HBO『ホワイト・ロータス』搾取する側される側双方クズが織りなす風刺が痛快!

 抜けるような青空、どこまでも続く青い海。ここは南国の楽園ハワイ。高級リゾートホテル「ホワイト・ロータス」で休暇を楽しもうとする旅行客と、彼らをもてなす従業員たち。夢のような光景の下には、どす黒い現実が横たわっていた。

 米HBOで7月に放送され好評を博したドラマ『ホワイト・ロータス/諸事情だらけのリゾートホテル』がこの10月、早くもU-NEXTの独占配信という形で日本に上陸した。

 ハワイ! 行ったことありますか。筆者は近所にあった喫茶店ハワイしか行ったことありません。ハワイのイメージは、芸能人が正月に行くところです。誰かが「売れている芸能人は正月にハワイに行く。売れてないやつは正月に仕事をする」って言ってましたよ。本作はそんな格差社会の象徴(?)ともいえるハワイのリゾートホテルを舞台に、持つものと持たざるものの絶望的な差を炙り出す。

 ホテルの宿泊客はいずれも富裕層。雑誌ライターのレイチェル(アレクサンドラ・ダダリオ)は、不労所得で優雅に暮らす親の影響を受けたお坊ちゃま、シェーン(ジェイク・レイシー)の玉の輿に乗ったが、仕事で成功する夢を捨てられない。しかしシェーンからは「あくせく働く必要なんかない、僕と結婚したんだから貧乏人みたいな真似はよせ」と上から目線で言われるだけ。

 シェーンは単に親が裕福というだけの七光りボーイだが、周りが傅くのは当然とばかりにあらゆる要求をごり押しする。予約した部屋のグレードが違うと支配人のアーモンド(マーレイ・バートレット)にクレーム。妻が別に気にしないわと言っているのに「こっちは金を払ってるんだぞ」と不満タラタラ。金を払っているのはシェーンではなく母親なんだけど……我儘放題のボンボンに悩まされる従業員にアーモンドは「客を神経質な子供だと思え」とアドバイス。その通りでシェーンは子供のまま大きくなっただけに過ぎない。

 女性実業家として「実業界をぶっ壊す女性10人」という記事にもなったニコル(コニー・ブリットン)らモスバッカー家は、一癖も二癖もある面々。夫のマーク(スティーブ・ザーン)は妻ニコルより稼ぎが少ないことを引け目に思っている。厳格で男らしかった亡き父を見習ってコミュニケーションが苦手でネットとゲームが友達の息子クイン(フレッド・ヘッキンジャー)に男らしさをアピールしたいが、旅行直前に金玉が腫れあがる(!)病気にかかり、父と同じ死因の精巣がんを疑って沈み気味。

 医者からの電話でがんではなかったことがわかり一転、ハッピーに。しかし叔父から父の死因はがんではなくエイズで、家族にゲイだったことを隠していたと明かされて、再びどん底に落ち込む。別にゲイだから男らしくないってことにはならないと思うんだけど。

 娘のオリヴィア(シドニー・スウィーニー)と旅行についてきた彼女の友人パウラ(ブリタニー・オグレイディ)は意識高い系娘で、他人の容姿や行動に難癖つけては嘲笑する、一言でいうと……嫌な連中で、弱者に上から目線で同情しつつ、立場の弱い弟クインのことは軽視し、寝室が足りないからとクインを台所に閉じ込め、2人でこっそりドラッグや興奮剤でトリップして憂さ晴らし。その頃クインは夜ビーチにベッドを置いて、ポルノ動画でセルフバーニング!

 実業家だが精神面に不安のあるタニヤ・マックワッド(ジェニファー・クーリッジ)は、母親の骨壺を手に「遺灰を撒ける場所はあるかしら」なんて聞いてくる情緒不安定女性だが、マッサージ師のベリンダ(ナターシャ・ロスウェル)のスパ・セラピーを受けて感激。母親に虐待されて今も精神が不安定なのだと、打ち明け話までする。母親に虐待されながらも依存していた彼女は、今度はしぶしぶ相談相手になってくれているベリンダに依存する。

 そんな富裕層らの尊大かつ傲慢な要求に必死に応じようとする従業員たちは次第にイライラを募らせる。くっきりと搾取する側とされる側の構図が浮き上がるのだ。

 支配人といっても所詮は雇われ人のアーモンドは、富裕層の我儘に応じなければならないプレッシャーに押しつぶされ、遺失物として届けられたパウラのバッグに各種ドラッグがてんこもりなのを発見。するとそれをこっそりしまい込み、ガマンの限界に達したら興奮剤をガブガブ飲んでハイに!(おいおい)さらに予約のダブルブッキングなどのミスから、禁じていた酒に逃避する。

 ベリンダはタニヤの遺灰を撒く手伝いまでし、うまく彼女の依存癖を利用してスパの開業資金を引き出させようとするが、タニヤは偶然知り合った独身男性に惹かれていき、「本当の私、たまねぎの芯を見せたら彼はドン引きよ。嫌われるわ!」とめんどくさいにも程がある相談にも付き合う。開業資金のためならウザイ白人女の身の上話だって聞いてやるわ!

 が、そんな努力も報われず依存相手を男に切り替えたタニヤはわずかな金を渡して去っていく。裕福な白人女性って結局わずかな金でなんでもかんでも解決ってこと?

 表向きは友人でありながらその実、搾取する側、される側の関係でしかないオリヴィアとパウラ。ハワイの原住民男性でホテル従業員のイケメンといい関係になったパウラが許せず、男に色目を使うオリヴィア。彼女はパウラの彼氏を寝取ったこともあり、友達といいながら有色人種であるパウラより上に立ちたくて仕方がない。労働者を搾取して成功している母親に毒づきながらも結局は、白人優位社会の甘い水を啜っているだけのオリヴィアに、反発するパウラはイケメン従業員が自分たちの土地をホテルのために奪われながら生活のためにそのホテルで働くしかないという現実に同情(しているように見えるが、本当のところはオリヴィアへの反抗のため、彼を利用しただけかも)し、ある悪だくみを仕掛ける。

 新婚妻のレイチェルは、シェーンの特権階級ならではの考えや意見に苦しめられ、彼が母親を呼び出して楽しそうにしているマザコンぶりに幻滅(新婚旅行に母親呼ぶなよ!)。何より彼の考えは母親の影響であることを知り、特権階級と労働者階級の間に聳え立つ壁の存在を認識する。この結婚は過ちだったのかも?

『ホワイト・ロータス/諸事情だらけのリゾートホテル』は、格差社会における搾取する側、される側の対立を描く社会風刺劇で、特権階級に属する人々の醜悪さを炙り出しているが、搾取される側もまた醜悪なのだ。

 支配人のアーモンドはシェーンのボンボン態度に我慢できず、一泡吹かせてやろうと企むのだが、失敗。ヤケ酒とドラッグに逃亡しまたミスを重ね、やることなすことすべて裏目に出て、そのツケを払わされることに。

 白人優位社会を憎みながらその家族にくっついて旅行を楽しんでいるパウラは、歪んだ憎しみから罪を犯す。安易に玉の輿に乗ろうとしたレイチェルも同様だ。

 本作は一方的に相手を糾弾する「金持ち相手の空しいルサンチマン」に終わってしまうところ、どちらも平等に悪役がおり、双方の側にひとかけらの良心や贖罪の意識が生まれるところが救いではないでしょうか。

 だから本来単発のリミテッドシリーズで終わる予定のシリーズが人気を博して、すでにシーズン2の製作が発表されたのだと思う。どちらかを一方的に責めるだけの物語なんて、見てて辛いだけだもんね。

 正月にハワイに行くか、働くか? どちらでもない人はこのドラマを観よう!

2021/10/22 18:00

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