安住アナ・香川照之の朝番組『THE TIME,』7つのツッコミどころ。昭和か!?

 10月1日、TBSの朝の新情報番組『THE TIME,』(ザ・タイム、平日午前5:20~8:00)が始まった。総合司会は、TBSのエース・安住紳一郎アナ(48)で、金曜の司会は俳優・香川照之(55)。TBSの気合がわかるキャスティングだ。

 前番組『あさチャン!』の終了間際の世帯視聴率は4.0%前後だったが、10月1日の『THE TIME,』は6.5%と好発進。だが、翌週の2-3回目は4.8~4.9%だった。10月1日の裏番組、『グッドモーニング!』8.1%、『めざましテレビ』7.7%と比べると、厳しい闘いになりそうだ(いずれも7時台、ビデオリサーチ調べ、関東地区)。

 では、番組の質として、『THE TIME,』はどうか? 経済評論家でニュース番組ウォッチャーの佐藤治彦氏に、レビューしてもらった。自身も朝番組にレギュラー出演していたことがある佐藤氏。安住アナを高く評価して、「ぜひともこの番組を成功させてもらいたい」と言うのだが…。(以下、佐藤氏の寄稿)。

◆成功してほしい…がイラつくほどツッコミどころ満載

 TBSの看板アナウンサー安住伸一郎さんがいつもの落ち着いた声で語り出した。

「おはようございます。今日から新しい番組がスタートです。夏目(三久)さんの笑顔を楽しみにしていたみなさん申し訳ない。今月からおじさん2人が担当することになりました」。

 10月1日(金)朝5時20分、『THE TIME,』 がスタートした。初回なので、安住氏と香川氏がダブルで登場したのだ。

 だが、鳴り物入りで始まったこの番組は、ちょっとイライラするほどのツッコミどころ満載だ。いつもは別番組を見ている筆者だが、編集部からの要請で、最初の3日間を見てみた。そのツッコミどころを書き出したうちの7項目だけを今回はご紹介する(ただし、コーナーの構成などは流動的)。

◆その1:ピアノが大音量すぎる

 初日、番組冒頭の安住アナの言葉を心地よく聴けた人はどれだけいたんだろうか?

 この番組の特徴のひとつは生ピアノ演奏だそうだ。奏者も日替わりできちんと紹介もされる。それほどの番組の特徴なのだから強調したいのはわかるが、それが報道情報番組の出演者の声をかき消すほどの大きさとはなんたることだろう。

 特に10月1日の初回放送では、番組を通してまさに弾き続けている印象だった。ピアノ演奏が続く、とにかく続く。それも大音量。曲は変わってもアレンジは単純なものばかり。さすがに2日目から出番は大幅に減ったように思われるが、好き嫌いがはっきりしそうなピアノ演奏である。

 ちなみに大音量とは、うるさいと読みます。

◆その2:タイトルがうざい

 番組冒頭で、安住アナは番組タイトルのこだわりを紹介。午前4時30分〜5時20分の放送は『THE TIME′』(以下、ザ・タイムダッシュ)で、「ここからはザ・タイムになります」。そうして、TIMEの上にあったダッシュ記号をEの下に移動させて、「THE TIME,」(以下、ザ・タイム)と、番組が変わったことを強調する。

 ここで、まず申し上げたいことは、TBSの朝は、何年も前からとても早いと言うことだ。

 深夜から早朝まで、ほとんどの民放は通販番組と再放送番組で朝までつなぐ。NHKでさえニュースは午前5時開始だ。それが、TBSは深夜3時45分からTBSニュースを放送する。これはストレートニュースをアナウンサーが淡々と伝えるいい番組だ。4時30分からの『はやドキ!』もいい番組だった。

 が、『はやドキ!』も9月で終了し、10月からは午前4時30分『ザ・タイムダッシュ』、5時20分『ザ・タイム』へと続く。

「ザ・タイム」と「ザ・タイムダッシュ」では番組名をわざわざ変えているが、見ている方は違いがよくわからない。正直言って、うざい。そして、このタイトル問題は他にも影響する。

◆その3:番組がいつ始まっているのか、よくわからない

 4時30分からの「ザ・タイムダッシュ」は、杉山真也アナをメインとしてTBSの局アナが3人登場する。「ザ・タイム」と同じスタジオで、先述した元気すぎるピアノが午前4時30分から始まる。「ザ・タイムダッシュ」には安住アナが出てこず、メインMCの杉山真也アナウンサーは入社15年目で安定感抜群の人だ。

 5時20分に安住アナの「ザ・タイム」が始まるが、この区切りがよくわからないのだ。

 安住アナが登場しても、3人の社員アナは引き続きしばらく出演する。安住アナが3人紹介するのだが、こっちは、もう1時間も前から3人を見ているから、「今さら名前を言われても」「もう一度おはようございますと言われても」と思ってしまう。そして3人は朝6時前後からは急に出番が減る。

 このため、4時30分から同じ番組が続いて、6時頃にフェードアウトしたかのように見えるのだ。

 ところが、そう思って見ていると、杉山アナが7時台冒頭などのニュースに再登場したりするので、あれ、まだいたんだとなる。しかし、杉山アナはそのあとは特に出番もなく、番組最後の1分ほど、広大なスタジオの後方の端に立たされ、手を軽く振って終わっていた。豆粒ほどの大きさで、できるだけ映らないように、という感じ。正直、気の毒だ。杉山アナは、朝4時30分から奮闘しているのに。

 また、社員アナや各お天気コーナーの気象予報士も、いつの間にか消えていなくなる。「さようなら」が出演者のほとんどにないのは、違和感ありまくりである。

◆その4:気象予報士17人がセールスポイント?

 出演者が多いので、彼らの名前や、おはようございますを幾度となく聞かされることになる。出ているのかわからない出演者もいる。全国の朝をリレー中継するので、地方局のアナウンサーも多数登場する。

 極め付けが気象予報士だ。なんと17人もいるという。各局では気象予報士を番組の顔として大切にし、視聴者は親しんでいくものだが、『ザ・タイム』では17人が、代わる代わる登場するのだ。もう覚えられない。覚える気もない。

 ところが番組は、さらに局アナ2人を気象予報士試験に挑戦させるという。気象予報士19人体制にするつもりなのだろうか? しかも、合否通知を番組内でやってみせた。「2人とも東京大学卒業のアナウンサーで優秀です。さてどうでしょうか?」。ここでお約束のCMとなり、CM明けに不合格が発表された。もう報道番組どころか、情報番組でもなく、バラエティ番組である。

 さらに、スタジオには鳩時計のような小窓がいくつもついた小屋があり、一定の時刻になるとそこから小さな鳥の人形が飛び出して時刻を伝えるだけでなく、出演者と一芝居をする。シマエナガという鳥らしい。人形だけかと思いきや、アニメバージョンもある。1匹かと思えばファミリーなので、いろいろなシマエナガが登場する。はっきり言う。多すぎだよ!

◆その5:番組のコーナーがバラバラで統一感に欠ける

 出演者も人形も多いなと思っていたらスタッフも多かった。10月3日のTBSラジオ「安住伸一郎の日曜天国」で、安住アナが愚痴混じりにこう語った。「スタッフは総勢280名もいるんですよ」。その数に驚いた。

 実は筆者も昔、東京のキー局の朝番組(5時間もある)にレギュラー出演していたことがあるが、これほどの人数はいなかった。もちろん全員が毎日担当するわけではないだろうが、それにしても多い。

 この280人の陣容に対して、安住アナによると、半分は前の「あさチャン!」スタッフ、4分の1はバラエティ番組など他番組のスタッフ、4分の1が新スタッフ。安住アナも、全員の名前は覚えられないし、どんな仕事をしているのかよく知らないスタッフもいる、とこぼしていたほどだ。

 こうして、背景がバラバラの人が、それぞれのコーナーを作るのだ。番組のテイストは一貫しない。もちろん総合演出もいるのだろうが、番組全体に共通した空気感、テイストが生まれるには相当の時間がかかるだろう。ここまで言ってエンドロールを見ていたら、かつて世話になった人の名前を散見した。頑張ってほしい(笑)。

◆その6:じっくり座って見ないと役に立たない

 テイストがバラバラでも、小気味よくいろんな情報を朝の忙しい時間に伝えてくれれば、それはそれで構わないと思う。多くの番組が、画面を見続けなくても、短いナレーションをきくだけでも情報が伝わるように工夫しているものだ。

 ところが、この朝番組の定型と「ザ・タイム」の作り方は違う。

 筆者が観た日は、最初にSNSでバズったワードを10個紹介するコーナーがあった。「これって何かわかりますか?」などクイズ形式のようなやりとりがあり、結局2つの内容を伝えるのに5分弱かかっていた。おせーなと思うと、メインのもの項目は後ほど紹介します、となる。この時間にしか番組を見られない人には謎のまま終わる。

 メインのニュースについても、例えばフジテレビの『めざましテレビ』なら冒頭で、メインニュース、スポーツ、芸能などの項目を一気に見せ短くテンポよくとりあえず紹介する。テレビ朝日『グッドモーニング』も朝6時からの2分弱で主なニュースを短くビシッと伝える。その後も同じニュースを短く繰り返し、時には解説付きで深く紹介する構成なので、視聴者が見られる時間に番組の一部を切り取るだけで十分情報が入ってくる。

 ところが「ザ・タイム」はメインニュースの時間になると、これから30分で14のニュースをお伝えしますと言うだけで、項目は出るものの、中身はわからない。重要な項目から始まるとも限らない。ゆっくり画面の前に座って、じっくり見ることができる人に向く構成なのだ。

◆その7:昭和か!

 TBSのこの時間の情報報道番組は、時代をリードしてきた。1970年代の『おはよう700』『おはよう720』で使われた洋楽のカバー曲、「カントリーロード」や「ビューティフルサンデー」は、日本で大ヒットしたほどだ。

 それがいつの間にか、他局の朝番組にもっていかれてしまった。数々の朝番組を思い出しながら、『ザ・タイム』は、なんでいまピアノや鳩時計なんだろう?と考えていた。浮かんだキーワードはまさかの「昭和」。昭和の朝番組には、エレクトーンの生演奏があったし、ぬいぐるみの登場もあった(今や、ぬいぐるみは、日本テレビの天気予報の「そらジロー」ぐらいだが)。

『ザ・タイム』の7時は、「7時のうた!今日もいい日に」というのんびりした歌で始まるのだが、まさか、これをかつての朝番組のようにヒットさせようと思ってるのだろうか。ピアノ、人形、歌…少しひねってはいるが昭和テイストてんこ盛り朝番組なのだ。そういえば、番組のテーマ曲も懐かしい昭和の大ヒットソング、ゴダイゴの「銀河鉄道999」である。

◆スター・安住アナを成功させてほしい

 10月3日のラジオ番組「安住紳一郎の日曜天国」ではっきり言った。新番組についてアシスタントから、「おめでとうございます」と言われてこう返したのだ。

「いえ、全く、おめでとうございますはふさわしくありません」「自分から希望していったわけではありません」「むしろ、泣く泣くいろんな事情を汲み取っていったんだよ」「私、最後の最後まで抵抗したんですから」。

 安住紳一郎は、久米宏以来のTBSが生んだスターアナウンサーである。どうか、成功させてもらいたいし、『ザ・タイム』を見て、この日曜朝の安住さんのラジオ番組を聴くと面白さは倍増する。愚痴る安住さんは最高に面白いからだ。

<文/経済評論家・佐藤治彦>

【佐藤治彦】

経済評論家、ジャーナリスト。1961年、東京都生まれ。慶應義塾大学商学部卒業、東京大学社会情報研究所教育部修了。JPモルガン、チェースマンハッタン銀行ではデリバティブを担当。その後、企業コンサルタント、放送作家などを経て現職。著書に『年収300万~700万円 普通の人がケチらず貯まるお金の話』、『年収300万~700万円 普通の人が老後まで安心して暮らすためのお金の話』、『しあわせとお金の距離について』など多数 twitter:@SatoHaruhiko

2021/10/12 8:53

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