帰宅困難者がまたも溢れたワケ「ハード面の備えはできていたが、運用に課題があった」

◆震度5強で首都圏インフラはマヒ、首都直下地震ではさらなる被害も

 緊急事態宣言が明けて、人出が戻り始めた矢先だった――。10月7日午後10時41分ごろ、千葉県北西部を震源とするM5.9、最大震度5強の地震が発生。帰宅困難者が駅に溢れ返る光景に、10年前に起きた東日本大震災の教訓はどこに?と不安に思った人も多いのではないか。

 防災危機管理アドバイザーの古本尚樹氏は「ハード面の備えはできていたが、運用に課題があった」と語る。

「帰宅困難者が公共交通機関の復旧まで待機する一時避難所は、かなり整備されてきた。しかし今回は深夜に発生したため、避難所の担当者と連絡がつかずに開設できたところは限られていたし、開設できても3~4時間を経てからというケースも」

 品川駅ではタクシー待ちで長蛇の列。鉄道の乱れは翌8日も続いた。

「首都圏は公共交通機関の利用者が多く、たとえ1時間で復旧しても影響は甚大です」(古本氏)

◆ホテルやタクシーに人が殺到

 そのため帰宅困難者の受け入れは、民間企業にしわ寄せが及ぶ。

「ホテルやタクシーに人が殺到。JRや私鉄各社は、乗客の安全確保対策は進んでいるものの、駅周辺に人が集まるのを防ぐのは難しい。場所によってはタクシー待ちの行列が駅構内まで延び、将棋倒しなどの被害が発生する危険性もあった。災害時には混雑する駅に向かわず、会社にとどまることができる備えも必要になっている」

◆都内の二十数か所で漏水

 国土強靭化計画によって、災害対策のインフラ再整備は進んでいると思いきや、都内の二十数か所で漏水があった。もっとも大切な足元のライフラインが見落とされていたのではないか。

「漏水の原因は『空気弁』の不具合です。一方で、水道管の老朽化が深刻なのも事実。しかし、費用対効果の観点から交換は進んでいない。効率化のため水道民営化の動きもあるが、災害時にどこまで対応できるかは未知数。

 震度6ともなれば水道管破裂や断水もあるなか、ここ最近、東北や九州でも強い地震があったように、日本周辺が活発な地殻変動の時期に入っている。自治体間の協力体制の構築が急務です」

◆首都圏の下は複雑にプレートが重なり合う

 千葉県北西部が震源だったが、最大震度5強の揺れを観測したのは震源地からやや離れた東京・足立区や埼玉・川口市など。

「震源が75㎞と深いため、震源から距離があっても地盤が軟らかい場所の揺れは大きくなる。首都圏の下には複雑にプレートが重なり合っているため、いろんなタイプの地震が起こりうる」(古本氏)

 首都直下地震ではM7クラスが想定される。教訓を次につなげる工夫が必要だ。

<取材・文/週刊SPA!編集部 写真/毎日新聞社/アフロ>

※週刊SPA!10月12日発売号より

2021/10/13 8:52

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