タブレット純「50歳のふりをして文通していたら」麻美ゆまのあなたに会いたい!〔前編〕

 今週の“あなたに会いたい”は、歌手&お笑い芸人として活躍されている、タブレット純さんです。純さんといえば、ムード歌謡の老舗グループ『和田弘とマヒナスターズ』の旧メンバーの一人。そして、芸人になられてからは“ムード歌謡漫談”という新たなジャンルを確立。なんだか、ミステリアスな雰囲気のある方ですが、さっそく、お話を聞いてみました。

ゆま「純さんは現在、46歳。昭和のムード歌謡が流行ったのって、もっと前の世代だと思うんですが、何がキッカケで興味を持たれたんですか?」

純「子どもの頃からAMラジオが好きで、昭和の歌謡曲もよく流れていたんです。特に、私が生まれる前の、昭和30~40年代ぐらいの歌を聴いたときに、すごくシビれたんです」

ゆま「へぇー。ご両親の影響とかではないんですね」

純「はい。ちなみに小学生のときには、学校で好きな歌手を聞かれると“和田弘とマヒナスターズ”と答えていました。ですが、担任の先生さえ知らなくて、ポカ〜ンとされた思い出があります」

ゆま「アハハ(笑)。そんな子どもの頃から、昭和歌謡にハマっていたんですね」

純「はい。私が小学生の頃は、チェッカーズさんや中森明菜さんなどが、大人気だったんですけど(笑)」

ゆま「だとすると、周りの友達とも、話が合わなかったのでは?」

純「まったく、その通りで……。そもそも私は、当時から“変わった子”で、コミュニケーションを取るのも下手。友達が全然できませんでした。さらに、運動神経も壊滅的に悪くて。コンプレックスの塊でした」

ゆま「今では軽快なイメージがあるのに……。じゃあ、学生時代は、あまりいい思い出がない?」

純「そうですねー。思春期を迎える中学生の頃になると、本当に自分は変なんじゃないかと悩むようになって……。恋愛対象も、男性だったもので」

ゆま「なるほど。今ならともかく、10代の頃だったら、いろいろと悩みもありますよね」

純「はい。周りとの疎外感をすごく感じていました。だけど、そんなときでさえ、昭和の歌謡曲を聴いていると、嫌なことを忘れられたんです。その頃は、グループサウンズをよく聞いていて、いつも元気づけられていました」

ゆま「私も学生時代、恋愛で悩むたびに、浜崎あゆみさんや宇多田ヒカルさんの曲を聴いていました。音楽って、そういう、元気にさせる力がありますよね」

純「ええ。ただ、私の場合、流行の歌ではなく、時代遅れの歌を聴いているので、恥ずかしくもあったんです。家族にも、それを知られたくなくて……。好きな昭和歌謡のレコードを屋根裏に隠して、誰もいないときにこっそり聴いていました」

ゆま「屋根裏でレコード!? それはそれで、純さんらしい昭和風情漂うステキなエピソードですね」

純「とはいえ、やっぱり好きな音楽について、分かり合える人と語り合いたいじゃないですか。そんなとき、自費出版のグループサウンズの研究本を見つけたんです。思い切って著者の方に、“私もグループサウンズが大好きです”と手紙を出したんです。そしたら、文通が始まって」

ゆま「へえー。今ならSNSを使えば、共通の趣味の人はすぐに見つかるけど、昔は文通でつながっていたんですね」

純「はい。ただ、当時の私は中学生。本当の年齢を著者の方に知られたら、また変な目で見られると思って。50歳のオジサンのふりをして、ずっと文通をしていました(笑)」

ゆま「えー! 著者の方は気づいていなかったんですかね」

■バイト先は、深夜にお客が増える古本屋

純「50代の同世代だと信じてくれていました。とても親切な方で、私の知らない昭和歌謡の隠れた名曲なんかも、テープにダビングして送ってくれたんです」

ゆま「いいですねー。そういう出会い」

純「はい。そうした出会いもあって、私も将来は、ムードコーラスの本を出したいと思ったんです。昭和歌謡について、もっと勉強したい、研究したいと思って。ただ、それ以前に、生活もしないといけません。先にも話した通り、私は自分に自信がなく、人とコミュニケーションを取るのも苦手。一人で黙々とできる仕事がいいなぁ、と。高校卒業後は、六畳一間の風呂なしアパートを借りて、古本屋さんでのアルバイトを始めました」

ゆま「あれ? でも、古本屋さんも接客業ですよね」

純「古本屋といっても、人通りの少ない通りにある、ほこりをかぶったような小さな店です。お客さんも、めったに入ってこない(笑)。当然、時給も安かったですけど、店番をしていればいいだけなので、昭和歌謡の研究をするには、もってこいの環境でした。そこでは8年間、働いていましたね」

ゆま「8年も!? その古本屋さんもお客さんが少ないのに、よく潰れなかったですよね」

純「まあ、今だから言える話ですが、そこの古本屋、深夜1時ぐらいになると、お客さんが増えるんです。実は、裏でビニ本を売っていまして」

ゆま「な、なるほど(笑)」

純「でも、結局は時代の流れもあって、潰れるんですけどね。今思うと、あの店が潰れていけなれば、私は一生、あそこで店番をしていたと思います」

ゆま「へぇー。でも、どうやって、この状況から、憧れの『和田弘とマヒナスターズ』さんにメンバー入りできたのか、すごく気になります」(次号につづく)

●たぶれっとじゅん 1974年8月31日、神奈川県生まれ。幼少期よりAMラジオを通じて古い歌謡曲に目覚め、中古レコードを愛聴。27歳のときには、芸名「田渕純」として、『和田弘とマヒナスターズ』に加入する。2011年以降は、お笑い界にも進出。“ムード歌謡漫談”という新ジャンルを確立した。

2021/10/8 12:00

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