永田町を揺らす財務次官「爆弾」! 背後に麻生氏? 岸田首相は対応に苦慮

2021年10月8日発売の月刊誌「文藝春秋」11月号に掲載された1本の論文が政界に波紋を広げている。

寄稿したのは、矢野康治氏。「最強官庁」とも称される財務省の事務方トップに立つ現職の事務次官で、その内容は、「爆弾」級の苛烈さだ。

矢野次官は財務省きっての財政再建論者

矢野氏は最近の与野党の政策論争を、「まるで国庫には、無尽蔵にお金があるかのような話ばかり」と批判。日本の財政の現状」を「タイタニック号が氷山に向かって突進しているようなもの」と切り捨て、「(政策論議は)実現可能性、有効性、弊害といった観点から、かなり深刻な問題をはらんだものが多くなっている」とこき下ろしている。

また、「日本人は本当にバラマキを求めているのか。日本人は決してそんな愚かではない」とも強調している。

では、矢野氏とはどういう人物なのか。1985年に旧大蔵省入省。菅義偉前首相の官房長官時代の秘書官を務め、財務省に戻って主税局長、主計局長といった要職を歴任した。21年7月、これまで東大卒がほとんどを占める同省事務次官に、一橋大卒で初めて就任した。省内きっての財政再建論者であり、政治家にもためらわずに持論を述べる直言居士として知られる。

岸田文雄首相が関係閣僚に数十兆円規模といわれる経済対策の策定を指示するなか、現職の省庁幹部が政権批判ともとられかねない文書を商業誌で発表するのは極めて異例だ。

与党内は強く反発している。間近に迫った衆院選に向け大規模な経済対策を有権者にアピールしようと準備する最中に、背中から撃たれた形になったと受け止めたのだ。

「大変失礼な言い方だ」。自民党の高市早苗政調会長は10日に出演したテレビ番組で「基礎的財政収支にこだわり、困っている人を助けない。馬鹿げた話だ」と財務省を逆批判した。

高市氏は自民党総裁選で、デフレ経済からの早期脱却を図るため、財務省がこだわる基礎的財政収支の黒字化目標の凍結を主張するなど財政拡張を主張。まさに「バラマキ合戦」の旗を振った一人だからだろう。

松野博一官房長官は11日午前の記者会見で「財政健全化に向けた一般的な政策論について私的な意見として述べたものと承知をしている」と火消しに努めたが、与党内には「政権への明確な反逆行為。直ちに更迭すべきだ」との強硬論もくすぶる始末だ。

「更迭」処分は岸田首相のソフトムードが台無し

ただ、官邸には矢野氏の処分にはとても踏み切れない事情がある。

矢野氏は寄稿について、事前に麻生太郎副総理兼財務相(当時、現自民党副総裁)の了解を得ていたという。内容も麻生氏の在任中の発言と重複する部分が多く、「麻生氏の言ってきたことを代弁したようなもの。寄稿への批判はそのまま麻生氏批判につながってしまう」(経済官庁幹部)。

周知のとおり、麻生氏は岸田政権誕生の立役者の一人で、甘利明幹事長など政府・党の要職を麻生派が固めている。矢野氏の処分に踏み切れば、麻生氏との関係悪化を招きかねない。

さらに大臣の承認を得たうえで寄稿した内容を問題にし、矢野氏の「罪」を問うことになれば、官邸に逆らう官僚を粛正する政権として、強面のイメージを有権者に植え付けるリスクもある。岸田首相のせっかくのソフトムードを台無しにしかねない。

岸田氏は総裁選期間中から、さまざまな声に耳を傾ける姿勢を強調し、分配も重視し、分厚い中間層の復活を掲げるなど、成長一辺倒の感が強かった「安倍-菅政権」からのイメージチェンジに腐心してきた。それだけに、矢野氏の論文への対応に苦慮しているのが実情だ。

(ジャーナリスト 白井俊郎)

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