割り切ることも、問い詰めることもできない関係。恋愛ホリックな女が認めたくない「あるコト」

人はパートナーに、同じレベルの人間を選ぶという。

つまり手の届かないような理想の男と付き合いたいのなら、自分を徹底的に磨くしかない。

そう考え、ひたむきに努力を重ねる女がいた。

広告代理店に勤務する杏奈(25)。

彼女は信じている。

決して休まず、毎日「あるルール」を守れば、いつかきっと最高の男に愛される、と。

◆これまでのあらすじ

「この人と付き合って自分の価値を証明したい」と感じる男・光輝と、2ヶ月間体の関係を持っている杏奈。

彼に告白のようなことを口走ると、微妙な言葉で返されてしまう。

どうすべきか悩んでいると、偶然友人の紹介で進という男性に出会い、距離が縮まる。

▶︎前回:「私は本命?それとも遊び?」焦る女が一番言ってはいけない禁じ手の一言とは?


『美咲:無事お家に着いた?』

会ったあとに、美咲からこんな連絡がくることは今までなかった。

『杏奈:うん、着いたよ。今日は無理やり時間作ってくれてありがとう。進くんとも初めてきちんと話せて楽しかった』

なんとなく、今もまだ進くんと一緒にいることを美咲に言えなかった。

その場の流れだとしても、3人で会っていたのに美咲抜きで遊んでいるのは気分のいいことでもないだろう。そう、理由はそれだけだ。

嫌な予感にフタをして、私は考えるのをやめた。

「杏奈ちゃん、何飲む?俺買ってくるから、座ってて」

進くんと、私の最寄り駅にあるスタバで話すことにした。

「ありがとう。ソイラテのホットをお願い」

完全な友達として会っているのに、おごられると恋愛対象として見られているのでは?と少し期待してしまう。

好きな相手じゃなくても、女性として扱われると、ちょっと嬉しいものだな…。

最近のいざこざで知らずに傷ついていたぶん、しみじみそんなことを考えていると、スマホが鳴った。

『美咲:進とのことはハプニングだったね!私抜きで2人で仲良くなったりしないでよ?なんてね(笑)』

最後の一言が本心のように…思える。

もし、万が一進くんと今後進展するようなことがあれば、今日2人でいたことはちゃんと美咲に話そう。私はスマホを裏返して、テーブルに置いた。

新たな出会いと、誘惑。杏奈の衝撃の選択とは

進くんは帰国子女で、大学卒業後は外資系のコンサル会社で働いている。働いている業界は違うけれど、お互い友達から話を聞いているからか、仕事の話も弾む。ひとしきり盛り上がってから、話題は恋愛になった。

「杏奈ちゃんは、今彼氏はいないの?」

さっきの話のせいか、進くんは少し気をつかった様子で尋ねた。

「うん、いないかな。さっきはごめんね、気まずい空気を作っちゃって」

「いやいや、全然大丈夫。美咲、空気読めないところあるからな」

憎めないよね、と2人で笑った。

「進くんは、彼女いないの?」

「うん、もう1年くらいいないかな。前の彼女と結構真剣に付き合ってたから、しばらく彼女とかいいやって思ってて。最近やっとまた恋愛したいなって思うようになった」

「なるほど。どうして別れちゃたの?」

内心、進くんに彼女がいないと聞いて嬉しかった。確かに落ち込んでいたのに、もう他の男性にこんな質問をしている自分に呆れる。

「そうだな、俗にいう価値観の違いってやつかな。例えば、俺は、仕事に関してお互い高め合いながら成長したいんだけど、彼女はいかに緩く働いてそれなりのお金を稼ぐかを重視してる、とか」

「あー、確かに。それ私も大きいかも。私もいやいや仕事しているタイプの男性に魅力を感じないなあ。自分もまだガンガン働きたいし」

お互いの恋愛の価値観を話して盛り上がっていると、あっという間にジムの時間が来てしまった。

「まだまだ話したいくらいだけど、今日は一緒に過ごせて嬉しかった。よかったら今度また2人で遊んだりしない?」

「私も楽しかった。うん、遊ぼ」

進くんの「遊ぶ」という言葉が、デートなのか友達としての遊びなのかわからなかった。

けれど、出会いが増える分にはマイナスはない。少し浮かれた気分で、ジムに向かった。


「はあ、気持ちいい」

まだ23時前だったが、今週も仕事とルーチンをきちんとこなした自分の身体に、SHIROのバスミルク入りの半身浴でご褒美タイム。

あのあと、進と”遊ぶ”日程を合わせるLINEが来たものの、仕事で忙しくバタバタして返事ができていなかった。というか、進と早くデートに行きたい気持ちと、まずは恋愛なしでも楽しめる人間になるべきではという気持ちで揺れていたのだ。

仕事に夢中になっていると、あんなに振り回されていたのが嘘かのように、男性なしでも自分の価値を認められる時がある。自尊心が高まっている、今週はそんな状態だった。

映画でも見ながら半身浴をしようかと思いiPhoneのロックを解除すると、通知があった。

『光輝:24時くらいから、家に行ってもいい?』

久しぶりに見た「光輝」という文字に少しだけドキッとする。

― あれ以来全く連絡をして来なかったのに、このタイミングで来るってどういうつもり?

一瞬考えたが、すぐに「どうでもいいや」という気持ちになった。自分がこんな状況の時でよかったと思う。

期待とか恨みとか、そういった感情が全くなく、無感情というのが近いだろう。

真顔で『今日は無理』と返事をした。

すると、送った直後に既読がついた。

『光輝:じゃあ、明日は?泊まらなくてもいいから、10分くらいでももらえないかな』

予想外の返信だ。

― 何か伝えたいことがあるってこと?

何がしたいんだろうという興味に近い気持ちで返事をした。

『19時くらいからなら空いてる』

告白以来全く連絡をして来なかった男が、今望んだこととは


「久しぶり。元気だった?」

少しだけ気まずそうだったが、光輝は今まで通りだった。

「元気だよ。久しぶりだね」

結局私の家で会うことになった。なんとなく、振られた相手のために張り切って準備して外に出るテンションでもなかったから。

光輝は「そっか」と返した後で、何かをいいたそうな顔をした。

「なんで会いたかったの?」

私から切り出した。

沈黙の後で、光輝は顔をあげて私と目を合わせた。

「この間、付き合うかって話杏奈がしてたじゃん。それで、杏奈に伝えたことは本当で、彼女とかいらないなって思ってて」

私は相槌を打つことなく、光輝の目を見続けた。

「言われた直後も、その話題すら忘れてシャワー浴びてたんだ。ただ、シャワーから戻ったら杏奈がいなくて、初めてその話を真剣に考えたというか」

「なるほど」

自分でも驚くほど冷静な私に、光輝は続けた。

「今すぐどうこうって話ではないんだけど、体だけの関係でいいのかに疑問を持ち始めて」

光輝は、気持ちをストレートに表現できない自分にイライラしているようだった。

「何が言いたいかっていうと、お互いこれ以上の関係になることも考えながら会い続けたい」

光輝の言葉に、これまでの彼に対する執着心がスーッと消えていくのを感じた。

私は「わかった」と返事をした。

「今日は、これだけ伝えたかったから、また連絡して」

光輝はそう言って私の部屋を出て行った。



光輝が帰ったあと、ちょうど暇だという真央に電話をかけた。

「真央、今週もお疲れさま」

「結局どうしたのか気になってたよ」

真央に、告白したこと、その時の光輝の反応を一部始終話した。

「自分でもなんでかわかんないんだけど、手に入りそうっていう高揚感みたいなものがないんだよね。まあ手に入りそうな状況を自ら手放そうとは思わないけど」

「うーん。杏奈の光輝さんへの気持ちって、純粋に好きっていう感情なのかな?」

「どういうこと?」

私が尋ねると、真央は続けた。

「光輝さんが好きっていうより、光輝さんの彼女になれるくらいの女だと証明されればいいのかなって」

真央の言葉にドキッとする。

「…だから光輝がこっちを向いた瞬間、執着心が消えたのかな」

「恋愛と自分の価値を結びつけるのは間違ってるよ。杏奈は十分魅力的な女性なんだから、自分をまず認めてあげて。あと、真正面から恋をした方が人間として成長できる。これは私が経験したこと」

真央はいつだって、正解を知っている気がした。凛としていて、素敵な彼氏がいるのも納得だ。

「本当にいつもありがとう。真央の言う通りな気がする。私も本当に光輝がいいのか考えてみる」

真央との電話を切り、LINEを開いた。

そして私がタップしたのは進とのトークルームだった。決断をする前に、確かめたいことが、ひとつだけあった。

『杏奈:お返事遅くなってごめんね。遊びにいくの、いつにしようか?』


▶︎前回:「私は本命?それとも遊び?」焦る女が一番言ってはいけない禁じ手の一言とは

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