現状が重なるリアルさ…世界的人気作品となった「イカゲーム」に迫る

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《text:Akemi Kozu Tosto / 神津トスト明美》

10月に入った直後にNetflixを開いて驚いた。「全米トップ作品」ナンバーワンに「SQUID GAME(イカゲーム)」なる、見慣れない韓国ドラマがランキングされていたのだ。そこでアメリカ生活が日本での生活より長くなってしまったこの筆者が、ハリウッド的目線で「イカゲーム」の人気を探ってみた。

これまで韓国ドラマに無関心だったこの筆者は、その妙なタイトルとポップなピンク色のタイトルフォントにひかれて興味を持った。ブラックユーモアなストーリーだろうか? おまけに全米ナンバーワンのアジア系作品。これはチェックしないわけにはいかない。


思わずシェアしたくなる…口コミとソーシャルメディア


ドラマ・シリーズの強みは、映画よりも長い時間をかけて背景設定やキャラクターを説明することができる。最初は「イカゲーム」の暗いトーンと残酷さに驚いたが、見ていくうちに物語の設定と登場人物たちに引き込まれていった。

“生き残りゲーム”をテーマにした作品は以前にもあったが、現実味のあるシリアスなドラマと究極バイオレンスを見事に絡めた本作のドラマ作りに圧倒された。9話見終わった翌日、友達に連絡したときの開口一番が「イカゲーム見た??」になった。

PR業界では「口コミに勝る宣伝はない」と言われている。「イカゲーム」の強みはそこだ。とくにソーシャル・メディアが蔓延しているアメリカはSNSを制するものが勝つ。

これまでNetflixの視聴者数トップは配信開始から28日間で8,200万人が視聴した「ブリジャートン家」だったが、9月17日配信開始の「イカゲーム」の視聴者数は1億1,100万人に達し、10月13日時点で視聴者数1位のヒット作となった。

ドラマの背景設定が架空の場所や近未来などではなく現在で、大国の大都市、主人公はどこにでも居そうな金銭問題を抱えた人々。なかなか上がらない給料でこき使われ、クレジットカード地獄に喘いでいる大多数のアメリカ人たちも、「イカゲーム」の出演者に容易に自分の姿を重ねることができる。優雅なクラシック音楽と共にスタートする参加者の1日。無邪気な子供のお遊びゲームが生死をかけた戦場となる。

イノセンスとバイオレンスの不協和音。「イカゲーム」の脚本が長らく日の目を見なかった(監督・脚本を務めたファン・ドンヒョク が「Variety」紙にそのように語っている)まさにその理由が、話題作りのタネになった。9月17日配信開始から見たファンたちの口コミと、登場キャラクターや扱われている子供時代のゲームをネタにしたミーム(Memes)ことGifイメージがインスタグラムやTikTokをはじめとしたSNSに溢れ始めたことが最大のプロモーションにつながった。


万国共通のテーマ


「イカゲーム」の根底にある物語はまえにも映画で見たことがある。『バトル・ロワイヤル』やハリウッド大ヒット作『ハンガー・ゲーム』のようなバイオレンスなサバイバル・ドラマだ。「イカゲーム」は、古典作品に見られる人間の欲や慈悲などの本質を扱った、現代のグリム童話といえる。だが、それに加えてこの「イカゲーム」では他の作品にはなかった目玉がある。それは、現実味だ。

借金、移民問題などから金銭問題に追い込まれ人生破滅状態の人間たちが、巨額の賞金を勝ち取るために、詳細不明のゲーム大会に集まってくる。ゲーム参加の契約書に署名をするときにゲームの恐ろしい全貌が明らかになっても、自らの意志で参加し続ける同意をする。

この契約書シーンでは、番組を見ている視聴者にもチョイスが投げられている気がした。「このまま、この残酷な番組を見続けますか?」それと同時に、これから悲惨な目に遭うだろう参加者たちが無実の被害者ではなく、自らの選択でこの恐ろしいゲームに参加したということを再認識させている。この契約書シーンは、アップル製品などについてくる何ページもの契約書をよく読みもせず、盲目に「同意」ボタンを押している我々がダブって見え、背筋が寒くなった。


現状が重なるリアルさ


この筆者が長年住んでいるアメリカも、ここ数年特に貧富の差が肌で感じられるほどになってきている。豊かに見えるのは上層部1%の富裕層だけ、中層階級は生活費の高騰に追いついていない給料で、とてつもない額に跳ね上がった賃貸のアパートに住み、40代になっても払いきれない高額の学費ローンに喘ぎ、クレジットカードの借金に追われる生活。まさにサバイバルである。

一生楽をしていけるような大金が手に入ったらどんなにいいか、と思っている人たちはたくさんいるはずだ。本作はそんな視聴者に自問自答させる。「自分の命が危なくなったら、他人を殺してサバイブするか?」去年からのコロナ禍で精神的・金銭的に八方塞がりな気分に追い込まれた人たちはきっと少なくないはずだ。窮地に追い込まれたとき、果たしてあなたは自分のことだけを考えるか、あるいは他人を助けることも考えられるか?


話題が話題を生む


見た翌日になっても、家族や友達と見たエピソードについて軽く数時間は語り合えてしまう。そしてこれが口コミとなって広まっていく。

先日、NBCネットワークで“このトークショーに出たら一人前のエンタテイナー”と言われている「ジミー・ファロンのトゥナイト・ショー」に、「イカゲーム」の主役4名(イ・ジョンジェ、チョン・ホヨン、パク・ヘス、ウィ・ハジュン)が衛星でゲスト出演した。番組が9月17日にデビューしたことを考えれば、たった3週間後のスピード・ゲスト出演だ。スーツとドレスでビシッと決め込んだ4人は、死闘でボロボロになった姿ばかり見ていたお茶の間のファンにとっては、一瞬誰が誰だかわからないステキさだった。(モデルとして活躍していたチョン・ホヨンはオーディション・テープを監督に送ったことで目に止まったとか)ジミーによれば、10月現在で本作は94か国のNetflixランキングでNo.1らしい。驚異的な人気である。

映画学科の学生時代に、教授が話してくれた言葉を思い出した。「映画のネタで、“前代未聞のストーリー”などというものはまず存在しない。だが、『きみ』という監督の観点で作られたストーリーはこれまでに存在していない物語だ」「イカゲーム」は、サバイバル・ドラマという既存のジャンルに、脚本・演出を兼ねたファン・ドンヒョク監督が独特のビジョンとストーリー設定で新鮮な生命を吹き込んだ、前代未聞の秀作なのである。



(text:Akemi Kozu Tosto/神津トスト明美)


■関連作品:
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  • 10/14 17:00
  • cinemacafe.net

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