フリーランスが、賃貸住宅の審査をあっさり落とされてわかったこと

 UberEats(ウーバーイーツ)の配達員は、アルバイト(直接雇用)だと思っている人もいるが、あれはフリーランス(個人事業主、業務委託)である。出前館の配達員は、時給制のアルバイト中心だったが、フリーランスを増やそうとしている。また、一部の大企業では、専門職の社員を、フリーランスとして業務委託契約に切り替える動きが出ている。

◆社員・バイトと同じような仕事のフリーが増えている

 同じような仕事でも、社員・アルバイトとフリーランスは大違い。フリーランスは自営業だから、労働法で守られない。残業代も最低賃金規制もないし、失業手当もないし、仕事を切られるリスクも高い。この、企業にとって都合がいい“フリー化”が世界のトレンドで、問題にもなっている。今年2月、イギリスでは最高裁が、UberEatsのドライバーはフリーではなく「従業員」だという判決を出し、英Uberは待遇を改善した。

 

 フリーランスが昔から多い業界の一つが、メディア業界だ。フリーだと、クレジットカードや住宅ローンの審査が通りにくいのは知られているが、賃貸住宅でさえ大変らしい。フリーライターの吉川ばんびさんは、つい最近、賃貸契約でそれを実感したという(以下、吉川さんの寄稿)。

◆賃貸住宅の審査、1件はあっさり落ちた 

長く住んでいた大阪から東京へ引っ越すことになった。生活の環境が変わること自体に不安はなかったのだけれど、フリーランス(個人事業主)という、一般的には「社会的信用が皆無」に等しい身分なので、賃貸物件を借りるに当たって審査が通るかどうかが非常に怪しく、「念には念にを」とあれこれと工夫する羽目になってしまった。

結果から言うと、それぞれ別の不動産会社から3件の物件に審査を申し込み、2件通った。1件は落ちた。信じられないくらいあっさり落ちた。最終的に納得のいく物件に引っ越しが決まったのでまあ全然いいんだけど、すごいあっさり落ちたし、なんなら審査を進めているはずの保証会社からは連絡すら来ず、あまりにも連絡がないので不動産会社の担当者が審査の進捗を保証会社に確認したあと、元気に「落ちてました!」と報告をしてくれた。

今後、同じような境遇の人(非正規雇用、フリーランス、アルバイトなど)が引っ越すときに役立つかもしれないので、審査が通ったときの状況と、あっさり落とされた状況を書き記しておくことにする。

◆「会社員」しか信用されない日本

「フリーランスの引っ越しは審査が通りづらい」というのはこれまでに業界の先輩方から散々聞かされていたので、複数人の知人に連絡を取り、事前に「審査対策」を徹底しようと決めていた。年収が数千万円あるだろう有名人ですら普通に数件連続で審査落ちすることがあるそうなので、この国において会社員以外の信用というものが皆無に等しいのは明らかだし、実際にフリーランスの立場から見ても「そらそうやろなあ」と思ってしまうくらい収入は月によって大きく変動する。

◆年収の書類すら出す前に「落ちてました!」

そのため1件目の物件の申し込みの際、あらかじめ不動産会社担当者の佐藤さん(仮名)にメールで「個人事業主なので、おそらく会社勤めの方より審査に通りづらいかと存じます。そのため、オーナーさんや保証会社さんに安心していただけるよう、確定申告書類や主要取引先などを記した資料、また、審査に必要となる書類を準備してお送りさせていただきたいのですが、どのタイミングでお送りすればよろしいでしょうか」と相談をした。

数時間後、佐藤さんからは「申し込みを保証会社様にお送りしましたので、審査が進むまで1週間ほどお待ちください」とだけ返信があった。ここで「確定申告書類の話は?」と思ったが、ひとまず申し込み書類の年収など最低限の情報を確認後、審査が進んだ段階で提出を求められるものだと解釈し、とりあえず連絡を待ってみた。結果、佐藤さんから「すみません落ちました!」と元気に連絡が入った。違くて。

◆保証会社は何を審査したのだろうか?

審査に落ちたショックはさておき、どうしても気になったので、「次の物件探しましょうか!」と話を進めようとする佐藤さんに、「事前にお聞きしたと思うんですが、確定申告書類や他に必要な書類を提出した場合、審査に通った可能性はありますかね?」と聞いてみる。

ここで、数時間おきにやりとりしていた佐藤さんからの連絡が一旦途絶える。翌日、「保証会社さんの方で審査されているので、審査の内容は私どもにはわかりかねます。お探しの物件の条件など頂けましたら、新しい物件をお探しさせていただきます。引き続き宜しくお願いします」と返信があった。だからそういう話じゃなくて。

◆とにかく売れっ子アピールを!

今さら佐藤さんに何を言っても結果は変わらないので、ひとまず「鉄筋コンクリートのマンションでペット可、二階以上」を希望の条件として送っておいた傍で、自分で探した他の物件をピックアップし、別の不動産会社と連絡をやりとりし始めた。

するとすぐに不動産会社から折り返しがあり、オンライン内見をさせてもらった物件が割と良かったので、申し込みの手続きを進めてもらうことにした。佐藤さんの一件で学びを得たので、オンライン内見の際に「個人事業主なので審査のときにあったほうが良い書類を一緒に送りたい」と伝えたところ、「わかりました! 確定申告書類は絶対にあった方がいいですね。申し込み書類に添付していただければ、一緒にお送りしておきます」とアドバイスをもらえたため、確定申告書と、主要取引先リストを送った

また、オンライン申し込みであったため、先輩からの「とにかく売れっ子アピールを!」という教えを忠実に守り、備考欄には書籍の出版経験、メディア出演経験、連載媒体などを記入しておいた。

◆別の不動産会社の2件は、あっさり通った

その申し込みから丸一日も経たないうちに「審査通りました!」という連絡をもらい、ひとまず引っ越し先が見つかったことで心の底から「良かったあ……」という声が漏れた。ただ、そこよりも条件の良い物件をまた別の不動産会社から紹介してもらっていたところだったので、一旦本契約を待ってもらい、2件目と同じように3件目の審査の準備を進めることにした。

その間に、佐藤さんはひたすら私に軽量鉄骨か木造のアパートの物件情報を送り続けるbotと化していて、おそらく私が条件として提示した「鉄筋コンクリートのマンションで二階以上」の物件が見つからなかったのだろうと推測できた。(佐藤さんのbotは、私が「引っ越し先が決まりました。お世話になりました」と連絡するまでの2日間、稼働をやめなかった)

◆言われなくても、確定申告書や取引先リストを出すべき

3件目の審査も翌日無事に通ったので、おそらくフリーランスの賃貸物件の審査には、確定申告書類と取引先リスト、できれば「どういう職業をしているか、どんな会社と継続して取引しているか」をイメージしやすいよう工夫して伝えるのが重要なのだと考えられる。

それでも審査に不安を感じる場合、もしも親、きょうだいなど(友人でも可の場合もあるらしい)で、収入が安定している連帯保証人を頼める人がいるのであれば、より審査に通りやすくなると思う。(筆者は両親と絶縁状態であるため、連帯保証人は用意できず保証会社に頼る形で物件審査に通った)

◆審査を過剰に恐れなくてもいい

今回の経験を踏まえて総括すると、おそらく自発的に「こういう書類送ります」と言い出さない限り、担当者から「審査に有利になる書類を用意してほしい」と提案されないままあっさり審査落ちする可能性も十分考えられるので、物件探しの際には、実績や事業内容などはどんどんアピールする必要がある。

所感としては、よほど競争率の高い物件でなければ「意外と審査通るんだな」くらいの感覚なので、フリーランスのみなさまは、引っ越しの際に審査を過剰に恐れなくてもいいだろうと思う。

<文/吉川ばんび>

【吉川ばんび】

1991年生まれ。フリーライター・コラムニスト。貧困や機能不全家族、ブラック企業、社会問題などについて、自らの体験をもとに取材・執筆。文春オンライン、東洋経済オンラインなどで連載中。著書に『年収100万円で生きる-格差都市・東京の肉声』 twitter:@bambi_yoshikawa

2021/10/12 15:52

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