35歳以上のミドル転職で失敗する人の特徴。“対策”や“コツ”はあるのか

 長引くコロナ禍の環境変化において、改めて自分の働き方やキャリアについて考え直している人も多いはず。“コロナ転職”という言葉が注目を集めているが、「35歳」以上の中年ともなれば、若い頃よりも慎重にならざるを得ない。役職に就いたり、大きなプロジェクトを任せられたりする同世代もいるなか、焦燥感は募る一方だ。

 今回は、キャリア相談サービスなどを展開する株式会社UZUZの専務取締役・川畑翔太郎氏に、ミドル世代の転職で明暗を分けるポイントは何なのか話を聞いた。

◆30代の“逃げの転職”、残された道は不人気分野

 年齢的にラストチャンスかもしれない転職において、厳しい現実があることは想像にかたくない。とはいえ、20代だけではなく、30代からの転職相談が寄せられることも少なくないという川畑氏。

 それぞれで状況が異なることから「一般化しにくい」ことを前置きしたうえで、ミドル世代の転職が成功するポイントを次のように話す。

「そもそも20代と30代では転職活動の戦略が全く異なります。若者ならば、未経験分野でゼロからスタートする“リセット転職”もできますが、ミドル世代の場合は基本的に、“今までの仕事の成果やスキルを次の会社に持ち越す転職”の一択となります。

 長い仕事人生で考えると、確かに35歳、40歳って、まだまだ先が長いのですが、その年代から未経験でも入れるような仕事は不人気分野のみと考えたほうがいいです」

◆積み上げてきた“キャリア資産”は捨てないほうがいい

 もちろん、転職の成功、失敗は「年収」だけでは決まらない。転職の動機や新しい職場に求める条件は人によってさまざまである。しかし、35歳以上で「未経験の仕事」を目指そうとすると、募集自体が少ないうえに、年収の大幅減の覚悟は必要だ。

「これまでの業務内容を大きく変えるような転職では、選択肢が明らかに狭まります。年収も生活水準も20代前半の水準まで下がってもいいのか。35歳以上のライフステージを考えると、年収が下がることはなかなか受け入れられない。なので、未経験職種への転職となった場合、待遇面などの『現状維持』は難しいと言わざるをえません。

 せっかく積み上げてきた“キャリア資産”なのに、テキトーに捨ててしまうような転職をする方が意外と多いんですが、収入面を考えると基本的におすすめはしません」

 子育てや住宅ローンなど、出費のかさむミドル世代が転職で後悔しないためには、過去に積み上げてきたキャリア資産をいたずらに目減りさせないことがポイントだという。

◆いまの“不満”が転職で解消されるのか

「転職のほとんどは今の仕事、職場への不満が発端となり、その状況を変えるために行うケースがほとんどです。しかし、転職するということは仕事や職場が変わるため、新たな人間関係や仕事への適性など、様々なリスクも生じます。なので、「不満を解消するリターン」と「環境が変わるリスク」を天秤にかけ、リターンの方が多ければ転職はアリです。ただ、いまの職場が不満でなんとなく転職したいという場合、その不満が転職によって本当に解消できるものなのかは、冷静に考えるべきですね。

 もしも転職で解消されない不満なら、転職することは「無駄なリスク」をとるだけになります。キャリア資産が目減りしたり、新しい環境とのミスマッチとなるリスクを犯していいのは、それ以上にリターンが大きい場合だけなんです」

◆オンラインの時代、未経験からIT業界を目指す人も多いが…

 現在はコロナ禍でリモートワークで働ける仕事が増えた。将来を見据えて、未経験からIT業界を志望する人たちも少なくないという。プログラミングなどを学べるITスクールも人気のようだが、30代で転職は可能なのか。

 川畑氏は、「実務未経験者が30代でIT業界に転職するのは厳しい」と指摘する。

「企業にヒアリングすると、ほぼすべての会社が30代未経験者の採用には難色を示します。転職希望者が高学歴でも『30代で学歴が高くても…』という反応が返ってきます。ファーストキャリアが大企業だったとしても、その社格も30代ではあまり通用しません。結局、30代の人材に求めているのは即戦力となれるかどうかなのです」

 20代の転職とは異なり、学歴や社格といった“ステータス”は価値を持たなくなる。何よりも職業人としての“実績”をシビアに見られてしまうのだ。

◆IT業界の中では「ITインフラ系」が狙い目

 ただ、そんなIT分野のなかでも狙い目があるという。

「ネットワークやサーバーにかかわる“ITインフラ系”は人手不足です。“資格持ち”なら35歳まで実務未経験でも採用される風潮となっています。資格の取得が採用条件となっている背景としては、資格を持っていた方が入社後の教育コストが下がるだけでなく、配属がしやすいというメリットが採用企業側にはあります。また、資格を取得している人の場合、未経験分野にチャレンジしようとする本気度も伝わり、企業の評価も上がります。

 ITインフラ系は知名度が低く、業務イメージが掴みづらいため、スクールなどで受講生が集まりにくく、IT転職の選択肢としてはマイナーではありますが、実際に転職ができる分野としては“狙い目”だと言えます。

 それ以外の分野では、ビルメン(ビルメンテナンス)や施工管理、警備スタッフなども常に人手不足で、仕事として安定していることからコロナ禍でも積極的に採用しています」

◆「職種ではなく“業種だけ”を変える」転職であれば、年収アップの可能性も

 では、これまでの経験やスキルを活かす方向で、より年収の高い会社へ転職したい場合に大切なことは何か。川畑氏は、給与水準を決める要素は3つだと解説する。

「年収が上がる転職の要素は『収益性の高いビジネスモデル』『希少性』『業界内のトップ企業』の3つです。

 手っ取り早く年収を上げるには、職種ではなく“業種だけ”を変えることです。給与水準はほぼ業種で決まります。「業種≒ビジネスモデル」で、高収益なビジネスモデルの業種であれば年収水準は高く、その逆だと低くなります。ですので、キャリア資産を引き継ぐためにも職種は変えずに、より収益性の高いビジネスモデルの業種へ転職することが重要です。

 また、『自分と同じスキルを持っている人が少ない』と、希少性が高い人材として重宝されるため、年収も上がりやすくなります。下手に同業の競合他社に転職して、同じような経歴、スキルのライバルとしのぎを削るよりも、希少価値が上がるような環境で働いた方が年収も上がりますし、その分野のエースとして職場で活躍できます

 最後の要素は、その業界での会社のランキング。同じマーケットでも、トップシェアに近ければ近いほど、一般的には収益も上がっていて、年収も高くなります」

 いずれにせよ、業務内容はなるべく変えずにキャリア資産を目減りさせないことがミドル転職における年収アップの前提となる。

◆企業側は成果を“運んで”きてくれる人がほしい

「そもそもキャリアって“運ぶ”という意味ですからね。大学や過去の会社の看板は転職先に持っていけません。それまで自分が培ってきたスキル・経験・実績・人脈がものを言う。

 要するに企業側は、自社に“成果”を運べる人がほしいだけなんです。

 その人の過去の成果につながった要素と、自社で求めているポジションとの共通点を見極め、実際にどの程度の成果が期待できるかで採用の可否を判断しているんです」

◆転職の前に今の仕事を見直してみる

 とはいえ、今いる会社でキャリアアップにつながりやすい仕事に取り組めている人ばかりではないはず。むしろ「なんとなく転職したい」という人ほど、不満を抱えながら労働集約的な業務に追われているケースも多そうだが……。

「積極的に手を挙げて新しい業務をやるのは面倒臭いと思います。必ずしも今の会社で身を粉にして働けという話ではありませんが、『仕事量』と『キャリア(年収)』の間にはある程度トレードオフの関係があります。仕事量を一定まで増やさないと、キャリアも強くならないし、年収も上がらないんです。

 仕事って、筋トレに似ていると思っていて。日々の業務を通して自分がどんなスキルを鍛えているのか意識したほうが伸びやすい。表計算の関数をいじったり、自動化するツールを調べて導入したり、小さなレベルの工夫を積み重ねていくことが実は大切です。自分なりに効率化を図って、空いた時間で自分にとってプラスになりそうな業務に取り組んでいくという流れが理想ですね」

 35歳以上の転職は、さまざまな障壁があることを理解しておかねばならないだろう。社内には日々たくさんの仕事がある。それをいつも通りのやり方で漫然とこなすのではなく、意識を変えてみれば、何か糸口が見える可能性もある。あるいは、今の会社で新たなやりがいが見つかり、転職なんて考える必要もなくなるのかもしれない。

株式会社UZUZ 専務取締役・川畑翔太郎氏】

1986年生まれ、鹿児島出身。高校卒業後、九州大学にて機械航空工学を専攻。大学卒業後、住宅設備メーカーINAX(現・LIXIL)に入社。1年目からキッチン・洗面化粧台の商品開発に携わるも、3年目に製造へ異動し、毎日ロボットと作業スピードを競い合う日々を送る。高校の同級生の誘いと自身のキャリアチェンジのため、「UZUZ」立ち上げに参画。第二新卒・既卒・フリーターといった20代若者への就業支援実績は累計2,000名を超える。

就活メディア:「第二の就活」

Twitter:@kawabata_career

YouTube:「UZUZ就活チャンネル」

キャリア相談サービス:「ニューキャリア」

<取材・文/伊藤綾>

【伊藤綾】

1988年生まれ道東出身。いろんな識者にお話を伺ったり、イベントにお邪魔するのが好き。SPA!やサイゾー、マイナビニュース、キャリコネニュースなどで執筆中。毎月1日に映画館で映画を観る会"一日会"(@tsuitachiii)主催。

2021/10/25 8:53

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