「大学院卒の博士」を素人呼ばわりする失礼な面接官と、それを生み出す社会のしくみ

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博士号持ちの研究者で、化学分析・リサーチ会社に勤めた経験もあるのに、転職の面接でいきなり「素人」呼ばわりされた佐藤翔太さん(仮名)。面接官に反論し、一矢報いた佐藤さんだが、それでも残念に思っていることがある。

それは、大学院での研究成果・経験を企業があまり評価しないことだ。新卒採用・終身雇用をベースに考えられてきた日本の雇用システムでは、大学院で研究をしてきた人、とくに博士号を取得した「ポスドク」のキャリアが難しいと言われている。

佐藤さんは「若手の技術者や研究者が先進国の中でもかなり冷遇されている状況を改善しないと、日本の未来はありません」と憂いを語る。

佐藤さん自身、大学で博士号を取得後、最初の就職で苦労したという。

「私が大学院を修了したのは2010年代前半、リーマンショック後の氷河期でした。70~80社面接して、学位授与式の2週間前にやっと内定をもらえた化学分析サービス会社が『ブラック企業』でした」

佐藤さんは続ける。

「いわゆる、『高学歴ワーキングプア問題』が叫ばれてから久しいですが、未だに根本的な解決に至らないのは悲しい限りです。企業は未だに新卒一括採用、年功序列にこだわるあまり、一部を除いて博士号取得者の採用に積極的ではありません。『学位に見合った能力がない』『論文は書けても仕事が出来るとは限らない』『専門以外は何もできない』『プライドだけは無駄に高い』などと言われますが、根本的な理由は『給与、昇進体型に当てはまらず企業側の負担が大きくなる』ということでしょう」

いまや学生であっても企業からの委託研究や論文発表、投稿をしていく時代。研究で培ったリサーチ力や分析力、表現力は、多少専門とズレた仕事でも応用可能だと佐藤さんは訴える。

「院卒はプライドが云々という話も、新しいやり方を提案する若手に、先輩や上司が『生意気だ』と感じているだけの場合も多いのではないかと思います。それよりも、業界歴が長いというだけで『俺はスゴイ』と高慢になって、初対面の相手を素人呼ばわりするほうが、『プライドが高くて残念な人』なのではないでしょうか」(同)

解決には、どんな方向性があるのだろうか?

「学位取得者を理解せず使いこなせない企業も問題ですが、大した目的もないのに惰性で大学院に進学したり留学する学生や、いい加減な基準で卒業、修了をさせる大学院も考え物です。前者については一生懸命やっているうちに目的が見つかる場合も勿論ありますが、『就活で有利だから』という理由だけで留学やボランティアに精を出す学生がいるのはちょっと考え物ですね。後者についてはSTAP細胞問題で学位を取り消された小保方晴子氏がいい例でしょう。大学の社会的役割の一つは『社会へ役立つ人材を育成すること=教育』ですので、卒業、修了の基準を厳しくするなどの措置も今後必要になってくるのではないでしょうか?」

「さらに、大学院重点化措置ばかりに目を向け、世間における高学歴者への理解の浸透と修了者の受け皿を拡充するよう努めなかった国にも責任があります。日本企業の多くは新卒一括採用、年功序列の風土が未だ残っており、大学院修了者、特に博士号取得者のイメージは未だに前時代的(漫画に登場するように変人でマニアック、企業になじめない)なものです。このような状況の中で、『大学院へはドンドン行ってください。でも、進路は自己責任ですよ』というのはあまりにも乱暴である気がします」

「応用的な先端研究についての助成金などのサポートは比較的多くなりましたが、基礎研究など実用技術に直結しにくいものについては冷遇が続いています。もちろん技術者、研究者のPR力も大事ですが、全ての基礎研究において応用の具体例の提示を求めるのは技術者、研究者にとってあまりに酷です。技術革新のスパンが短くなっているとはいえ、100年後、200年後という時間軸で考えないといけない研究も数多く存在します。私は専門外ですが、人文学系の学問などは特にそうでしょう」

佐藤さんはこう語っていた。ノーベル賞を受賞した真鍋淑郎氏が米国籍を選んだ理由は、こうした点と地続きでつながっているだろう。そろそろ企業だけでなく大学や国も含めて、社会全体として変化が必要な時期が来ているのではないか。

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