岩田剛典はなぜソロデビューできたのか?“王子様キャラ”からの驚異のイメチェンが鍵に

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「熱も冷めたアスファルトの上 チョコレート……」

 2021年9月15日に発売された岩田剛典(32)のソロデビューシングル「korekara」はこんな歌い出しから始まる。

 2020年で活動10周年を迎えた「三代目 J Soul Brothers from EXILE TRIBE」(以下、三代目)のパフォーマーとして活躍してきた岩田がステージ上で見せてきた激しくワイルドでキレキレのダンスパフォーマンス姿からは想像できないくらいマイルドでメロウな曲調が印象的だ。

◆セルフプロデュースしたMV

 セルフプロデュースしたMVでは、特に技巧を凝らすわけでもなく、シンプルな照明のスタジオ撮影が大人の雰囲気を見事に演出している。「korekara」というタイトルからも分かるように、自分の表現性を改めて見つめ直していくような、ゆったりとした時間の流れを感じる。

 歌詞はさらに「行き先は誰も知らない」と続く。

 それは、デビッド・ラシャペル監督によるドキュメンタリー映画『RIZE』(2005)を観て、L.A.ギャングの抗争が起源のクランプ(KRUMP)ダンスの魅力に引き込まれて以来、ストリート系の表現をバックグラウンドにパフォーマーとしてのスキルを磨いてきた岩田が、自分のスタイルの飛躍として一歩を踏み出し、模索し始める宣言にも聴こえてくる。

 その先には、“korekara”という未来図として清々しい方向性が見据えられているかのようだ。

◆俳優活動が表現者としてのステップアップに

 では、そんな岩田は、三代目のボーカルの登坂広臣と今市隆二の背中を追いながらも、なぜ肩を並べるようにボーカリストとしてソロデビューを果たすことができたのだろうか?

 岩田がソロ活動を視野に次のステージを考えたとき、パフォーマーと並行して情熱を注いできた俳優活動が“表現者として新たな一歩を踏み出すためのステップアップ”になっていたのではないかと筆者は考えている。

 主演・助演問わず、出演する映画作品でさまざまなキャラクターを演じ分けるなかで、岩田の表現性は確かなビジョンと確かなカタチを持ってバージョンアップされてきた。そんな岩田の表現性を代表的な映画作品から時系列で紐解いてみたい。

◆EXILE系には珍しい“王子様キャラ”が定着

 そもそも岩田がソロで歌声を披露したのは、実は今回のデビュー曲が初めてではない。2018年10月から放映された味の素AFGのCM『「ブレンディ」スティック 朝オーレ!』篇では、爽やかな朝、窓辺でギターを弾きながらソフトな歌声を響かせる姿がすでに話題となっていた。

 そしてこの2018年が表現者としての岩田にとっては非常に重要な年となったことをここで強調しておきたい。この年、相次いだ公開された『去年の冬、きみと別れ』と『Vision』の2本の映画作品が表現者としての岩田にとってはひとつの大きなターニングポイントとなっている。

 三代目のパフォーマーとしてデビューした2010年当初の岩田は、男気のあるワイルドなEXILE系のカラーとしては稀な、爽やか王子様キャラのイメージが強かった。ライブステージやテレビ番組出演でみせる天然な雰囲気とトレードマークの爽やかスマイルに女性ファンの心はメロメロにさせられ、「岩ちゃん」という愛称も定着していた。

 映画初主演作となった『植物図鑑 運命の恋、ひろいました』(2016)は、そんな爽やかな岩ちゃんのイメージを全面に押し出した作品だった。ブレンディの新CMも基本的にはこの延長にあるが、そこから岩田が踏み切る驚異のイメージチェンジには度肝を抜かれる。

◆イメージチェンジを果たした2018年

 まず、後味の悪い作風で有名な中村文則の同名小説を原作とする『去年の冬、きみと別れ』では、恋人との壮絶で切ない過去を持つ主人公・恭介の復讐劇が描かれ、岩田は恐るべき怪演を見せた。

 周到に手の込んだ復讐を遂げた恭介が冬の寒々しい海辺で恋人からの手紙を焼き払って過去へのけじめを付ける場面。炎を見つめる岩田の表情はこれまでの岩ちゃんのイメージへの完全な決別のようにも映っていた

 この作品で俳優としての可能性を自ら押し広げた岩田にとって、続く『Vision』でカンヌ映画祭の常連監督で「東京2020」の記録映像の演出も担当した河瀬直美監督の下、フランス映画界を代表する大女優ジュリエット・ビノシュとの共演がさらに大きな後押しとなった。

 古都・奈良で撮影された本作はストーリーラインを追っただけでは一見難解な作品だが、吉野の山林が持つ神秘的な雰囲気に魅せられた謎の青年・鈴を演じる岩田は、この役を通して自らの表現性の“Vision”(未来図)を頭の中で描きながら、ビノシュの演技に対して脊髄反射的な反応で応えていたように思う。そこはさすが、ダンスパフォーマーとして培った身体能力が演技に即活かされたのだろう。

 そうして手にした未来図があったからこそ、いざソロデビューを果たそうとしたとき、“korekara”の見通しも自ずと立ってきたはずだ。岩田にとっての2018年は、このように表現者として大きな飛躍の一歩を踏み出すためのスタート地点となったのだった。

◆『空に住む』で開かれた新境地

『Vision』への出演で俳優として名実ともに実力が付いてきた岩田は、『パーフェクトワールド 君といる奇跡』(2018)で車椅子生活を送る主人公を演じ、爽やかさと演技派の側面を両立させるバランス力のある好演を見せた。

 AI技術による近未来の恐怖を描いた『AI崩壊』(2020)では、大沢たかお演じる冤罪のAI開発者を追いつめていくキャリア警察官役を熱演し、これまで以上にクールな役柄が新鮮で、俳優として幅のある表情を次々に見せつけた。

 演じるということに大きな喜びと、自分ではない誰かになり切ることで鍛えられる俳優としての想像力が、岩田の潜在的可能性をどんどん表面化させていったのだ。

 この時期、もうひとり名監督との出逢いが岩田の表現力に決定的な影響を与えた。

 俳優としてさらに高みを目指すようにして参加したのが、『EUREKA』(2000)など、世界的な評価の高い青山真治監督作『空に住む』(2020)だ。原作は、三代目の数々のヒット曲の作詞を担当した小竹正人で、主題歌は小竹作詞の「空に住む~Living in your sky~」という三代目ファンにはたまらない選曲。

 すべてが岩田のために整えられたかのような本作で演じたのは、多部未華子が演じる孤独な主人公・直美が訳ありで住むことになった超高層マンションに暮らす人気若手イケメン俳優・時戸だ。

 華やかな若手スターといったイメージのこの役は、ある程度岩田のキャリアと重なる部分もあるが、世間からのクリーンで爽やかなイメージとは裏腹に乱れた私生活を謳歌する時戸に、岩ちゃんを重ねることに何だか複雑な気持ちがしつつも、時戸の危うげな魅力を前にすると直美同様にどうにもらならない。

◆役柄を超えた生々しい表情

 遊び半分で直美に近づき、身も心もがんじがらめにしていく時戸は、身勝手すぎる最低男だ。毎回ワインボトルを持参して気ままに直美の部屋を訪ねてはそれを飲み干していくのだが、時戸のその飲み方には繊細な演出が施されている。

 時戸はワイングラスを持ち上げてメビウスの輪のようにして片手でくるくると回して、口元へ運んでいく。時戸の手のひらで自分も転がされているような気持ちでその回転を見つめていると、ときどき役柄を超えた岩田自身の生々しい表情が垣間見えることに気がつく。

 俳優としての存在感を誇示するために直美の前で一粒の涙を流して見せる場面をみても、これが時戸としての演技なのか、それとも岩田自身なのか、もはやその境目がはっきりとはしない。こんな岩ちゃん今まで見たことがない!

 青山監督は、この時戸というキャラクターが持つ魔力を最大限活かしながら、岩田に現実と夢を彷徨わせるような演技を意図的に演出することで、岩田剛典というひとりの表現者の可能性をとことん解放し、その“新境地”を引き出した。

 このように俳優として表現力を養ってきたからこそ、岩田は「korekara」のセルフプロデュースで改めて自分の表現性を見つめ、模索し、ひとりの表現者としてのイメージに説得力を持たせることができたのだろう。

◆ソロプロジェクトの“korekara”

 さて、ここで改めて「korekara」のMVをこれまで紹介した映画作品の延長線上で眺めてみると、どうだろう。

 赤の背景にシルエットが浮かび上がる横顔に、パッとライトが当たるコントラストなイントロ。そこから自在に背景色を変えながら画面のサイズ感に合わせてビートを刻む。

 エモーションが高まるサビ寸前で、スポットライトが降り注ぐ部屋に走り出し、しなやかな動きでステップを踏んでいく。うっとりするような滑らかな映像の連鎖は、やはりこれまでの出演作品で鍛え上げられた俳優としての表現性の成果物だろう

「korekara」は、まさに岩田の真骨頂だ。岩田が見つめる“korekara”、それはおそらく彼自身まだ未知の領域かもしれない。そこへ踏み込んだことで岩田が眺める景色は、いったいどこまで広がっていくのだろうか。

「Be my guest」と名付けられたソロプロジェクトを通して、その景色にどんな色が配色されながら塗り替えられていくのか、筆者もまたひとりの観客(guest)として、岩田の今後の活動を見つめていきたいと思う。

<文/加賀谷健>

【加賀谷健】
音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。 ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」や「映画board」他寄稿中。日本大学映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu

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