データ活用のプロ集団は日本の大企業の何を変えたのか? ブレインパッド・草野社長を直撃

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―[あの企業の意外なミライ]―

◆徹底したBtoBの裏方ビジネス

 いまや、ビッグデータ、AI(人工知能)、DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉が当たり前の時代になり、データの重要性は誰もが認識しています。しかし、遡ること17年前。

 2004年には、ブレインパッドの創業者である草野隆史氏は今の時代が来ることを見越していました。当時は「データなんて、ビジネスにならない」と周囲に止められたことも。誰も価値が分からない時に、自分にしかできないと思い、ブレインパッドを創業。いまや、多くの大企業がブレインパッドのデータ活用サービスを利用しています。

 トヨタ自動車、JAL、ANA、すかいらーく、高島屋、ローソン、キユーピー、コカ・コーラ、りそなグループ・・・と名だたる大企業が並びます。その根底にある思いは「日本の大企業が振る舞いを変えて、ビジネスを伸ばせば、社会的インパクトが大きい」という考えです。

 徹底したBtoBの“裏方ビジネス”をやっていると草野社長は語ります。今回は、ブレインパッドのサービスが私たち消費者にどんなメリットをもたらしているのか。日頃、明かされることのない、ブレインパッドの“裏方”の全貌をお届けしましょう。

◆当時、誰もピンと来なかったからこそ「データ活用」で創業

馬渕:草野社長は新卒でサン・マイクロシステムズ(現:オラクル)に入社、その後フリービットを経て、2004年にブレインパッドを創業されていますね。ずいぶん早くからデータ活用の重要性に気づいていたのですか?

草野:そうですね。創業前に、周りの経営者の方々やデータとかを詳しい人に「データ活用で起業する」と話しました。私のアイデアは「それ仕事にならないよ!絶対やめた方がいいよ」って言われたんです。それで、これは当分、競合が出てこないと安心して、「データ活用(データサイエンス)」で創業しました。

馬渕:iPhoneが普及する前なので、普通の感覚では、今のようなデータの時代が来るのはピンとこないでしょうね。

草野:だからこそ、やる意味があったのです。ベンチャーは色んな人の人生を巻き込むからこそ「社会に意義のある新しいサービス」でなければならないと思っています。自分がチャレンジしなければ、起こらない変化を起こすためのアクションがベンチャー起業だと思う。他にやる人がいるんだったら、別に私がやらなくてもいいやって思っちゃうタイプです。

馬渕:(笑)。

草野:私の起業テーマの要件は、「インターネットのような成長性のある分野」かつ、「あまり競争が激しくない」かつ、「まだ誰も注目してない」かつ、「社会的に意義がある仕事」でした。

馬渕:データ分析を日本に根づかせる。草野社長の狙いは当たりましたね。

◆15歳年上の共同創業者から「社長はお前がやるべきだ」

馬渕:共同創業者である、今の会長である佐藤さんとの出会いも大きかったのでしょうか。

草野:前職でデータに興味を持ち始めた時に、知人の紹介で出会ったのが佐藤さんでした。

馬渕:年齢差15歳、年上だとすると、どうしても、佐藤さんが社長になりそうなイメージですが。

草野:佐藤さんも、ずっと私のことを「軍師」と言って、参謀扱いしてたのに。ある日突然、「社長はお前がやるべきだと思うんだよね」って言いだしました。当時、佐藤さんは私のことを「未来が見える不思議なやつ」だっていう認識を持ったみたいです。

馬渕:恐らく、トップに立とうと思っていた佐藤さんが、社長の立場を譲るぐらいの逸材が草野さんだったということなんでしょうね。

◆ベビーフードの仕分けで発想の転換

馬渕:では、ブレインパッドのサービスで、具体的に世の中がどんな風に変わるのですか。

草野:弊社のサービスは、多くの大企業にご活用いただいています。例えば、キユーピー、コカ・コーラのような日用品の会社の支援から災害社会貢献につながるような活動まで幅広く関係します。キユーピーでは、ベビーフードの食品製造ラインにAIを活用しました。

馬渕:ベビーフードは、特にセンシティブな仕分けが必要なイメージです。

草野:キユーピーは『良い商品は、良い原料からしか生まれない』という理念を持たれています。中でも、厳しく検査を行っているのが、ベビーフードの原料です。無害でもやや変色した材料が混ざっていたら、母親は不安に感じますよね。母親がわが子の健康と安全、安心を思う気持ちを考えれば、厳しい検査は当然です。

馬渕:ブレインパッドでしか出来なかった点は何でしょう。

草野:発想の転換です。食品を選別するには、色彩選別装置というものがあるのですが大変高価であり簡単には手を出しにくいです。そこで、我々は、AIを良品・不良品を判定する“分類器”としてではなく、良品のみを学習しそれ以外を弾く“異常検知”として用いればよいという発想を用いました。不良品のデータを学習させる必要がないので、学習の負荷を半減させ、コストを抑えながら、精度と速度を両立させました。

◆SNSリサーチで新たな次元へ

馬渕:日本コカ・コーラではどんな取り組みをされましたか。

草野:今や常識となっている SNS を使ったユーザー動向調査です。日本コカ・コーラとの取り組みは、それを新たな次元へと引き上げるものでした。

馬渕:新たな次元というと?

草野:マーケットリサーチのあり方が変わってきています。今までは、メーカーが消費者のことを理解するために市場調査をやるわけですが、協力してくれるモニターの人にはどうしてもバイアスがかかってしまいます。

馬渕:確かに、1時間1万円などの報酬を貰って協力するアンケートは、ある意味バイアスがかかって当然ですね。

草野:だから、ものづくりをしている側は、そのアンケートを基に製品を作っていいのか、どこか不安があるのです。そういった、バイアスがないものがSNSの日常の情報です。そこに消費者の真の利用シーンがあると思いませんか。

馬渕:そうですね。例えば、コカ・コーラを飲んでいる人の膨大な量のSNS画像をブレインパッドのAIで解析することで、今まで想定していない利用シーンが分かるということですか。

草野:そうです。そういう、つぶやきのデータを消費者理解のために使うのは、世界的にはもうスタンダードになってきています。日本ではSNSの画像をマーケットに直接的に使う事例って当時は先進的だったと思いますが、スタンダードになってきていると思います。

◆災害医療シミュレーションが必須に

馬渕:災害医療分野ではどうでしょう。

草野:この取り組みは、2021年1月放映の「NHKスペシャル」にも取り上げられました。日本医科大学とともに、首都直下地震や南海トラフ地震などの巨大地震が発生した際に、医療資源の不足により発生する「未治療死」を防ぐための共同研究を行いました。

馬渕:「未治療死」とは。

草野:大震災のときに病院に運ばれたものの、治療が満足に行われないまま死亡に至ることを指す言葉として使われています。大災害時には、病院そのものが機能しなかったり、医療従事者も被災するなどして、医療物資も乏しい状況になってしまいます。1995年の阪神・淡路大震災、2011年の東日本大震災においても実際に発生したと言われています。

馬渕:これから起こり得る地震にどのように備えていけばいいのでしょうか。

草野:未治療死がどれだけ発生するかを予測するには、震災発生後、各地で時々刻々と発生する患者の数はもちろんのこと、彼らを搬送する救急車や、受け入れ先の病院・病床、処置を行う医療スタッフのキャパシティ等を考慮する必要があります。これらの複雑に絡み合う要素を加味しながら精度の高い試算を行うには、数理計算に基づいた緻密なシミュレーションが必須となります。こうした分野を得意とするのがブレインパッドです。

馬渕:シミュレーションをしておくことで、大震災発生時の被害を最小限に留めることができるのですね。

草野:NHKスペシャルでの「南海トラフ地震の発生により、高知県では未治療死者数が1万人を超える」という衝撃的な予測結果は驚きを持って受け入れられました。今回の研究は大震災発生後の未治療死のリスクを広く一般に知らしめるきっかけになったようです。

草野 隆史氏
東京都出身、1997年慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了後、日本サン・マイクロシステムズ(現日本オラクル)入社、2004年ブレインパッドを設立し代表取締役社長に就任。一般社団法人データサイエンティスト協会の代表理事も務める。

<取材・文/馬渕磨理子 撮影/林 鉱輝>

―[あの企業の意外なミライ]―

【馬渕磨理子】
経済アナリスト/認定テクニカルアナリスト、(株)フィスコ企業リサーチレポーター。日本株の個別銘柄を各メディアで執筆。また、ベンチャー企業の(株)日本クラウドキャピタルでマーケティングを行う。Twitter@marikomabuchi

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