消えたオリンピック競技のその後。「綱引き」は本気で復活を目指していた

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 東京オリンピック・パラリンピックが閉幕。開催への賛否はあれど、日本国内だけでなく世界にスポーツの魅力を発信するには十分な機会となった。しかし、五輪競技だけがスポーツではない。今回は、かつて五輪競技だったが現在は外れてしまった競技について専門家に話を聞いた。

◆空手や野球なくなる、そのほかにもなくなった競技あれこれ

 東京五輪で開催国の日本は、史上最多58個のメダルを獲得。中でも野球は、決勝戦で野球大国アメリカとの投手戦を制し、金メダルを手にして日本中を沸かせた。また、五輪で初めて競技に採用された空手は、複数のメダルを獲得し日本の強さを示す結果に。

 しかし、いずれの競技も次回のパリ大会では除外されることが決まっている。五輪に採用されている競技は、注目を集める機会も多いが、そうでない競技にも魅力は充分にあるはずだ。今回は、かつて五輪には存在していたが現在は外されてしまっている競技について、専門家に話を聞いた。

◆突然現れ消えた「シンクロ ソロ」

 かつてはシンクロナイズドスイミングと呼ばれ、現在はチームとデュエットだけになっているアーティスティックスイミング(以下、AS)には、1984年のロサンゼルス大会から3大会で「ソロ」という種目があった。日本水泳連盟AS委員長でロス五輪において「ソロ」で銅メダルを獲得している本間三和子氏は次のように語る。

 五輪から「ソロ」が外れた理由はなんだったのでしょうか?

「視聴者にとって面白くないからですね。視聴率が取れないということです。ロス以降は五輪が商業路線に進んだので、一般の方の関心の高い種目以外は外れやすくなっています。ASは、チームだとフォーメーションが万華鏡のように変化していくので、一般的な見栄えもしますが、ソロはそれがないですよね」

 本間さんご自身がソロでメダルを獲った時は、注目を浴びる種目だったんでしょうか。

「実は私が出場したロス五輪は、本来デュエットだけだったんですよ。選考会もデュエットのみで行われました。そこで私も選ばれたんですが、直前になって突然、連盟から『ソロも加わった』と連絡が来たんです。

 だから、ソロは選考会もなかったんです(笑)それで、私がデュエットの選考会で1位だったことと、前年までの大会で優勝してたので「アンタ、泳ぎぃ」て言われて出ました(笑)」

 急転直下で、準備も大変だったでしょう。

「大慌てでソロ用の水着を百貨店に買いに行ったりしました。大会まで2か月しかなくて、新しい演技を作り上げるのは無理なので、前の年まで使っていた音楽を急いでブラッシュアップして追加の練習をしましたよ」

◆シンクロソロの魅力

 なぜ急にソロが追加されたんですか?

「噂なんですが。当時、ASではダントツだったアメリカが出場選手の人数を増やさずに獲得メダルを増やしたいという思惑があったという話があります(笑)後から追加されたので、競技日程も最終日になってましたね」

 ソロの魅力はどんな部分でしょうか。その魅力を教えてください。

「個人の表現力と技術力がはっきり見えますね。足技や上体の表現でも、複数人で泳ぐものはみんなで動きを揃えるために音楽のカウントでキッチリ合わせていきますが、ソロは他の人と合わせる必要がないので、曲のダイナミクスや緩急に合わせて表現ができるんです。
柔らかさや粘りのある動作で、豊かな表現と技術が見られるのはソロですね」

 日本人でソロでの活躍が期待される選手はいますか?

「代表ではデュエットとチームに主眼を置いているので、ソリストとして育てている選手はいません。ですが、東京五輪にも出場した乾友紀子は、2019年の世界選手権のソロで銅メダルを取っています。次の若い世代でいうと、高校生の和田彩未といういい選手がいますね」

◆ソロ復活の予定はない……

 ソロが五輪に復活する予定はありますか?

「FINA(国際水泳連盟)内でマジョリティの意見としては、ソロ復活はないですね。男女混合のミックスデュエットと、ハイライトルーティンを加えて欲しいというムーブメントを起こしています」

 ミックスは多様性が求められる時代に合っていますね。ハイライトルーティンは聞きなれない種目ですが。

「1チームの演技時間が他のAS種目に比べて短く、よりアクロバティックな内容になっています。派手なので、見る方にとっても見応えのあるものになると思います」

◆古代五輪の花形だった「綱引き」

 20世紀初頭は花形競技のひとつで、1920年を最後に100年以上にわたって五輪から消えた競技となっている「綱引き」。復活する予定はあるのか、日本綱引連盟の専務理事・競技本部長である中山二三男氏に話を聞いた。

 まず、綱引きの魅力について教えてください?

「綱引きは『ヒーローのいらないスポーツ』です。1人が強くても勝てませんからね。みんながまとまらないと勝てないので『心を一つにする』という意味でも綱引きはいいですよ。
 
 それから『勝敗がわかりやすい』ということですね。印がここまでいけばこっちが勝ちというのが一目でわかります」

 五輪の綱引きにはどんな特徴がありますか?

「運動会などでは『30秒経過した時点で引いていたほうが勝ち』といった時間制限がありますよね。五輪ではそれがなく、4m引き切った方が勝ちというルールでした。また、クラス全員が出場して人数も多い運動会に対して、五輪では1チームの人数も8人制でした」

 どの国が強かったんでしょうか。

「イングランドやスペインが強かったです。競技としての綱引きの発祥は中世ヨーロッパなんですよ。貴族たちが自分の使用人や兵隊に縄を引かせ合ったのがはじまりと言われています」

◆五輪から綱引きが消えた理由

 五輪から外れてしまった理由はなんだったんでしょうか?

「ひとつは競技人口の少なさですね。日本でも小学校の運動会止まりといった場合が多くて選手として登録しているのは3500人程度です。東京五輪は『100年ぶりの復活』に向けて頑張ったんですが、やはり競技人口の少なさがネックになりました。
 
 もうひとつは、1チームあたりの人数の多さですね。綱を引くのは8人ですが、監督やコーチ、リザーブメンバーなども含めると1チーム20人くらいになってしまいます。今は、この大所帯があまり好まれないんですよ。野球がパリ五輪から外れるのにも似たような背景があるみたいですね」

 もし五輪競技として復活したら、日本はメダルを狙えますか?

「日本はこれまで、国際大会での最高は男子で4位でした。女子では、20年くらい前に国際大会で3連覇していたチームもありました。ですが、今でもヨーロッパが強いのと、他には台湾ですね。台湾では、綱引きが大学まで学習カリキュラムに入っていますからね」

 復活に向けて、どんな対策を練っているのでしょうか。

「台湾のように、中学校以上でも学習のカリキュラムに綱引きを入れてもらうように働きかけています。また、3人制バスケットボールや7人制ラグビーが出てきたように、綱引きも人数を減らす提案も検討したり、多様性が求められている現代に合わせ、男女混合をJOCに提案して復活できるように頑張っています」

 五輪競技だけがスポーツではない。むしろ五輪は、様々な軋轢の中にあるため、今回ご紹介した五輪から「消えた競技」の方が、純然たるスポーツの楽しみを味わえるのかもしれない。

取材・文/Mr.tsubaking

【Mr.tsubaking】
Boogie the マッハモータースのドラマーとして、NHK「大!天才てれびくん」の主題歌を担当し、サエキけんぞうや野宮真貴らのバックバンドも務める。またBS朝日「世界の名画」をはじめ、放送作家としても活動し、Webサイト「世界の美術館」での美術コラムやニュースサイト「TABLO」での珍スポット連載を執筆。そのほか、旅行会社などで仏像解説も。

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