自己主張が強すぎるモンスター新入社員。専門家に聞く行動心理と対策

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 上司や同僚を困らせ、会社にダメージを与える「モンスター社員」の存在。一般常識が通用しない彼らに、頭を抱えている人も多いだろう。職場でモンスター社員に直面した時、私たちはどう対応すべきなのか

 とある中小企業の現場を崩壊させた新入社員のエピソードをもとに、問題行動を起こす若者たちの矯正教育の専門家である法務省・保護司の池田正興氏に解説してもらった。すると見えてきたのは、令和の若者が抱える深刻な心の闇だった——。

◆見た目もリアクションも「地雷系」のモンスター新入社員

「第一印象は“挙動不審”。受け答えが普通じゃなくて、見た目は“オタサーの姫”って感じ。最初から不思議ちゃんオーラが出ていました」

 今年4月、咲子(仮名)さんが働く広告代理店に新しい女性社員がやってきた(以下、A子)。

 A子はいわゆるZ世代(1995年以降に生まれた若者)の26歳。今までに2社勤務経験があるが、どちらも長続きしなかったそうだ。

「面接時から会話が噛み合わない感じはしていました。服装も上はスーツなのに、靴だけ地雷系ファッションのような厚底のローファーで……あれ? と思うところはあったんですが、人手不足なのもあって即採用されたんです」

 営業課に配属されたA子。入社後まもなくして、面倒な行動を起こしていく。

「まず、お礼と謝罪の仕方がすごくオーバーで。例えばミスをして誰かがフォローしてくれた時、『あ~~! やってくれたんですかぁ~~! ありがとうございますぅ~!! ごめんなさいごめんなさい、ほんとにごめんなさい~~!!』みたいな(笑)。しかも深々と頭を下げながら言うので、こっちが悪いことをした気分になるんですよね」

「ありがとう」と「ごめんなさい」が言えない人間よりはマシなのかもしれない。しかしA子のオーバーリアクションに、社員たちはげんなりし始めていった。

◆エスカレートする問題行動

「A子は仕事ができず、営業に行っても契約がまったく取れなかったんですよ。その度に『ごめんなさいごめんなさい~!!』って指導役の先輩に謝り続けていました。耐えかねた先輩が、『そこまで言わなくていい』って注意したんです。それに対しても、『ほんとにごめんなさい~~!!』でしたからね(笑)。その様子を見ていた掃除のおばちゃんが、『ヤバい女が入ってきたね』ってあ然としていました」

 言動がオーバーなくらいなら、「ちょっと困った社員」で済んだだろう。だが彼女の厄介さは、周囲に悪影響を及ぼすレベルだった。

「ある時A子から、『B先輩から毎晩電話がかかってきて困っています』と上司に報告がありました。電話越しに相談や愚痴を何時間も聞かされると言うんです」

 咲子さんや同僚たちはA子に同情した。転職先の先輩からの電話だ。A子も断りにくく、仕方なく付き合っているのだろう。Bさんに対する社員の目は冷ややかなものになっていった。

 しかし、真実は違ったのだ。

◆同僚を陥れようと…

「本当は逆でした。A子がBさんに毎晩電話をかけて、仕事の悩みやプライベートのことを延々と聞かせていたんです。Bさんは『A子は後輩だし、力になれるなら……』と付き合っていたそうです」

 恐ろしいことに、A子はBさんが退職するようにも仕向けていたという。

「体調を崩しがちだったBさんに対し、『それは絶対に病気ですよ! 診断書をもらって来たほうがいいです! ここの病院がおすすめですよ!』とか。そして、『Bさんしか頼れないし信用している。一緒に会社を辞めて起業したい』と誘っていたそうです。なのに裏では、『営業でいちばん仕事ができないのはBさんです』と社長に伝えていたんですよ」

 A子の言葉を信じた社長により、Bさんの社内評価はますます悪化した。悪行はそれだけに留まらない。

◆ありえない嘘で職場の空気を乱す

「A子はしょっちゅう『誰々さんと誰々さんが私の悪口を言っている』『誰々さんにこういう事をされて困っている』と周りに相談していました。しかも『会社の中では話しにくいので……』と、社外に連れ出してサシで話をしていたんですね。段々と社内全体の空気も悪くなっていきました」

 最初はA子に同情していた社員たち。しかしそれも長くは続かなかった。

「相談された人たちが話を照らし合わせていくと、それぞれで話が違っていたんです。『あれ? おかしくない?』って雰囲気があやしくなってきた頃、A子が体調不良で会社を休むようになりました」

 嘘がバレ始めた途端、早退や長期の欠勤を繰り返すようになったA子。結局入社から3ヵ月後、逃げるように退職していった。だが、退職間際にもひと騒動起こしていったという。

◆立つ鳥跡を濁しまくり

「A子と同期入社の男性(Cさん)が、『彼女が辞めたがっているのが僕のせいなら、自分が辞めます』と申し出たんです。A子はCさんを嫌っていましたから。でもその前に彼女は『私が辞めるならCさんも一緒に辞めるって言ってる』と周りに相談していて……もう何が何だか分かりません」

 何が本当で何が嘘か分からない。当時を振り返り、咲子さんは頭を抱える。

 A子の退職後、最大の被害者であるBさんも会社を去ってしまった。これで平穏が訪れるかと思いきや——。

「営業課の人間関係が、あからさまに悪くなりました。A子がアレコレ吹き込んだせいもあり、面倒くさいことになってしまって。今もギスギスした空気は続いています……。引っかき回すだけ引っかき回して、後をグチャグチャにして去っていった。サークルクラッシャーってこういう女のことを言うんですね……」

 この騒動を振り返って、咲子さんはこう問いかける。

「彼女は一体何のために、こんなに意味不明な行動を取ったんでしょうか? 何を考えているのか、まったく理解できません。自分をよく見せるためでしょうか?」

 A子を一言で表せば、「虚言癖のある自己主張が強い人間」だろう。彼女のような人間の思考回路はどうなっているのか。もし身の回りにいたら、私たちはどんな対応を取るべきなのか。専門家に答えを求めてみた。

◆職場で自己主張が強すぎる社員に対して、専門家の見解は?

 回答してくれたのは、法務省・保護司の池田正興氏。池田氏は保護司として活動する傍ら、問題行動を起こす青少年の矯正教育・犯罪被害者のグリーフケアなどについて大学講師もしている。

 A子の特徴をまとめるとこうだ。

・職場で明らかに浮いたファッション
・すぐにバレる嘘をつく
・人への執着心が強い
・同僚の評価を下げようとする


「話を聞いた範囲での推測になりますが」と前置きしつつ分析してくれた。

「社会の中での人間関係・自分の立ち位置をハッキリさせたい人なのでしょう。“曖昧さ”を許さないという性質を感じます。客観的・哲学的な思考ができず、二者択一する時の意思決定が自分の世界だけで判断されている。それが第三者から見ると、“自己表現がまずい人・自己中心的な人”となるんです

 池田氏いわく、人間には曖昧(両義的)な考えが必要という。白か黒かでなく、グレーもある。そういった考え方がA子はできないのだろうと指摘する。

「自分の行動に対して相手がどう思うか考えられられず、一方通行でしかコミュニケーションを取れない。彼女にとっては自分の行動だけが事実で、『私はこうだ』と直進的なのでしょう」

 社会人として相応しくないファッションも、「曖昧さを拒否するため」と池田氏は分析する。

◆依存しているから攻撃する

「大元を考えていくと、A子は愛着障害の疑いがあります。自尊感情が無く、自分に自信が無いんです。そういう人は、服装や外見に個性を出すことで自分が認められると思っています」

 愛着障害とは、幼少期に親(養育者)との間で適切な愛着関係が形成されず、情緒や対人関係に問題が生じる状態をいう。親に甘えさせてもらえない・褒められないといった経験や、DV・ネグレクトの経験があると、愛着障害を生じやすいとされている。

「愛着障害を持つ人は、人間関係における好き嫌いも極端です。自身に対して明確に『好き』と言う人には好意を持ち、何も言ってくれない・無関心な人は『嫌い』の部類に入る。Bさんに対するエピソードには、この性質が色濃く出ています。『この人は私の味方である。依存できて甘えられる。自分の掌中にある』と。しかし愛着障害の人は両義性(ひとつの事柄が相反するふたつの意味を持っていること)も強いので、愛情が憎悪に変わっていった可能性があります」

 可愛さ余って憎さ百倍ということだろうか。周りに悪口を吹聴する行為も、自己防衛からきているそうだ。

◆社会と向き合えない若者たち

「自分をよく見せようとする中で、他者への攻撃行動が出てきていると考えられます。他罰的になり責任転嫁することで、自分の存在を守ろうとしているのです。ただこうした心の動きは、本人に自覚が無い可能性が高い。無意識に振る舞っているので、すぐにバレる嘘をついてしまうんです

 行動の原理としては自分をよく見せるためであっても、本人の思考はそこまで及んでいないという。これでは周囲がいくら注意したところで、解決のしようがない

「ボロが出始めてから退職したのも、集団の中で自分の方向付けができなくなったからでしょう。引きこもりの子をむりやり外に出そうとするのに似ています。いわゆる“非社会性”の状態です」

 昭和から平成にかけて、法に反する行為や他者を害する行いをする若者は“反社会性”があると言われてきた。しかし池田氏いわく、個人主義的な考えが進んだ結果、現在は反社会性から非社会性に変わってきているそうだ。

「反社会性は反抗心や反発心を含んでいて、他者や社会とのコミュニケーションの中で生まれるものです。一方の非社会性は、他者と対峙せず自分独自の世界で生きようとします。自身の人格、価値観、生活の枠の外に出ようとしないんですね。代表的な例が不登校や引きこもりです」

 たとえ社会に出てグループや組織に身を置いていても、人間関係に対する意識は希薄なのだという。

「非社会性の人は協調性や同調性がなく、感情交流ができない。本人たちは『生きていることで自分たちは社会性がある』と考えていますが、実際には人間性の成熟度や意識レベルがぐっと下がってきています」

◆対策マニュアルを作っておく

 非社会性を持つ若者は今後増えていくという。そうした人間が入社してきた場合、会社や周りの社員はどう対応すればよいのか。

「早い段階で人事の規定などと照らし合わせ、協議するしかありません。問題行動が出てきた時点で対処する。根本的な対処は病院かカウンセラーしかないので、産業医を活用するなどしていくほかないでしょう。これからの日本は、企業にも組織罰(組織を罰する法律)の概念が出てくると考えられます。社員が問題行動を起こし損失や被害があった時、企業が問われる責任も増してくる。それに備えて、対処方針を明確にしておくべきです」

 人事に関する評価制度やコンプライアンスの徹底した策定が、会社や周りの社員を守ることに繋がる。「会社として説明責任を果たす材料を持っておき理論武装をしないと、問題を起こす社員に対応できない」と池田氏は説く。

「問題ある社員との人間関係の構築を、自分自身や職場が許容できるか。おかしいと感じる行動があれば、『なぜ?』をその場で本人に問うてみて、その反応を見て判断することも早めの解決に有効です」

 職場を悩ませるモンスター社員の存在。職場の環境を保つためにも、早期の「見抜き」が必要だ。

<取材・文/倉本菜生>

【倉本菜生】
福岡県出身。フリーライター。龍谷大学大学院在籍中。キャバ嬢・ホステスとして11年勤務。コスプレやポールダンスなど、サブカル・アングラ文化にも精通。Twitter:@0ElectricSheep0

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