入籍を間近に控えた29歳女が、実家へと戻り…。そこで母に言われた、予想外の言葉

結婚前の、男女の葛藤。

「本当にこの人と結婚していいの?」

大好きなはずなのに、幸せなはずなのに…。そんな想いとは裏腹に、不安は募るばかり。

カレンダーを見ると“結婚予定日”まで残りわずか。そんなタイミングで発覚した、改姓トラブルや妊娠・出産に関するアレコレ…。

2人は無事に危機を乗り越え、幸せな結婚を迎えられる?

◆これまでのあらすじ

入籍予定日を目前に控えた桃香と陽介。しかし、桃香の父と“結婚後の姓”について意見が割れたことで「婚姻後の夫婦の氏」の欄が書けずにいた。

桃香は問題を解決すべく、ある人物に電話をかけ始め…?

▶前回:「絶対に婿入りしてほしい」と言って譲らない女は、まさかの“あるモノ”を手に相手の実家へと出向き…


― どうしたら、うまく伝わるかな。

休日の昼下がり。桃香は電車に揺られながら、窓に打ち付ける雨の跡を眺めていた。

今後のことについて話し合おうと決めた桃香は、意を決して父に電話をかけたのだ。しかし直接伝えたいと思い返し、実家に帰ることを決めたのである。

ぼんやりと車窓から外を見つめながら、これから両親に伝えることを心の中で反芻していた。

実家に着くと、2人はいつもと変わらず桃香を出迎えてくれた。母がいれてくれた温かいミルクティーを飲みながら、恐る恐る口を開く。

「あのね。今後の苗字のことで、私たちもいろいろ考えたんだけど…」

そう話し始めると、テレビを見ていた父が振り返って優しく微笑みかけてきた。

「…結婚後は、雨宮姓じゃなくてもいい。2人で話し合って日向姓になると決めたなら、もうお父さんは何も言わないよ」

それだけ言うと、ソファから立ち上がった父は桃香の肩をポンポンと叩き、自室へと戻って行ったのだ。

「えっ、お父さん…?」

桃香の父が、突然意見を変えたのはなぜ?

父の背中を見つめながら、桃香はあっけにとられていた。

― 私が日向姓になることを渋ってたのに。どうして突然、意見を変えたんだろう?

不思議に思っていると、母がゆっくり口を開いた。

「実は、お母さんね。陽介くんが挨拶しに来てくれたあとに、お父さんと話し合ったのよ」

「えっ…。お母さんとお父さんが?」

「昔の話なんだけどね。お母さんの親友が、桃香と同じように3姉妹の長女で、実家の姓を継ぐよう言われてたみたいなの」

母は紅茶のおかわりを注ぎながら、懐かしそうに親友の話をしてくれた。

その親友も、桃香と同様に3姉妹の長女。実家は農家を営んでいたそうだ。

「中学生の頃だったかしら。将来の話をしたときに、その子『私はお婿さんをもらわなきゃいけないから』って言ったの。お母さん、びっくりしちゃった」

小さい頃から「お婿さんをもらうように」と両親や祖父母から言われ続け、その言いつけ通り、彼女は家を継ぐために婿を迎えた。

「彼女は3人の子どもを産んだんだけどね。そしたらまた、3人とも女の子だったのよ」

「…それで、また誰が姓を継ぐか問題になっちゃったの?」

桃香の言葉に、母は首を振ってから口を開いた。

「娘たちには家を継がせないことに決めたみたいよ。…本当は大好きな彼の苗字になりたかったって、結婚が決まったときに後悔したからなんだって」

彼女いわく「娘にはもう、自分と同じ思いをしてほしくない」そうだ。

「陽介くんだって、日向姓がいいって言ってるんだもん。無理言って雨宮姓にしても、2人が心の底から納得できてなかったら意味ないでしょ?」

母はふふっと笑って、おしゃべりを続けた。

「それに、もし産まれた子が女の子だったら、またその子に桃香と同じ思いをさせることになるのよ」

そんな話を聞いた桃香は、やっぱり母にはかなわないと思った。


「でも…。お父さん、あんなに雨宮を残したいって言ってたのに。私って、親不孝者なのかな」

「そんなことないわよ。親はね、自分たちの子どもが幸せな顔をしていることが幸せなんだから」

母は桃香の目をまっすぐに見つめながら、力強く言う。

「だから私たちは、桃香と陽介くんが決めたことを受け入れようって話し合ったのよ」

両親は、自分たちのわがままで娘の結婚を台無しにしたくないと、2人の決断を応援してくれたのだ。

「…ごめんね、ありがとう」

桃香の目には、うっすらと涙がにじんでいた。

無事、改姓問題を解決できた桃香は…?

その日の夜。陽介が帰ってきたタイミングで、桃香はすぐに両親との話を伝えた。

「今まで俺と両親との間で板挟みになってて、ツラかったよね。ありがとう」

急な展開に驚きながらも、陽介は優しく桃香を抱きしめる。

「ご両親のところに、あらためてお礼に行かないとね」

こうして桃香と陽介は、お互いの父親に証人となってもらい、書きかけの婚姻届を完成させたのだった。


桃香と陽介はお互いの気持ちを確かめ合い、記入を済ませた婚姻届を眺めた。

明日の入籍時に結婚指輪を着けていきたいという桃香のため、2人は今日受け取ってきたばかりの指輪をはめて、幸せをかみしめる。

「とうとう明日、日向姓になるのか…。今日で“雨宮桃香”は最後なのかって思うと、なんだか寂しくなるなぁ」

ポツリとつぶやくと、陽介は桃香の手を握りながら口を開いた。

「桃香が雨宮でも日向でも、桃香であることには変わりないよ。それに苗字が変わっても、お義父さんが話してくれた雨宮家の歴史を、ずっと大切にしていきたいと思ってるから」

「…陽介、ありがとう」

桃香は彼の手を強く握り返し、プラチナのリングが光る左手薬指を見つめた。

今まで、陽介との結婚に不安を抱いていた桃香だったが、いつも寄り添ってくれる彼とは対照的に、自分のことしか考えていなかった自身の姿勢を恥じた。

― これまで、陽介と結婚して大丈夫?って思っていたけど、こんなに思いやりのある人は、彼しかいない…。

「陽介。こんな私を選んでくれて、本当にありがとう。これからもよろしくね」

突然お礼を伝えられた陽介は、驚きながらも優しく、桃香の頭をポンポンとなでる。

「いきなりどうしたの?…もちろん、これからもずっとよろしく」

あれだけ不安だった日々が嘘だったかのように、陽介の胸の中であらためて幸せを感じる桃香。

明日から“日向桃香”として、陽介と新しい家族の歩みを進める。

Fin.

▶前回:「絶対に婿入りしてほしい」と言って譲らない女は、まさかの“あるモノ”を手に相手の実家へと出向き…

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