郊外のガールズバーがコロナ禍で悟ったこと「私たちの仕事は要らない仕事ではない」
新型コロナウイルスの感染拡大防止で度重なる時短営業・休業要請を受け、夜の街が疲弊している。特に人と人との接客を主とする水商売への風当たりは強い。が、そこで働く人たちそれぞれにリアルな生活があり、逆風のなかでも明るく前向きに、人、仕事と向き合っている。
クラブ、キャバクラ、ガールズバー、スナック…業態は数あれど、そこで働く女性たちは、この時世にどう試行錯誤しながら仕事と向き合っているのか。夜の街で働く女性を対象にしたミスコン「ナイトクイーングランプリ」に出場する女性たちの仕事術から、逆境を生き抜くヒントを見つけていきたい。
◆府中・ガールズバー「mieu」さくらさん、ことりさん
「やれることは全部やろう」とスタッフ一丸で戦い抜いた日々
免許センターと東京競馬場の印象が際立つベッドダウン・府中にあって、多くの地元民から愛される「ガールズバーmieu」。家庭的な雰囲気が最大の特徴となっており、忘年会ではお客さんも含めてお店で鍋をつつく習わしもあるという。だが、コロナの猛威は容赦なく「mieu」関係者から笑顔を奪う。さくらさんとことりさんの2人は「前代未聞のことだから、すべてが手探りだった」と苦渋の表情で当時のことを語り始めた。
──同業者の多くが休業を余儀なくされる中、「mieu」はコロナ禍でも踏ん張って営業していたようですね。
さくら:うちは(兼業ではなく)お店専門で働いている子が多いので、オープンさせないとその子たちの生活が立ち行かなくなってしまうんです。
ことり:最初の緊急事態宣言が出てからは、実家に帰ることも難しくなりましたし。私は福岡出身で、さくらちゃんは新潟なんですけど、東京の飲み屋で働いているなんて地元で知られたら、それこそ石を投げられる勢いで非難されたんじゃないかな。
さくら:そういった状況を見かねたママが、「なんとしてでもこの子たちを守る!」と一念発起してくれたんです。とはいえ夜の時間帯に開くことはできなかったし、お酒も出せなかったので、営業形態を根本から変えるしかなくて…。系列店の子たちも一堂に会し、カフェというか定食屋みたいなスタイルでやっていましたね。毎日ランチを2種類用意して、私たちがそれを提供するんです。
◆1日3組とかの日もザラだった…
──ガールズバーが定食屋に! すさまじい豹変ぶりですね。
ことり:営業の方法だって180度変わりました。昼前に「今日のランチはこの2種類です」って写真を送るんですよ。いきなり夜の蝶が昼の日光に晒されたものだから、「まぶしいッ!」って最初はオロオロしちゃって(笑)。ボーイさんは見たこともないような大きな炊飯器でお米を炊いているし、私たちも単にランチを出すだけじゃ能がないから「新規のお客さんにアピールするため、コスプレをさせてください!」ってママに提案して…。時給も半分になっちゃったけど、もうなりふり構っていられなかったし、とにかくやれることは全部やろうと一丸になって戦っていました。
さくら:その後も試行錯誤は続いて、「17時から20時まで営業」という形態を取っていた時期もあったんです。だけど実際の話、うちみたいなお店って20時を過ぎたあたりからようやくお客さんが増え始めるんですよ。18時からお店に来るのって、普通にお仕事されている方だと難しいですよね。
◆非常時だからこそ「ママについていくしかない」
──お客さんはどれくらいの割合で減ったんですか?
さくら:半分以下でした。1日3組とかの日もザラだったかも。それも不憫に感じた常連さんがチョロッと顔を出してくれる程度だから、コロナ前の賑わいとは比べようもない寂しい感じ。カラオケもやらなくなりましたしね。お客さんが買ってきてくれたお惣菜とかを、お酒も飲まないまま食べたりしていました。しかもお客さんが少ないと、女の子に早く帰ってもらわないといけないんですよ。私は副店長の立場だから、それが一番つらかった。誰が悪いわけじゃないんだけど、やりきれない気持ちでした。
──希望通りに出勤することもままならないとなると、その間は給料や生活の面でも苦労したと思われます。辞めるキャストも多かったのでは?
ことり:ところが、誰も辞めなかったんですよ。「非常時だからこそ、ママについていくしかない」とみんな考えたみたいで。そもそも私はこのお店で8年働いていますし、さくらちゃんに至ってはお店がオープンしたときから11年働いていますからね。それはママの人徳によるところが大きくて。うちのママ、府中のカリスマなんです(笑)。もともとはキャバ嬢をやっていたんですけど、今は系列店を4軒も営業しているやり手ですから。
隣で話を聞いていたありさママは、ここで予想もしていなかった行動に出る。「私たちがどういう思いでコロナに立ち向かったのか知っていただきたくて、手紙にまとめてきました」と封筒を渡してきたのだ。便箋5枚にわたり直筆で綴られた魂の慟哭に、思わず取材陣も言葉を失った。以下はその一部抜粋である。
◆ママが綴った“魂の慟哭”
≪一昨年の3月30日、都知事の会見を目にしたとき、まだ“緊急事態宣言”などという言葉も知りませんでしたが、即日スタッフを集めて一時的な全店休業を決めました。「夜の街」という言葉で、まるで自分たちが原因であるかのような報道を観ながら涙が出ました。≫
≪不安になったり傷つくキャストさんたちに何度も話をしました。私たちの仕事は不要不急です。命に関わる場面では真っ先に削られます。でも、生きるのに必要ないものを欲しがれるのは幸せなことです。誰かに必要とされたり、愚痴を言ったり、馬鹿なことを言って笑い合うこと、孤独でないことはとても大切で、私たちの仕事は要らない仕事ではない。≫
ありさママ:まだ世間で感染対策が広まる前から、私たちは動いていました。最初にカウンターに飛沫防止の透明パーテーションを設置したときは、「なんだよ、これ!」ってお客様も笑い転げていましたね。客席のアクリル板も今でこそ当たり前になっているけど、当時は誰もそんなことはやっていなかった。だから100円ショップでブックスタンドを大量購入して、男子スタッフさんがDIYしてくれたんですよ。そこまでしても社会からのバッシングがすごいことはわかっていたから、キャストの子たちは外に出ないように徹底させました。コロナ前は「遊びに来てください」って街でティッシュ配りもしていたんですけど、そんなのはもはや自殺行為ですから。
◆人と会って楽しくお話するのは素敵だなと
──そして、ようやくここに来て緊急事態宣言も解除されましたね。
ことり:ここまで長かったです。お店が苦しいときでも遊びに来てくれたお客さんは、「自分が楽しもう」というより「お店を助けたい」という気持ちが大きかったと思うんですね。奥様にも「お店で遊びにくる」なんて言えないから、「残業がある」とか「電車は密だから歩いて帰る」とか誤魔化していたそうですし。
さくら:少しずつ以前のように戻っていく中で私が感じるのは、やっぱり人と会って楽しくお話するのって素敵だなということ。お酒を飲むだけなら、家で晩酌すればOKじゃないですか。駅前とか公園で“路上飲み”している人もいますし。だけど、このお店で過ごす時間はそことは明らかに違うと思うんですよ。
ことり:今回、「ナイトクイーングランプリ」に応募させていただいたのは、少しでもお店の楽しさをアピールできればと考えたからなんです。「mieu」なら絶対お気に入りの子が見つかるはずですし、なによりも楽しい時間が過ごせるはずなので、ぜひ遊びに来てくださいね!
さくらさん、ことりさんの二人は、11月8日に本戦を迎える「ナイトクイーングランプリ」のローズ部門にエントリーしている。同イベントは、コロナ禍に“夜の街”として苦戦をしてきた水商売業界の再起を目指して“夜の女王日本一”を決めるコンテスト。「お店の看板を汚すわけにはいかない」と意気込む彼女たちが女王となるのか、注目したい。
取材・文/小野田 衛 撮影/林 鉱輝 協力/日本水商売協会
―[コロナ禍の夜の街「働く女の仕事論」]―