借金500万円男。年末までの仕事がなくなりパチンコへ行く
―[負け犬の遠吠え]―
ギャンブル狂で無職。なのに、借金総額は500万円以上。
それでも働きたくない。働かずに得たカネで、借金を全部返したい……。
「マニラのカジノで破滅」したnoteが人気を博したTwitter上の有名人「犬」が、夢が終わった後も続いてしまう人生のなかで、力なく吠え続ける当連載は63回目を迎えました。
今回は年末までの仕事が無くなってパチンコへ行ったお話です。
◆脱ホームレス後の生活
東京郊外での賃貸暮らしが始まった。
昔から突発的に全てを台無しにしてしまいがちな僕だが、新たな環境でのスタートに関しては、ひとまず丁寧になる。子供の頃、授業の始めに出されていた小テストも、満点が途切れるまでは頑張っていた。
玉への瑕が化膿してそのまま致命傷になる性格は、大人になっても続いている。区切りがなければ生まれ変われないし、自浄機能を持たない。スタートダッシュが肝心だ。純潔の生活だけが守られる。
引っ越してすぐに住所変更の手続きをするために市役所へ行った。区役所から市役所に変わっただけなのに、随分後ろに下がった気分だ。
「東京様がやってきたぞ」
というやっかみの目を向けられたらどうしよう、いじめられるかもしれない。
せっかちな僕にとって、役所とラーメン屋は開庁時間に合わせて行くのが一番良い。9時の開庁に合わせて、15分ほど早く市役所の広い入り口に並ぶ。
昼過ぎにノコノコやってくると住民票を取得するだけでも30分近く待たされるが、そういう甘えた意識の市民とは違う。役人もスープも最初の一周が一番キレが良い。
9時を目前にして、呑気そうな老人が次々と僕を抜かして役所に入っていく。
おいおい、僕が作った行列を守ってくれよ。と言いたかったが、役所の人は焦ることなく対応している。どうやらこの土地では順番を守るという文化がないらしい。
◆マイナンバーカードは意外と便利だった
運転免許証の代わりにマイナンバーカードを持っていた僕は住所変更の手順をいくつか省略できたため、手続きそのものも5分かからずに終わった。マイナンバーカードは非常に便利だ。
運転免許を持たない僕は数年前まで住基カードを写真付きの身分証として活用していたが、今のマイナンバーカードと違って認知率が低く、タバコを買う時の年齢確認でしばしば一悶着があった。
マイナンバーカードは普及率の割に認知率が非常に高いので、
「運転免許ではない…なんだこれ?」
という疑いの目をかけられることが少なくなった。もっとみんな作ればいいのに、と思う。
僕の個人情報なんていくらでもあげるからパスポートも銀行口座も全部マイナンバーカードに紐付けてくれればいいのに。いや、銀行口座は嫌だな。差し押さえられた時に避難できなくなる。
◆狭いけど快適な月5万円のワンルーム
月5万円の新居は初期費用が限りなく0に近かった代わりに、狭いワンルームだった。それでもホテルや友達の部屋、もちろん路上なんかよりはずっと快適だ。初日はカーテンと布団を入れた。
真に感謝すべきものはいつも何気ない顔で存在していることが多いが、カーテンもそんなありがたいアイテムの一つだ。引っ越しの度に思うが、カーテンの無い部屋に人がいる状況はかなり異様に見える。
以前1Kマンションに住んでいた身からすると空間的にはそれほど変わらないのだが、自分の部屋と廊下の間に鉄扉が一枚しかないので音漏れが酷かった。廊下にいると全ての部屋の生活音が聞こえる。
聞き耳を立てればテレビの台詞も聞くことができる。これは少し恥ずかしい。引っ越し用の段ボールを窓や入り口に立てかけて少しでも和らげようとしてみたが、ほとんど効果はなかった。
むしろ転入早々段ボールで生活空間を囲う僕を見た他の住人が不安に思うだろう。ただでさえ後ろ盾の無い身の上、ご近所付き合いは無難すぎるくらいがちょうどいい。
◆明日から本気を出す……はずが……
何にしろ、これから新生活が始まる。思い描いていた28歳と比べると随分小さくまとまってしまったが、こういう時ばかりはネットに浮かんでいる「何をするにも遅すぎることは無い」という言葉に乗っかってみよう。よし、よし。僕は本当に明日から本気出す。
翌日。
年末まで予定していた3種類の仕事が全て同時に無くなった。こういうこともあろうかと3種類の仕事を紹介してもらっていたのだが、こうして全てが泡になることもある。
家賃、返済、光熱費。実家暮らしならいざ知らず、現代人は尻に火をつけられて生きている。名実ともに晴れて28歳の無職となった。25歳がアラサーを自称するように、フリーターが無職を自称するように、より低いと思う名刺を背中に貼り付けて保険としていたものが、本当の正体になってしまった。
言霊の力を感じる。「ありがとう」と声をかけ続けた花は大きく咲くし、「自分なんて無職みたいなもんですよ」と言い続けた人間は本当の無職となる。
◆手元のカネを元手にパチンコへ
翌週。
僕はパチンコ屋にいた。仕事はパチンコを打ちながらでも探すことができる。ホテルの清掃の時間にも、友達が出社する時間にも合わせる必要がない自由を満喫していた。
幸い、今年は春から夏にかけてたくさん働いたおかげで、手元に幾らかの金はある。何もしなくとも2ヶ月は生活できるだろう。貸金業者と裁判を繰り返したおかげで月の支払いもかなり減った。
パチンコの音と光が判断を鈍らせる。途中まで書いた「仕事ありますか?」のLINEの文章を、パチンコが当たる度に取り消して帰る日々だった。最近はスロットよりもパチンコの方が魅力的だ。
大工の源さんという革命的な台が生を受けてから約一年半、追随する爆速台たちは個性の限りを尽くしている。最近打って面白かったのは新鬼武者とガンダムUCだ。昼過ぎに1万円を持っていき、「今日こそは仕事を探す」と言いながら耳にイヤホンをし、勝敗に執着を持たず、両側が空いている座りやすい台に座った。
◆そのうち働くだろう……な
翌々週。
これを書いているのが今だ。今日は14時に起きた。前日にアニメを見始め、朝方に寝た。僕に必要だったのは自由ではなく予定だったのかもしれない。奴隷のような生活を自分に強いることで、ふにゃふにゃの自我を立たせていた。
わかっていた。低き低きへと流れる意思も、どうやら麓まで辿り着いていたらしい。ここに水の流れは無い。終着の水溜りだ。底には苔がむしている。綺麗な部屋の真ん中で、淀みを感じ始めたから慌てて記事を書いた。外界との数少ない接点だ。
向上心の無い人間が予定に縛られなければこうなってしまう。これでは負け犬の遠吠えというより、野良犬の腹の音だ。
「明日食べられればそれでいい」の精神は惨めな自分を守ってくれるが、その材料は向上心だったようだ。
きっと餌が尽きたらまた働くのだろう。
文/犬
―[負け犬の遠吠え]―
【犬】
フィリピンのカジノで1万円が700万円になった経験からカジノにドはまり。その後仕事を辞めて、全財産をかけてカジノに乗り込んだが、そこで大負け。全財産を失い借金まみれに。その後は職を転々としつつ、総額500万円にもなる借金を返す日々。Twitter、noteでカジノですべてを失った経験や、日々のギャンブル遊びについて情報を発信している。
Twitter→@slave_of_girls
note→ギャンブル依存症
Youtube→賭博狂の詩