 相手からすれば「お手すきの際に確認を」という認識なのだろうが、チャットツールのほとんどに、LINEのような「既読」マークがついてしまう。

 眠気まなこでチャットを見てしまったら、筆者が「確認した」ことがわかってしまうのだ。メールのように「気がつかなかった」などの言い訳は通らず、返信までに時間が経てば「不誠実」の印象を持たれることも必至である。

 チャットツールを活用している多くの会社員に取材しても、同じような悩みを持っている人が多かった。

 実際に「チャットツールを取り入れたクライアントから深夜に質問を受け、朝までに返信しなかったら『このプロジェクトで今はあなたがボトルネック(効率が悪くなる原因)になっている』と言われました。相手はクライアントとはいえ、勤務時間外なのに容赦がないです」(30代・IT企業勤務)というケースもある。

◆DMは「裏に呼ばれてこっそりの“無茶振り”と同じ」

 それぞれ「つながらない権利」の重要性を意識していたが「一番の解決策」と複数の人たちが声を揃えたのは、「ダイレクトメッセージの完全禁止」という手法であった。

 都内の保険代理店勤務・中嶋大介さん(仮名・30代)が語気を強める。

「テレワークになって、通勤時間がなくなり、業務外の面倒なコミュニケーションが減ったのは確かですが、四六時中チャットを見ていなければならず、皆が疲弊していました。そんな時、上司が打ち出したのが、ダイレクトメッセージの禁止です」(中嶋さん、以下同)

 チャットツールの機能として、特定のユーザーとだけやり取りができる「ダイレクトメッセージ(DM)」がある。これを禁止することで、社内のあらゆる問題が解決したというのだ。

「会社に通勤していたときもそうですが、上司からの“無茶振り”みたいな仕事の類は、皆の前では指示されず、裏に呼ばれてこっそりという感じでした。これが、チャットツールではDMなんですよ。DMだと、みんなの前では言いにくいことが言えるし、結果的にしなくていい仕事まで押し付けられるという問題が出てくる。DMの禁止で、まずこれがなくなりました」

 DM禁止令が出される以前は、上司から「相談」という形のDMが、休みだろうが深夜だろうがバンバン届き、すぐに対応しないと「上司の心証を悪くする」と渋々応じた結果、自身の担当外の仕事、時には上司の「雑用」まで行わなければならなかった。時にはチャットツールの使い方がわからないと、ビデオ会議の機能で何時間もレクチャーする羽目になることも。それがなくなり、格段にストレスも減ったのだと話す。

「DMと併せて、社員間の“直電”も減らすべきとなりました。DM禁止にしても電話を使われると結局同じということです。ただ、どうしてもという場合は、どんな用件でDMした、電話した、と全体チャットや部署チャットで報告する義務も設けられました」

◆仕事を口実にプライベートまで侵食してくる人たち

 DM禁止のメリットはそれだけではない。チャットツールを使うことで、仕事を口実に「セクハラ」をしてくる上司や社員が激減したと話すのは、大阪市内の不動産会社勤務・森口加奈子さん(仮名・30代)。

「話したこともないような別部署の人から、気持ち悪いメッセが届くようになり気が滅入っていました。チャットによって社員間の距離が縮まったことを逆手にとって、コロナが終わったらご飯に行こうとか言われるんです。一応上司だし、こちらとしては逆らえません。セクハラとパワハラがDMで横行していて、同僚の女性社員も悩んでいました」(森口さん、以下同)

 森口さんの会社でもDM禁止令が出て以降は、こうした悩みが完全に無くなった。プライベートに侵食してくるセクハラやパワハラまがいのDMを送った上司が、全体チャットで吊し上げられることもあったという。

「決まりは決まりですから、破った人はものすごく白い目で見られるんです。管理職からは、DM禁止に反発の声しか上がっていませんでしたけど、部下にとってみれば、こんなにありがたいことはない」

◆部下の愚痴や悪口が減った

 上司や管理職にとっては、ある意味で「デメリット」しかないようにも思えるが、うまくチャットツールを利用して、素晴らしい実績を上げる人たちもいる。

「スケジュールやタスク管理が、チャットツール上では本当に簡単にできますよ。DMなんかなくたって仕事はできます。あと、部下たちがサボりにくくなる、というメリットも感じています」

 都内の通販関連会社勤務・本山伸二さん(仮名・50代)も、チャットツールの導入と同時に、社員間でのDMを禁止した。体育会色が強く、上司の命令は「絶対」という風潮が会社にあったが、DMが禁止されて以降は、理不尽な命令に疲弊する部下が少なくなり、上司にとっても大きなメリットがあったという。

「DMで上司の悪口を言って盛り上がる部下がいなくなりました(笑)。そうした時間は無駄だったので、それが省けたのは大きいですよ。サボらせない、不満を増大させないということですね」(本山さん、以下同)

 仕事でおおっぴらに言えないことを「DM」で愚痴りあう、上司の悪口を言うというのもテレワーク体制に入ってからは平社員同士の定番だったかもしれない。

◆会社通勤に戻るのは「ナンセンス」の声

 コロナ禍に収束の兆しが見え、再び会社通勤に戻ることになったという人々も多いが……。

「ナンセンスです。コミュニケーションは対面で、というのは古い。我が社では、すでにオフィスを縮小し、浮いた経費を社員のテレワーク環境の整備費に還元しています。サービス業などは仕方ないとしても、これだけの仕組みがあるのに旧態依然としている会社に先はありません。そうした会社からは若者がいなくなっている現実もあります」

 冬にかけて「第6波」の到来を指摘する報道もあるが、再び「テレワーク」に戻った時、これらの仕組みを活用している企業とそうでない企業の差が明確に発現するのかもしれない。

<取材・文/山口準>

【山口準】
新聞、週刊誌、実話誌、テレビなどで経験を積んだ記者。社会問題やニュースの裏側などをネットメディアに寄稿する。

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