ミャンマー市民を虐殺する国軍と、日系企業が商売を続ける愚。数年後にすべてを失う

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2021年2月に発生したミャンマー国軍によるクーデターから、すでに半年以上が経過した。ミン・アウン・フライン総司令官が率いる国軍の軍評議会は、抗議活動に参加する市民らに戦闘用の重火器まで使用し弾圧、現在(10月初旬)までに子供を含む1100人を超える死者を出している。

◆ミャンマーは本格的な内戦に突入した

しかし9月7日、ミャンマーの民主派議員と少数民族により樹立された国民統一政府(NUG)のドゥワ・ラシー・ラ大統領代行はオンラインで演説を行い、ミャンマー国軍に対する戦闘開始(「D-Day」)を宣言した。これにより、ミャンマーは本格的な内戦に突入したのだ。

クーデターによる国軍の市民虐殺から民主派の反撃により内戦へと突き進むミャンマー。その最新状況を、現地のニュースを日本語で配信する「MYANMAR JAPON」代表で、7月に『ミャンマー危機 選択を迫られる日本』を上梓した永杉豊氏に解説してもらう(以下、永杉氏による寄稿)。

◆暗い平穏の裏で、数十万人の避難民が

2020年11月のミャンマー総選挙で圧勝したアウン・サン・スー・チー氏や民主派議員は、クーデター発生後に逮捕・拘束され、さらには国軍や警察隊による市民の虐殺や不当逮捕などが今も拡大している。現在までに8400名近くが不当に逮捕され、現在も6700名以上が拘束されたままだ。「虚偽情報」を流布した罪で、多くの市民や報道関係者が拘束され続けている。

こうした国軍の弾圧により、デモなどによる表立った抗議活動は影を潜め、市民生活はクーデター以前に戻ったかのように見える。しかし、それは抑圧された市民が息を潜めた「暗い平穏」が続いているだけのことである。

その一方で今年5月に、民主派のNUGは少数民族の軍隊を中心に構成された人民防衛隊(PDF)の設立を発表し、ヤンゴンやマンダレーなど都市部の多くの若者も軍事訓練に志願している。7月以降は国境付近の街などで国軍とPDFによる衝突が頻発するようになり、国軍側には一度に70名を超える死者が出た戦闘も起こっている。

その一方で、国軍はPDFが潜伏しているとされる村を空爆したり、重火器で焼き討ちを行なったりして、数十万人規模の避難民が発生している。

◆キリンと国軍系の合弁会社でも爆破事件

9月7日、国民統一政府(NUG)が発表した戦闘開始(「D-Day」)宣言では、「国軍への攻撃開始は国軍の残虐な行為に対抗するためにやむを得ず決意したものである」と明言し、国民全員に戦闘参加を呼びかけた。そしてこの宣言により、戦闘は国境地域からヤンゴンなどの大都市でのゲリラ戦にまで拡大していく。NUGによる戦闘開始宣言はほとんどの市民も理解を示しており、自分たちもPDFやCDM (市民不服従運動)に参加しているメンバーたちを食糧、医療、現金などで後方支援すると断言している。

D-Day宣言後は、首都ネピドーでバイクに乗った国軍兵士が何者かに爆弾で攻撃され兵士8人が死亡、国軍系の大手通信会社・Mytelの通信塔が全国100か所以上で爆破されるなど、都市部でも国軍や警察を狙った襲撃や爆破事件が相次いでいる。

また、キリンホールディングが国軍系企業と合弁し「ミャンマービール」を販売するミャンマーブルワリーの事務所でも爆破事件が起こり、国軍系のミャンマー経済銀行では銃撃戦が発生している。このため一般市民は国軍関係の事務所や企業、銀行などの建物へは近づかないことを徹底しているのだ。 

◆中国とロシアは、自国の利益のために国軍を支援

これに対し各国の動きを見ると、中国はインド洋に面するチャオピュー港から中国雲南省の昆明までの石油と天然ガス資源のパイプラインを確保し、インド洋へ抜ける利権を守るために現状はミャンマー国軍を支援している。ロシアも武器を国軍に売って利益を確保するスタンスだ。ASEANでは内政不干渉を建前としており、ミャンマー国軍と近しい軍事政権のタイなどもあり、全会一致の形では足並みも揃わず、今ひとつ国軍を強く非難できない。

その一方で、国軍当局から介入を受けていたノルウェーの通信大手テレノールは、ミャンマーの通信事業をレバノンの投資会社へ売却し早々に撤退した。アジアでは韓国政府が民主派NUG韓国事務所の設立に協力していくと発表し、注目を集めている。

◆日本と日系企業のあいまいな態度

人権問題を重視し、制裁・撤退などの行動に移す欧米企業に比べ、日本政府と日系企業の動きの鈍さが目立つ。

日本では6月に衆参両議院でミャンマー国軍に対する非難決議が採択されている。それにも関わらず、この9月には「ミャンマーODAの重鎮」と言われる日本ミャンマー協会の渡邉秀央会長がミャンマーを訪問、軍評議会の高官らと農業支援などの協議を行なっている。これでは日本が国軍を支援しているという間違ったメッセージを海外に発信することになりかねず、在日ミャンマー人からも懸念の声が高まっている。

今の国軍が解体されミャンマーに真の民主化が訪れるまでには3年ほどの内戦が続くかもしれない。そして、国軍によるさらなる虐殺も発生する可能性があると私は予想している。しかし今回の軍事クーデターが既成事実化され、国民の人権も自由もない軍事政権が誕生してしまえば、ミャンマーの未来も、日系企業のビジネスも、そして日本の国益も失われるだろう。

◆日本は民主派への支持を打ち出すべき

そのためにも日本政府や日系企業は目先の利益ではなく、数年後のミャンマーの復興、発展のために、民主派NUG(国民統一政府)への支持をはっきりと示すべきだ。そして、内戦による食料や医療支援、難民の救済など積極的な人道支援に取り組むべきなのである。

<文/永杉豊>

【永杉豊】
ミャンマー及び日本でニュースメディアを運営する、ミャンマー情勢に精通した専門家。ミャンマーの現地ニュースを日本語情報誌とインターネットニュースで配信する「MYANMAR JAPON(ミャンマージャポン)」のCEO。著書に『ミャンマー危機 選択を迫られる日本』。日本の国会議員とミャンマー民主派NUG(国民統一政府)閣僚との橋渡しも務める。

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  • 日刊SPA!

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