日本の管理職に足りないITスキルとは?「業務効率化だけがITじゃない」

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―[あの企業の意外なミライ]―

◆データを扱える人材が不足している

 日本のIT人材不足について課題感が叫ばれています。データ量が増える一方で、日本は人口が減少していきます。ネットで完結するビジネスがどんどん増え始めている中で、データでしか状態がわからない状況が増えていく一方です。データで物事を判断する時代にあって、データを扱うことができなければ、正しい判断ができなくなります。間違った意思決定をしてしまえば、ただでさえ、低い生産性がもっと低くなってしまう、恐ろしい現実が待っています。

 日本はDX化を成功させて、これから成長できるのでしょうか。データ人材を育てる「教育」にも力を入れているブレインパッドの草野社長に日本の未来を伺います。

◆ゼロサムが始まるにはまだ早い

馬渕:ブレインパッドは、コンサルティング、人材支援、システム開発、プロダクトの提供といった、データのプランニングから実装までを幅広く手掛けています。日本でもIT化、DXの言葉が馴染みのあるものになりました。これからの「データ活用のマーケット」はどうなっていきますか。

草野:まだまだこれからですよ。日本全体でもっとマーケットが拡大しないと駄目なんです。ゼロサム競争が始まるには、まだ早いと思っています。実際、大企業が本腰入れ始めると全く人が足りないです。企業も人材の配置転換をしていくべきです。「リスキリング」です。

馬渕:「リスキリング」と言うと?

草野:デジタル化によるビジネス環境の変化に対応して、業務で役立つデジタルスキルや知識を習得してもらう取り組みのことです。リスキリングの対象として、データ分析のスキルを身につけることは、大きな意味があります。

馬渕:何歳からでも身につけられるものなんですか。

草野:高度なスキルの場合は、数学の知識必要になったりするので確かにハードルが上がります。でも、IT専門部署以外のマネジャーレベルはそこまで必要ではないと思います。逆に彼らはビジネスのことを理解しているので、データ見て現場に指示を出せる。このレベルのデータスキルはこれからもっと必要になってきますし、身につけられます。

馬渕:マネジャークラスには、ほぼ全員データ活用のスキルは必要だと思います。

草野:そうです。実際には自ら分析はしなくても、どういう指示を出せばいいのかマネージャができるようになれば。判断が早いですし、企業の成長、効率化も加速します。

◆DX、ITも根本は「教育」

馬渕:だからこそ、教育の側面にも力を入れている?

草野:おっしゃる通りです。アサヒグループホールディングスでは、DX戦略の要となる、データ活用人材を育てていく必要があると考えておられます。ブレインパッドでは、ビジネスとデータ分析をつなぐ「ビジネス・アナリスト」の育成プログラムをアサヒグループホールディングスに提供しています。

馬渕:単に、DXツールを提供するだけではなく、企業の人材までも育ててしまう。ちょっと、人が良すぎませんか。

草野:人材を育ててしまえば、ブレインパッドの仕事がなくならないか?って心配ですよね。

馬渕:はい。

草野:日本は残念ながら、そのレベルにないです。圧倒的にデータ活用人材の数が足りてないので、企業側に理解いただいた方が、我々の提供している価値と難しさを理解してもらえる。

◆アメリカと日本の差とは

馬渕:確かに、価値を理解してもらえないと値段も適正に把握してもらえない。

草野:そうです。かなり、極端な例を出せば、すごい味音痴の人に、最高級のマグロなんですって言っても。「へえ、マグロはマグロでしょう。冷凍マグロを100円で売ってたよ」とか言われると。「いや、わかんないかな…」となってしまうでしょう(笑)

馬渕:そんなことが、データの分野で起きているとすれば、恐ろしいですね。

草野:そこまで、最悪のケースはほとんどありませんが。それでも、日本全体の底上げが必要であることは間違いありません。ですから、データを扱える企業人材を育てるサポートにはこれからも力を入れていきます。

馬渕:アメリカと比べてどうでしょう。

草野:日本はITのシステムを外注して作るものになっていますが、アメリカは内製化しています。現代において、ITシステムは付加価値を生む領域です。外部に委託すれば、開発ノウハウや狙っている戦略も漏れやすくなるうえ、コストや時間もかかります。ですから、アメリカ企業は内製化を志向するのです。

馬渕:なぜ、こんなに海外との差が生まれたのでしょうか。

草野:日本は主に「守りのIT」で、企業の中の業務効率性のためにITを使っています。一方で、アメリカは、それは当然として、「攻めのIT」としてお客さんへの便利なサービスを提供するためにも使っています。ビジネスにおけるITの重要性に関する認識の違いではないでしょうか?

◆「りそな」との取り組みで、2倍の成果

馬渕:かなり反響のあったりそなホールディングスとの取り込みは、DXの伴走者としてサポートしているそうですね。

草野:これも、人材教育の考え方が根底にあります。りそなHDがデジタルトランスフォーメーション(DX)を牽引する「データサイエンス室」を社内に立上げました。この立ち上げ自体を支援しつつ、伴走者としてブレインパッドの専門性を活かした受託分析業務も実施しています。

馬渕:ブレインパッドの伴走で、どんな効果が出ましたか。

草野:両者で取り組んだ金融商品の販売促進施策では、金融商品の購入率が2倍に向上するなどの成果が生まれています。

◆データ活用こそ、サスティナブルを担う

馬渕:草野さんは、ずいぶん前から「持続可能な社会」について関心が高かったそうですね。

草野:1972年に『成長の限界』(ローマ・クラブ「人類の危機」レポート)という有名なレポートが出ているのですが、要は、このままいくと、世界は成長できなくなるという予測です。これが私が大学生の頃にも話題になっていて、その頃から、サスティナビリティに関心がありました。

馬渕:今でこそ、脱成長という議論が出てきていますね。

草野:人間は豊かさをなかなか手放せないものですよね。今、享受している豊さをできるだけ損なわない形でも、持続可能性を高められる方法が「無駄を減らす」ことです。

馬渕:そこに、データ活用が生かされているわけですね。

草野:何がどれだけ、どこで無駄になっているかを把握しないと無駄は減らせません。そういう意味でも、まずキチンとデータを正しく把握する必要があります。本当に必要な量を明らかにすることで、輸入量や生産量をコントロールできます。また、運送でも効率化を進めることができます。配送のルートを最適化とすると、一番エネルギーロスが少ない形でその物を届けることができます。最適な資源の配分はデータ活用でできるのです。

馬渕:なるほど。

草野:脱成長とかいろいろな議論はもちろんあるけれど、人間が豊かさを何か損なわない範囲の中で無駄を徹底的に減らすっていうことがまず必要です。そこで、ブレインパッドができることはまだまだあります。

馬渕:日本企業の置かれている実態の経済と向き合っているからこその真の意見ですね。

◆コロナによる「DX特需」の次は?

馬渕:業績はコロナの影響はありましたか。

草野:お客様の中で、ダイレクトにコロナの影響を受けた業界がありました。BtoBビジネスなので、エンタメ、旅行、人材等の影響は我々も受けました。しかし、2021年6月期の下期では受注活動は完全に回復しており、従来の成長路線に戻っています。年20%前後の売上成長をしばらく続けていきたいと考えています。

馬渕:22年度も売上高85億円(前期比19.7%増)、経常利益10.8億円(同22.3%増)と好成長の見通しとなってますよね。中期経営計画の見通しはいかがでしょう。

草野:中期経営計画は23年に売上高115億円、経常利益20億円を達成したいというものです。この数字を達成するには年率20%成長を続けても少し足りないです。現状のオーガニックな成長だけで大きな難しいので、この先、少しテコ入れしていく必要があります。

馬渕:DX、ITの業界でも、企業によって成長のフェーズがあるように思っています。

草野:そうですね。今は割と簡単なDX、単なるデジタル化やリモート化が進んでいます。その結果、今後、色んなところでデータが取れるようになってきます。ですから、本格的にデータ分析の需要が増えてくるのはこれからです。

◆草野社長の描く10年後の未来

馬渕:コロナで特需が起きたIT分野がありますが、ブレインパッドのデータ分析は特に今からのフェーズに長く強そうですね。

草野:我々はIT化、DX化の土壌が整った、今からのフェーズがメインです。ITの中でもちょっと遅れてくるセグメントです。需要の増加に伴って、採用を加速させていきます。さらに、外部のパートナーとの連携をもっと上手く活用します。いいご縁があれば、M&Aで人材の確保も考えています。

馬渕:最後に、草野社長の描く、10年後の未来を教えてください。

草野:日本の役に立つことをやりたいと思い創業しています。ブレインパッドが大きくなることも大事ですが、日本の企業が強くなること=日本が元気になることが大切だと思っています。既にある日本の大企業が振る舞いを変えてビジネスを伸ばした方が社会的インパクトが大きいという仮説のもとにBtoBの「裏方ビジネス」をやっているんです。ぜひそこの部分をやりきりたいなと思っています。

馬渕:専門家の中でも「大企業の強化」が日本を強くするという議論があります。

草野:10年というスパンで頑張れば、日本の弱みだったとこころを克服して、日本の新しい価値を世界に発信できるようになると思います。若い世代が自信持てる、未来に希望を持てる状況にしたと思っています。

馬渕:ありがとうございました。

草野 隆史氏
東京都出身、1997年慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了後、日本サン・マイクロシステムズ(現日本オラクル)入社、2004年ブレインパッドを設立し代表取締役社長に就任。一般社団法人データサイエンティスト協会の代表理事も務める。

<取材・文/馬渕磨理子 撮影/林 鉱輝>

―[あの企業の意外なミライ]―

【馬渕磨理子】
経済アナリスト/認定テクニカルアナリスト、(株)フィスコ企業リサーチレポーター。日本株の個別銘柄を各メディアで執筆。また、ベンチャー企業の(株)日本クラウドキャピタルでマーケティングを行う。Twitter@marikomabuchi

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