鈴木おさむが“男性不妊”を語る。「僕の精子に問題があった」

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 人気バラエティ番組をはじめ、舞台や映画など縦横無尽に活躍の場を広げる放送作家・鈴木おさむ。そんな彼が、自身5作目となる小説『僕の種がない』(幻冬舎)を発表した。

◆語りづらいテーマこそエンタメとして読ませる。人気作家が込めた思い

 小説のテーマは「男性不妊」。執筆のきっかけは、7年前の実体験だったと述懐する。

「’14年の春、妻(大島美幸)が妊活休業に入るとき、妻の勧めで検査を受けたら僕の精子に問題があることがわかりました。幸い、程度は悪くなかったのですが、それ以前から男性不妊の話は周囲で聞くようになっていたんです」

 不妊は長らく女性側の問題と受け止められてきた。だが、実際に調べてみるとその要因は男女半々――。にもかかわらず、男性不妊の問題がほとんど周知されていない状況に鈴木は違和感を覚えたという。

 その後、夫妻は’15年に人工受精で念願の子供を授かったが、これをきっかけに、鈴木は治療の体験を自らの言葉で語り始める。

「NHKスペシャルの『ニッポン“精子力”クライシス』という番組にも出演し、自分の精子の状態について話しました。よくできた番組でしたが、やっぱり興味がある人しか見ない。だから、男性不妊の問題をエンターテインメントとして世に広めることができないかとこの小説を書きました。深刻なテーマをエンタメ化することには賛否の声がありますが、一人でも多くの人に知ってもらいたかったんです」

◆知悉するテレビ業界の内幕とドキュメンタリーという要素

 小説の舞台はテレビ業界だ。これに、鈴木が近年面白いと感じている“ドキュメンタリー”を要素に加えるため、ドキュメンタリーディレクターの真宮勝吾をストーリーテラーに配した。

「バラエティにもコンプライアンスが厳しく求められるなか、ドキュメンタリーは唯一自由が残されている領域。ドキュメンタリー作家には、客観的に素材を提示するタイプや積極的に取材対象者に仕掛けていくタイプがいますが、勝吾は後者です」

 物語は、勝吾の若手時代から始まり、悩みながら成長していくさまを丁寧に描く。キャリアを重ねた40歳のとき、余命半年の人気芸人から、死ぬまでを“おもしろく”撮ってほしいと依頼される。

 カメラを回し始めるが、“おもしろく”するために、子供のいない芸人に子孫を残してはと提案。ところが、芸人は自らが無精子症であることを告白する。

「勝吾は、読む人によっては嫌悪を感じる人物だと思うんです。余命宣告受けた人に子づくりを提案するのは、テレビ的には“おもしろく”としても、人間的にはどこか欠如していますから。僕は時に残酷なことをする勝吾のようなディレクターをたくさん見てきました。彼らは自分の人生を二の次にして、すべてを仕事に捧げるような人種でもあった」

◆“おもしろさのために人を傷つけていいのか?”

 鈴木は前作『名刺ゲーム』(’14年)でも、仕事に没頭するあまり他者を傷つける業界人の業を描いた。

「仕事の評価が人生の評価だという価値感が強い我々世代には、仕事に打ち込むことで誰かを傷つけてしまうことに、多少なりとも心当たりがあるでしょう。勝吾もまた仕事のなかで“おもしろさのために人を傷つけていいのか?”と、煩悶します。そして、最後にその答えを見つける……。それは、僕にとっての答えでもあります」

 答えは作品を読んで知ってほしいが、そこには希望が見いだされている。そして、良質なドキュメンタリー作品のスリリングな制作過程に立ち会ったような読後感を味わえるだろう。

『僕の種がない』鈴木おさむ(幻冬舎)/1650円
ディレクターの真宮勝吾は、癌で余命半年の芸人・入鹿一太から密着ドキュメンタリーの制作を依頼される。勝吾は作品をおもしろくするために“ある提案”をし、2人の人生は大きく動いていく

【鈴木おさむ】
放送作家。’72年、千葉県生まれ。大学在学中の19歳で放送作家デビュー。バラエティを中心に数多くの人気番組の構成を担当。テレビ・ラジオ番組の構成のほかにもドラマや映画の脚本、舞台の作・演出も手がけている

取材・文/池田 潮 撮影/浅野将司


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