「殺された民間人の中には赤ん坊も」在日ミャンマー人の切実な叫び

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◆民主主義を求めて一丸に

 台風一過の10月2日。秋口とは思えない陽光に照りつけられ、JR新宿駅南口も汗が滲み出るような暑さに見舞われた。緊急事態宣言が解除されたばかりの駅前は人通りも多く、衆議院選挙を控えた選挙活動や、市民団体のビラ配りなども散見される。そんな喧噪の中、ひと際目を引く若者たちの一団があった。

「ご通行の皆さん、こんにちは。私たちは日本に住むミャンマー人です」
「軍事クーデターを受け、私たちは日本の人たちの助けを必要としています。避難民の人たちを助けるため、1円でも構いませんので寄付をお願いできないでしょうか」

 この募金活動を企画したのは「ビルマ民主化同盟」と「Mynmar Global Support Foudation」という2つの団体だった。日本でのミャンマー報道が下火になってきているなか、彼らは何を思うのか。それぞれの代表に話を聞いた。

◆豊富な活動歴とアートの力を活かす

「ビルマ民主化同盟」の代表を務めるのは、アウン・トウン・リンさん(44)だ。彼さは日本で飲食店を経営しつつ、ビルマ民主化同盟の代表を務めている。ミャンマーでは芸術系の学生で、アートを用いた民主化活動をしていた。「(要注意人物の)リストに入っているんじゃないかと思いますね」とご本人。身に危険を感じたのもあり、日本に移り住んできたのが16年ほど前だという。活動歴は古く、10年以上前から団体の中核を担ってきた。

「ミャンマーでは今、死亡者も逮捕者も数えきれないほど出ていて、殺された人の中には赤ん坊も含まれています。軍に捕まって行方不明になったり、翌日にそのまま亡くなったという人もいる。これが一番怖いですね」

 彼の関心は今、日本のミャンマー大使館に注がれている。5月にはクーデターに抗議したミャンマー人外交官2人が解任される事態があり、大使や職員が何を考えどう行動しているかわからない状況だというのだ。

「今はこうした募金活動を中心に、大使館前でのデモも毎日しています。今後、10月24~31日までは日本のジャーナリストやアーティストの方と連携して、展示型の活動も予定しているんです」

 日本の報道が下火になっていることについては「新しいニュースが更新されていくのは仕方ないです。確かにニュースで取り上げられることは少なくなりましたが、こうして活動していると日本人の方の関心が決して薄くないことがわかります」と力強く語る。

 今後も自分の得意分野を活かし、精力的に活動していくようだ。

◆国民統一政府の承認とODAの中止を訴える

 一方の「Mynmar Global Support Foudation(以下MGSF)」の代表を務める太田バンニーさんからはより深く話を聞くことができた。

 ミャンマー生まれの日系3世である太田さんは、日本語の勉強をするため、10代で日本に渡航。その後は日本に留まったまま、有名IT企業に就職した。これまで政治的な活動歴はなく、今年2月の軍事クーデターを受けて初めて活動に参加したという。民主派が立ち上げた国民統一政府(NUG)、連邦議会代表委員会(CPPH) から正式な認可を受けているMGSFを中心に、今は分散した在日ミャンマー人グループを一つにまとめようと動いているという。

「今、国内では軍部の非人道的な行為が続いたことにより、食糧などライフラインが切れており、市民にとって非常に困難な状況です。明日食べるご飯がない家族も少なくありません。ミャンマー国民は今こそ国際社内、日本の皆様からの助けを必要としております。人道支援がとても必要な状況なのです」
 
 熱く語る太田さん。活動では、ミャンマー国内の人々の自由や平等などを求めているという。彼の日本における活動のポイントは、クリーンな組織運営にある。

「在日ミャンマー人の団体というのは40組ぐらいあるんですが、募金の使いどころが不明瞭だったり会計が曖昧だったりするんです。私はそこに問題意識を持ち、正式に一般社団法人としてグループを立ち上げて、税金の処理など正確な会計をしたいと思いました。クーデターの報道を受けたとき、『これは1,2か月で終わるものじゃない』と感じ、その思いを強めました。街頭での活動は警察にもしっかり届け出ていますし、募金は運営費には一切充てず、全額避難民の衣食住や医療を整えるために使っています。組織の名前の通り『グローバル』にメンバーがいるので、これからは国際的な繋がりも強めていきたいです」

 ミャンマー国内の状況はやはり悲惨で、太田さんも義姉の弟や親友を亡くした。いきなり寝込みを襲われ銃殺されるようなケースもあり、一切安心できる状況ではないという。しかし、「そういった切迫した事態を受けても日本政府は見ているだけで何もしてくれない、ともどかしい思いだ」と話す。

「外務省に陳情しに行き、ミャンマー担当者に会ったこともあります。日本の政府開発援助(ODA)は軍政権を通してミャンマーに渡っているため、市民を殺すための武器購入に使われているんです。ODAを中止して民主派のNUGを正式な政府として承認してもらえるよう交渉したのですが、『それは難しい』ということでした」

◆市民の犠牲者は1000人超に

 実際、4月2日に国会の院内集会でこの話題が取り上げられたが、外務省から示された回答は「確認する」「注視する」という曖昧なものばかりだった。5月に入り茂木外相(当時)が開いた記者会見では「継続中のODA停止も検討する」と言及されたが、具体的な動きは示されていない。

 こうしている間にも軍は残虐な殺戮を繰り返しており、8月の時点で市民の犠牲者は1000人を超えたと報道されている。コロナ禍も相まって混乱を極める中、医療者を狙った不当な逮捕も横行しているという。
 そうした被害を受け、9月に入ってからNUGは国軍との戦闘に参加するよう、市民に求めた。ロヒンギャを含めた少数派民族と協力する向きもあり、内戦の本格化は避けがたい状態にある。

「NUGの声明は積極的に戦闘に呼びかけているわけでなく、『自衛のために武器をとってもいい』というニュアンスだと思っています。少数民族と協力するのはいいことです。現地でも一緒に勉強してきましたし、ミャンマー人に差別性はないんです。それは今回協力してもよくわかりました。
 ロヒンギャとの話ですが、国民同士の間では分断はなかったんです。ロヒンギャと私たちには本当はまったく問題ないです。軍からプロパガンダを流されて国民同士が喧嘩し始めたんですよ。国軍が彼らを差別していて、国民同士の分断を煽っているんだと考えています」

 ロヒンギャの話題に関しては、以前取り上げた「日本で暮らすミャンマーのロヒンギャ族を直撃。祖国の急変に何を想う?」と一致する部分があった。「元来、ロヒンギャに対する差別はなかった」という意見である。支配者が、被支配者同士を分断する政策は「分割統治」と呼ばれ、古くから世界各国で行われてきた。ロヒンギャに対する差別にも、この「分割統治」にあたる面があるのではないか。

 小一時間ほど話した後、「活動しないとメンバーに怒られちゃいますから」と苦笑いして仲間たちの元へ戻る太田さん。その背中には「祖国の同胞を救いたい」という使命感が滲んでいた。

◆コロナ禍にかすむ国内報道

 国内では東京オリンピック・パラリンピックと新型コロナの感染爆発、国際ニュースではアフガニスタンのタリバン政権樹立などにかすみ、徐々に下火になるミャンマー関連の報道。今回取材した2人にしてもメディアの関心が薄まってきているのは実感しているという。

 しかし日本はミャンマーの最大の支援国であり、法務省による統計によれば在日ミャンマー人は3万6000人以上にのぼる(2020年12月)。技能実習生として迎えている若者も少なくなく、今後も日本にとってミャンマーは重要な外交相手となるのは間違いない。

 2021年は世界各国で「暴力によって政治を覆そうとする」流れが相次いだが、その最たる例として注視する必要がありそうだ。 

<取材・文/大河内光明(@komei_okouchi)>


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  • 10/12 8:50
  • 日刊SPA!

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