「なんなのこれ…」原宿に住む32歳専業主婦に、夫の裏の顔を確信させた恐ろしいモノの正体

夫は、こんな人だった―?

周りに相談しても、誰も信じてくれない。子どもと一緒に夫の機嫌を伺う日々…。

最近、こんなモラハラ夫に悩む妻が増えている。

有能で高収入な男性ほど、他人を支配しようとする傾向が強い。

優衣(32)も、経営者の夫が突然マンションを買った日から、徐々に自由を失っていく。

広告代理店ウーマンから、高級マンションという“籠”で飼い殺される専業主婦へ。

彼女が夫から逃げ出せる日はくるのだろうか―?

◆これまでのあらすじ

ママ友を家に招いた優衣。だが、途中で夫の雄二が帰宅。夫は寝室に篭り、LINEで早く帰ってもらえと優衣に無理を言う。お金、仕事、友達…優衣の生活から、ひとつひとつ大切なものが奪われていく。

▶前回:夫は本当は家族思いの優しい人。だから私が我慢すればいい。32歳専業妻の悲しい決意とは


2020年2月。

「優衣さん、ねぇ、優衣さんってば!」

義母が呼ぶ声にハッとして、優衣は顔を上げた。

「ごめんなさい、お義母さん。どうしました?」

義母は東京の息子宅に居心地の良さを感じているらしい。前回から1ヶ月と間を空けず、一昨日またやってきたのだった。

「ずいぶんぼーっとしてるのね。何かあったの?」

最近、気がつくと夫、雄二について考えてしまう優衣。なぜあんなに気分の浮き沈みが激しくなってしまったのかといった当初の疑問は依然として残ったままだ。

だが、今の優衣の悩みは、その原因よりも、どうすれば夫を怒らせずに生活ができるのか、という一点に尽きる。

「…すみません。そろそろ3時ですね。お菓子とお茶お出ししますね」

優衣は義母の問いかけをかわしてキッチンに向かい、義母の好きな瑞穂の豆大福に、温かい番茶を用意する。

この家に引っ越してくる以前は、お盆と正月以外はあまり密接に連絡を取り合うような関係ではなかったが、最近の優衣はむしろ義母が自宅に来ることを歓迎している。

なぜなら、義母がいると夫の機嫌がいいのだ。それに息子もおばあちゃんにべったりで、優衣があれこれ世話を焼く必要がない。

義母が家に来てくれれば、ヘアサロンなどにも出かけられる。

それに、義母は嫁の欠点を見つけてネチネチいびるようなよくある姑とは違い、あっけらかんと明るい人なのだ。

「あの、お義母さん…。ご意見を伺いたいのですが…」

優衣は思い切って、先日友達を家に呼んだ時のことを義母に話してみることにした。

日曜日の朝、妻はいつもと違う夫の様子に言葉を失う…

「そうねぇ。確かに、自分の大切にしているものを触られたら、嫌なんじゃない?特に子どもって物が壊れる加減を知らないからね」

義母は指についた豆大福の粉を払い、美味しそうにお茶をすすった。

「でも触らないで、とも言えないですし」

困った様子の優衣に義母が言う。

「優衣さんは触られたら嫌なものはあるかしら?」

「いえ、特には…」

そう答えながら、自分の大切にしているものを一つ一つ頭に思い浮かべてみる。

優衣はヘレンドやロイヤルコペンハーゲンの器を集めている。だが、割らないように気をつけて使って欲しいとは思うものの、触って欲しくないという気持ちはない。

「そうですね。触って欲しくないっていう気持ちを、私は理解していなかったかもしれないですね」

確かに義母の言うことは一理ある、と優衣は思った。

「雄二は小さい頃から小さな生き物や植物が好きでね、大事に育ててきたのよ。だから根は優しいの。優衣さんに悪気があって言ってるんじゃないからね」

一般的に母親というのは息子の肩を持つものだ。だが、悪気はないという義母の言葉を信じたかった。

「でも、雄二は小さいことで怒りすぎだから。明日千葉に戻る前に、私から注意しておくわね」

そんな義母の気遣いに、優衣は少し気持ちが楽になったのだった。




日曜日の朝。

普段より少し遅く目を覚ますと、寝室のドア越しに夫と雄斗の楽しそうな声が聞こえる。

優衣はベッドから起き上がり、リビングに行くと、すでに着替えを終えた雄斗がダイニングテーブルで朝食を食べていた。

― トーストにベーコンエッグ、バナナジュース…。これ作ったのって…。

優衣が呆然としていると、キッチンから雄二が出てきた。


「おはよう。優衣も食べる?」

朝起きて朝食が出来上がっていることに、優衣は何が起こっているのか理解できないまま立ち尽くしてしまった。

「う、うん。ありがとう」

すると、雄二が恥ずかしそうに言った。

「こないだ、お袋に言われたんだよね」

「えっ?」

優衣は思わず聞き返した。

「小さな子どもの世話をするのは、あなたが思っている以上に大変で、思うようにいかないことばかりだってね」

― お義母さん、本当に言ってくださったんだわ…。

思わず胸がじんわりと温かくなる。

「優衣さんにもっと優しくって怒られたよ。今まで本当にごめんね。仕事にかこつけていろいろやらせちゃって」

雄二が申し訳なさそうに謝った。

「ううん、全然気にしないで。朝食、美味しそう!」

優衣がテーブルにつくと、雄二が熱々のコーヒーを注いでくれた。

― お義母さんに怒られたくらいで、心底改心したとは思えないけど…。

わずかな懐疑心を押さえ込み、満面の笑みを浮かべる優衣。

「コーヒー、美味しい。日曜日の朝に、自分以外の人がいれたコーヒーが飲めるなんて」

すると優衣の様子をチラ見しながら、夫がある準備を始めたのだ。

夫の留守にあるものを見つけた妻。その中身に絶句する

「雄斗、上着を着ておいで。公園で遊んでから国連前のファーマーズマーケットに行こう」

雄二は自分もヘルノのダウンを羽織り、長財布をパンツの後ろポケットに突っ込んだ。

「え、私、まだ準備が…」

慌ててコーヒーを飲み干す優衣を見て雄二が笑う。

「優衣はいいよ。ゆっくりしてて。お昼過ぎまで雄斗とぶらぶらしてくるよ。ランチはいらないよ」

― ゆっくりしてて、って今言ったよね??

動揺を隠せない優衣に、雄二が言う。

「だから、反省したんだって!」

夫の口からいきなり飛び出してきた反省の2文字。

一転した夫の態度を見て、優衣は少し怪しさを感じてしまうほどだった。

「あの、ありがとう…いつも忙しいのに気を使ってくれて…」

優衣は警戒しながらも感謝を伝える。

「まったく、優衣は大げさだなあ。こんなことで」

優衣の頭をポンポンすると、雄斗を抱きあげリビングから出て行ってしまった。

突如訪れた一人きりの日曜日。結局、何をしてよいのかわからない。

― シーツの洗濯でもしようかな。

寝室に向かい、ベッドからシーツやピローカバーを外していく。すると、パタンと床に何かが落ちた。

― ノート?

見るといつも雄二が持ち歩いているボッテガ・ヴェネタのノートのようだ。雄二はiPhoneでスケジュールを管理する以外は、ほぼこのノートに忘れてはならないもろもろを書き留めているようだった。

夫婦といえどもスマホはこっそり見てはいけないものだと優衣は思っている。

たとえやましいことがなかったとしても、友達との約束やLINEは夫に見られたくない。そういう気持ちから夫のスマホが置きっぱなしになっていたとしても、決して覗き見ることはない。

しかし、ノートはスマホのようにロックもなく、無防備にどこかのページを広げたまま、床に落ちていた。

優衣はノートを拾い上げ、パラパラとめくってみる。

ノートの中ほどに、最後に書かれたであろう昨日の日付と、雄二の字で走り書きがあった。

富岡 クビ
根岸 クビ
狭山 バイトに降格
佐藤 すぐ顔に出る、頭が悪い

中途採用で穴埋め。女性を積極採用。週明け求人媒体に募集を出す。向いてない社員、入れ替える。

― これ?雄二の会社の社員さんのこと?クビって一体…。

これまでなるべくお互いの仕事には関与してこなかった。たまに、お互いの会社の人間関係や、取り組んでいることを世間話程度に話すくらいだ。

だが、この走り書きを見た限りでは雄二の会社に良い人材が定着しているようには思えない。

― もしかして会社の人たちにも…私と同じように?まさかね…。

優衣はノートを閉じ、ベッドサイドのテーブルの上にそっと置いた。



お昼を少しまわった頃、2人がたくさんの荷物を携え、帰ってきた。

優衣が玄関で出迎える。キディランドで欲しかった玩具を買ってもらい、雄斗はご機嫌だ。

「今日はありがとう。おかげでゆっくりできたわ」

「いや、このくらい全然構わないよ」

雄二はマーケットで買ってきたフルーツと、雄斗のチャイルドシートを玄関に置いた。

「あら?チャイルドシート、どうしたの?歩いて行ったんでしょう?」

優衣が尋ねた時、雄二は一瞬、表情をこわばらせたように見えた。

「歩いて行ったよ。今日これから、社員何人かと出かけるからついでに外したんだ。乗りきれないからね」

そう言うと、着替えをするのか、夫は寝室に入って行った。

― ノートにあんな評価を書くくらいの社員たちと、普通一緒に出かける…?

優衣は、夫の行動に不信感を募らせる。

「ねえ、優衣」

しばらくして、寝室から夫が呼ぶ声がした。

「うん、どうしたの?」


優衣が呼ばれたほうに行くと、雄二はシャツのボタンを締め、ジャケットを羽織ろうとしているところだった。

「このノート、どこにあったの?」

無表情で尋ねる夫。その横顔にひやりと冷たいものを感じ、優衣は何も知らないふりをして答えた。

「ベッドサイドに落ちてたの。あなたのノート?」

すると雄二は無言のまま、ホッとした様子でノートをバッグに押し込んだ。

「行ってくるね。今日は帰り遅いから、先に寝てていいよ」

そう言うと、雄二はいそいそと靴を履く。

「ええ、いってらっしゃい」

パタン、とドアが閉まり、扉の向こうの足音が遠のいていく。優衣の中に残ったのは夫への懐疑心だ。

― 浮気…とか?

今朝の夫の優しさには、出かける理由を悟られないようにするためだったとしたら。外されたチャイルドシート、あのノートの走り書き…。

怒りっぽく、起伏の激しいあの姿こそが、きっと夫の本来の姿なのだと優衣は思った。さっきまでの夫は、羊の皮を被っていたに過ぎないのだ。

おさまる気配のない胸騒ぎ。優衣はただただ不安だった。


▶前回:夫は本当は家族思いの優しい人。だから私が我慢すればいい。32歳専業妻の悲しい決意とは

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夫への不信感を拭えない優衣。ある時、街で1人の男性に声をかけられ…

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