綾野剛の“狂気”が世界を熱狂させる、新ダークヒーロー『アバランチ』誕生

こういうドラマが観たいと思っていた。震える興奮に、一瞬たりとも画面から目が離せない。そんなドラマが誕生した。

※以下第1話、一部ネタバレあり

「アバランチ」――聞き覚えのないその単語の意味は、「雪崩」。斜面に積もった雪が崩れ落ち、あらゆるものを飲み尽くすように、その圧倒的な情報量に、予測不可の展開に、なす術もなく飲み込まれる。10月18日からスタートした新ドラマ『アバランチ』(カンテレ・フジテレビ系)はその名の通り、制御不能な「雪崩」のようなドラマだ。

大規模都市開発プロジェクトのリーダーを務めていた風間道明(安井順平)が突然失踪した。代わって新たに計画の実行役に名乗り出たのが、都市開発企画会社・シックスランドホールディングスの代表・六車泰次郎(板尾創路)。はたしてこのスムーズすぎる交代劇の裏には何が隠されているのか。風間は今も生きているのか。常識外れのアウトロー集団・「アバランチ」が動き出す。

シンプルに言うと、必殺仕事人だ。泣き寝入りするしかない被害者たちに代わって、のさばる悪を討ち、恨みを晴らす闇稼業。古今東西、私たちはこういうドラマが好きなのだ。それはなぜか。

「それは警察の仕事です。あなたたちは警察官じゃありませんよね」

「あなたたちのやっていることは違法行為です。見逃すことはできません」

「アバランチ」の存在を知った警察官・西城英輔(福士蒼汰)はそう言った。けれど、風間が拉致される瞬間が防犯カメラにしっかり記録されていたにもかかわらず、警察はその事実を隠蔽していた。西城の正論が、いかに空虚なものかを突きつけられる。

現実もそうだ。この世には、法や正義だけでは裁けない悪がある。国のトップに汚職疑惑が浮上し、その真相究明が叫ばれながらも、うやむやのまま時間経過という名の蓋がされる。そんなドラマみたいな出来事を目の当たりにし、それでもこの国は何も変わらないという無力感に、多くの人たちが辟易としている。

だからこそ、期待するのだろう。「アバランチ」のようなダークヒーローの登場を。権力という名の巨城に身を隠し、私利私欲という名のワインに酔う悪を打ちのめしてくれるのを。

六車の悪事は、「アバランチ」によって暴かれた。全世界に生配信するという方法によって。きっとこの配信を目撃した者たちはほのかに熱狂するだろう、まるで自分たちが正義の執行人になったように。

だが思う。その正義感ははたして正しいものなのか、と。「アバランチ」のやっていることは「私的制裁」と何が違うのか。インターネット上に無断で撮影した動画を晒し、裁きの鉄槌をくだしている気分になっている人たちと、はたして何が違うのか。

おそらくだけど、『アバランチ』は勧善懲悪型の痛快エンターテインメントではない。この法治国家で、法では裁けない悪を、不法なかたちで制裁する「アバランチ」。その功罪と、「雪崩」に巻き込まれて過熱する大衆の狂躁まで踏み込んで迫っていく。そんなドラマになるんじゃないか、と第1話を観て思った。

メイン監督は、藤井道人。『新聞記者』でこの国の闇を白日の下に晒し、『ヤクザと家族 The Family』で衰退する裏社会の哀愁を描いた藤井監督らしい、鋭いメッセージとドライなタッチ、そしてマットな映像美を堪能できる第1話だった。終盤、六車の悪事が暴かれる場面は、ドラマの公式YouTubeチャンネルと連動。今、テレビの中で繰り広げられている出来事が、手元のスマホでリアルタイム中継されるという、映画館ではできない、スマホ片手に観ることが当たり前になりつつあるテレビの脆弱さを逆手に取った演出で、視聴者を『アバランチ』の世界の住人に変えた。

キャスティングは、適材適所の一言。きっと多くの人が、こんな綾野剛を見たかったと思ったはず。飄々として掴みどころがなく、ニタニタと笑いながら敵を蹴散らす強さを持ち、正義の番人でありながらクレイジー。「雪崩」が発生するのは、均衡が崩れるから。ならばこの世界の均衡を破るのは、彼なんだろう。スイッチを間違えた瞬間、彼こそが爆心地になる。そんな狂気と危うさを持ったキャラクターに、1時間、ゾクゾクさせられっぱなしだった。

正義感は厚いがヘタレな若手刑事の福士蒼汰、キュートで目が笑っていない天才ハッカーの千葉雄大、格闘ゲームに出てきそうな元コヨーテの高橋メアリージュン、いかにも元所轄刑事らしい田中要次、そして冷たい表情の裏に復讐心を秘めた木村佳乃。腹黒さが全開の渡部篤郎含め、全員が十八番の役どころ。この隙のないキャスティングに、今回から新たに月曜22時枠に移動したカンテレチームの本気を見た。

これから月曜22時は、他のどの枠でもつくれないエッジーな作品を世に放っていく。そんな宣戦布告というべきドラマとなっている。

ちなみに「アバランチ」は「雪崩」の他に、「圧倒する」といった意味を持つ。これからしばらくの間、月曜22時は『アバランチ』に圧倒される夜となりそうだ。

文:横川良明

第2話あらすじ

山守(木村佳乃)は、半年前に転落死した夏川洋子(中島亜梨沙)についての調査をアバランチメンバーに命じる。東南アジアの開発途上国支援に精力的に携わってきた彼女の死について、警察は残された遺書の存在から自殺と断定するが、山守の調べでは不審な点やある大物政治家との関係が疑われていた。

夏川の身辺を調査するうちに、死の直前までやり取りをしていた永井慎吾(久保田悠来)というジャーナリストの存在を知った羽生(綾野剛)、西城(福士蒼汰)、リナ(高橋メアリージュン)は彼の自宅に向かうが、予想外の事態に遭遇する。

一方、その頃、大山(渡部篤郎)は内閣情報調査室のエース・桐島雄司(山中崇)を呼び出し、アバランチについての調査を依頼していた。

次第に明らかになっていく夏川が近づいていった“大きな闇”。そんな中、牧原(千葉雄大)はこの事件に対して、メンバーの中でもひときわ特別な感情を抱いていた…。

『アバランチ』

毎週月曜夜10時~10時54分

カンテレ・フジテレビ系全国ネット

【出演】

綾野剛 福士蒼汰 千葉雄大 高橋メアリージュン 田中要次 利重剛 堀田茜 ・ 渡部篤郎(特別出演) 木村佳乃

【主題歌】

UVERworld(ソニー・ミュージックレーベルズ)

【監督】

藤井道人、三宅喜重(カンテレ)、山口健人

©カンテレ

2021/10/19 20:00

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