『DUNE/デューン』ドゥニ・ヴィルヌーヴが語る、巨匠ハンス・ジマーが作った“異星の音”

 世界中で「圧巻の映像体験!」と称賛されているSF映画『DUNE/デューン 砂の惑星』が、ついに日本でも公開された。『スター・ウォーズ』や『アバター』シリーズなど、数多くの作品群に影響を与えてきたフランク・ハーバートによるSF小説の映画化作品としても、熱いまなざしを浴びている本作。メガホンをとったドゥニ・ヴィルヌーヴ監督をリモートで直撃し、巨匠ハンス・ジマーとの“新しい音作り”や、念願の映像化に込めた監督ならではのこだわりポイントなど、興味深い撮影秘話を聞いた。

 ヴィルヌーヴ監督といえば、SF映画の金字塔『ブレードランナー』(1982)の続編『ブレードランナー 2049』(2017)や、『メッセージ』(2016)など、スタイリッシュかつ静謐(せいひつ)な映像美とリアルな人間ドラマを紡(つむ)いできた名手だが、本作はまさに彼の集大成的な作品となった。

 主演は、『君の名前で僕を呼んで』(2017)で第90回アカデミー賞の主演男優賞にノミネートされた見目麗しい若手俳優ティモシー・シャラメ。彼が演じるのは未来が視える能力を持つ青年ポール・アトレイデス役で、移住してきた砂の惑星「デューン」で、アトレイデス家と、宇宙支配をもくろむ宿敵ハルコンネン家との壮絶な戦いに巻き込まれていく。

●コンセプトは「地球とは異なる文明を持つ星の音楽」

 未知の映像美にもうなるが、ディズニーアニメーション『ライオン・キング』(1994)をはじめ、さまざまな映画音楽を手掛けてきた名匠ハンス・ジマーの音楽もまた、未体験のものだった。改めて、映画とは総合芸術の極みだと実感させられたのは言うまでもない。

 『ブレードランナー 2049』でもジマーと組んだヴィルヌーヴ監督は、直接会ってオファーしたそうだが、ジマーも原作の熱狂的なファンだったことが作品への情熱に拍車をかけた。

 「ハンスとはモントリオールでディナーをご一緒しました。彼にスコアをやってほしいとお願いしたら、彼から『DUNE』のスコアを作るのは昔からの夢だったと聞かされたんです。僕は思わず『その夢を実現してしまうことは怖くないですか?』と聞いたくらいです」と、ヴィルヌーヴ監督が当時のやりとりを明かした。

 そしてジマーは「地球とは異なる文明を持つ星の音楽」というコンセプトで、“異次元”の音を作り出した。

 「地球上に存在している楽器からは聞こえてこないような音を作り出したいということでしたが、それは新しい楽器をデザインするも同然の作業でした。例えば管の楽器を作り、友人に演奏させたりして、今回のスコアを作ってくれました。僕はその楽器を見た時、すごいなあと感動しました」。

●原作小説で一番強いのは女性キャラクター

 原作小説を読み込んでいる2人は「小説の一番の強さは“女性的なもの”で、すなわち女性のキャラクターたちから来ている」と共に感じとったそうだ。

 「だから音楽も可能な限り、女性的なものを目指しました。そうすることにより、映画自体にも女性らしさが押し出されると考えたわけです。そこで、すごくパワフルな女性アーティストを何人か呼んで録音しました。僕もその収録現場に立ちあえましたが、素晴らしい体験だったと思います」。

 ジマーといえば、『レインマン』(1988)の音楽がアカデミー賞にノミネートされて以降、オスカーの常連となった名作曲家だ。近年は『バットマン ビギンズ』(2005)以降、クリストファー・ノーラン監督作の6作品を手掛けており、現在大ヒット中の『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』(2021)でも話題を呼んでいる。

 ヴィルヌーヴ監督は「まさに映画音楽のマスターと言える作曲家が、今回新しい形の表現を模索してくださったんです。自分が慣れ親しんでいる場所から1歩飛び出して、リスクを背負ってでも新しいことをしようとする姿には、大いに感銘を受けました」と巨匠を心からリスペクトした。

●ティモシー・シャラメとの固い信頼関係

 重責の主演を務めたティモシー・シャラメについては「本当にすてきな俳優です」と称える。

 「年齢が自分の子どもたちと近い(25歳の)ティモシーからすると、僕は父親のような存在だったのかもしれませんが、僕たちはすぐ仲のいい友人になれて、作品を作る上で共犯関係を結ぶことができたんです。彼は完全に僕のことを信頼してくれたので、僕自身もその期待に応えるべく毎日やっていきました」とティモシーの頼もしさを口にした。

 「ティモシーがこれほどの大作で主演を務めるのは初めてでした。彼がすぐに自分を囲むバブルを作り、役に集中する姿を見て、素晴らしいと思いましたし、そんな彼を守ることが僕の役目でもあった。また、現場でフランス語をしゃべれる人が、プロデューサーと僕、ティモシーぐらいしかいなかったのですが、やはり母国語のほうが語彙(ごい)は多いので、フランス語で話せたこともうれしかったです」。

●『スター・ウォーズ』にも影響を与えた「ボイス」の表現方法

 フランク・ハーバートによる原作小説は、『スター・ウォーズ』や『アバター』シリーズなど、数多くのSF作品群に影響を与えてきたことでも知られる。例えば、謎の女性集団「ベネ・ゲセリット」が使う、言葉を武器にして相手の意思をコントロールする「ボイス」という特異能力は、『スター・ウォーズ』の「フォース」を思わせる。

 ヴィルヌーヴ監督はこのボイスを表現するにあたり、ある考えから音の発想を得たという。

 「僕は、人間は遺伝子など先祖から受け継いできたものが常に意識化にあり、日常で何かを選択する時には、そうした内なる力が作用しているんじゃないか、という考え方にとても興味があるんです。映画の中では、『ベネ・ゲセリット』のシスターたちが、自分たちの内なる力を『ボイス(声)』という形で発揮することができるんですが、この力強いボイスの音を作るにあたり、先祖の女性の声が口からパワフルな形で出てくるようなイメージを考えました。ただし視覚的なトリックに一切頼らず、音だけで表現したかったんです」。

 ひとたびボイスを受けた側は、まるで意識を失ったかのように言われるがまま行動し、精神すら抑圧されてしまう。そんな強力なパワーを持つ“音”の表現にも注目だ。

●胸躍るメカやガジェットが多数登場 監督のお気に入りは?

 映像、音響とすべてをこだわり抜いた本作だが、ヴィルヌーヴ監督は芸術性だけではなく、娯楽性も意識して本作を手掛けた。

 「本作では宗教と政治が絡むことの危険性や、母と息子の関係性など、シリアスなテーマを扱っていますが、とてもヒューマンな物語でもあります。悲劇でもあるので、ダークな部分を中心に描かれますが、同時に娯楽性にあふれた作品でもあります。すごく感銘を受けるようなクリーチャーや、見たことがない新しいテクノロジーが登場しますが、いずれもハーバートが原作のなかで作り上げたもので、僕はそれをできるだけ忠実に表現しようとしました」。

 確かにSFファンが喜びそうなメカやガジェットが多数登場する本作。ヴィルヌーヴ監督のお気に入りは、鳥やコウモリ、昆虫のように翼を羽ばたかせて飛ぶ航空機「オーニソプター」と、虫のように小さい暗殺兵器「ハンターシーカー」だそう。ぜひ登場シーンを、楽しみにしていただきたい。

 最後に、これまで手掛けてきたSF映画との違いについて、監督はこう語った。

 「今までの自分の作品は、R指定の作品が多かったです。内容の怖さや、暴力表現があり、どちらかといえば大人向けの作品でした。でも僕が『DUNE』の小説と出会って夢中になったのは、13~14歳くらいの時期です。だから映画を通して、その魅力を発見してもらいたいという気持ちが強かったので、今回は若い方にも見てもらえるようなエンタメ作品にしようとしました」と聞いて大いに納得。

 まさに本世紀のエポックメイキングな1作となるであろう『DUNE/デューン 砂の惑星』は、幅広い世代の人々に衝撃と感動を与えるに違いない。(取材・文:山崎伸子)

 映画『DUNE/デューン 砂の惑星』は公開中。

2021/10/16 7:00

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