椎名誠、冒険心は少年期から!有名作家の人間性の根幹にあるのは?【人間力】インタビュー

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 小学生の頃、ジュール・ヴェルヌの『十五少年漂流記』を読んで以来、僕は「冒険」に取りつかれました。

 フィクション、ノンフィクション問わず冒険の本を読みまくり、自分でも世界中で“冒険ごっこ”にいそしみました。冒険について書かれた本を読んでいると、どうしても実際に行ってみたくなる。だからチャンスがあると、大喜びで行くわけです。結果的に、“ごっこ”からは、少しはみ出すような体験になったこともありましたね。

 以前、カナダの北極圏に近い辺りへ、イッカククジラを撮影しに行ったことがありました。

 1本の長い角が生えているクジラで、大きなもので体長が6メートルほどある。この海獣を撮ろうと何か月も粘っている人もいる中、僕は、行って3日目にイッカククジラのファミリーに出会えたんです。いやぁ、興奮しましたね。

 現地で暮らすイヌイットの人々は、これを食料にします。彼らが仕留めたイッカククジラを海岸キャンプでごちそうになりました。彼らは肉じゃなくて皮を海水で煮るんですが、これがもう、実にうまかった!

 実際にこの身を運んで、その土地で暮らす人々に会うことは、とてつもなく素晴らしいことです。

 僕は冒険もの好きであるとともに、「漂流記マニア」でもあります。大海原に船で漕ぎ出した人が――その多くは楽しい海の旅のつもりで出かけたわけですけど――何らかの事情で……たとえばクジラと衝突したりして漂流することになる。

 そのときに所持していたモノと、海で手に入れたモノで、彼らは生き抜く。その経験が書かれた漂流記を読むと、これは生きるために必要不可欠な「食う」ことの経験記でもあると感じるんです。

 このたび、我が家に膨大にある漂流記を改めて読み直して、「食う」に焦点を当ててあれこれ書いたものが、本になりました。

■「そうか、今がその老後じゃないか!」

 タイトルは『漂流者は何を食べていたか』。書名の通り、彼らはあらゆるものを食って命をつなぎます。ボートに寄ってきた魚を捕らえ、サメは手づかみで獲り、ウミガメは肉だけじゃなく、腹に入っていた卵も貴重な栄養源とする。そんな、「食う」ために全力でエネルギーを注ぐ彼らの姿は、非常にカッコいい。

 及ばずながら、僕も地球のあちこちでヘビやら何やら食って「うまい!」と言ってきました。でも、70代も後半になると、そういったこともなかなかできなくなってきました。

 コロナ禍になって、うちで本棚を眺めていたら、老後に読もうと取ってあった本がたくさんある。そして「そうか、今がその老後じゃないか!」と気づいたんです。それで、読み始めてみると、重たい本もけっこう多い。本を手に持って広げて楽しめるうちに読まないといけないな……と、ちょっと焦ってます(笑)。

 もうひとつ、体力があるうちに、と思っているのは「木彫り」です。僕は旅に出るとき、桂やホオノキといった柔らかい木材を持って行き、キャンプで彫っていました。なにしろ僕が行くのは辺境なので、夜にやることがないんです。中国の楼蘭に行ったときは「太陽の鳥」というのを作りました。まぁ、自分で勝手にそう名づけただけなんですけど(笑)。

 今、僕の家のガレージには、立派な桜の幹があります。もう10年ほど乾燥させたから、そろそろ屋上に担ぎ上げて、トーテムポールみたいなものを彫りたい。なぜ屋上かというと、地下のガレージでやると、何か秘密の悪いことみたいだから(笑)。空の下で堂々と彫ろうと思います。

 そんな、数々のやり残したことを、バーボンでも飲みながらやっていきたい。そう思う、今日この頃です。

椎名誠(しいな・まこと)
1944年6月14日生まれ。東京都出身。1989年、45歳で『犬の系譜』で第10回吉川英治文学新人賞を受賞。翌1990年には、『アド・バード』で第11回日本SF大賞を受賞する。以降、『岳物語』『わしらは怪しい探検隊』など200冊以上の書籍を出版。また、冒険・探検好きとしても知られ、これまでタクラマカン砂漠、マゼラン海峡、アリューシャン列島など、多くの辺境を旅している。

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  • 10/8 17:00
  • 日刊大衆

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