「子供が独立したら一緒にいる意味ない」家庭崩壊も離婚に踏み出せない“ゾンビ夫婦”たち

家庭はすでに崩壊しているにもかかわらず、さまざまな要因から離婚に踏み出せない“ゾンビ”の如き夫婦生活を送る男女が絶えない。彼らはなぜ離婚を選べないのか。夫婦が苦難の道を選ばざるを得ない日本社会の矛盾に迫る!

◆共働き社会への移行過程で苦しむ夫婦が増殖中!?

「平成以降に増え続けた離婚件数は’20年にピークを迎えて今は減少傾向です。その一方で離婚の相談件数は増加。

 特に最近多いのが、恋愛感情はすでに冷え切ったにもかかわらず、さまざまな社会的要因で惰性的に夫婦を続けざるを得ない人々です」

 そう語るのは夫婦問題カウンセラーの岡野あつこ氏。関係性としてはすでに死にながら、夫婦を続けざるを得ない男女の様は、まさに“ゾンビ夫婦”だ。

◆なぜ“ゾンビ夫婦”が生まれる?

 彼らのような夫婦が絶えない社会的背景には「共働き世代の増加」があると分析するのは育児世代の家庭問題に詳しいジャーナリスト・中野円佳氏。続けて話す。

「総務省統計局の『労働力調査特別調査』『労働力調査(詳細集計)』によれば、’20年の日本の共働き世帯は1240万世帯と専業主婦世帯の2倍を超えました。国が推し進めた共働き社会は確実に実現しつつありますが、一方で過渡期ならではの社会的矛盾が日本の一般家庭に悲劇も巻き起こしています。

 そもそも現代の子育て世代夫婦が不和になる主な要因は①共働きの増加に反する旧態依然の社会構造、②賃金の低下および不安定な雇用、③根強い性別分業意識による家事・育児の不公平が挙げられます。

 ①の最たる例はいまだに慣習的に残る長時間労働の存在でしょう。男女共に大量の仕事を行いながら、家事や育児をこなさなければならず、それが夫婦のすれ違いを生む要因になっているとともに離婚してシングルで生活することへの大きなハードルになっています。

 また、②は年功序列や終身雇用制の崩壊と言い換えてもいいかもしれません。男性も含めて正社員での雇用は減少し、家族手当を廃止する企業が増加。夫婦共働きでやっと子育てができている状態の家庭は多く、こちらも離婚すれば生活水準を保てなくなる可能性が高い。『OECD加盟国の購買力評価ベースの平均賃金(2020年)』からもわかるように、日本全体の平均賃金の低さも大きな問題です」

◆共働きなのに育児は女性負担。なんで?

 ③は女性視点のものだが、心当たりのある男性も多いだろう。

「共働きであっても、家事・育児の負担が女性に偏っている家庭は多い。『OECD加盟国の男女別生活時間』を見ると、日本人男性の『無償労働(家事・育児・介護など)』は明らかに低い。

 家事や育児に参加する男性も増えていますが女性の考える水準に達せず、かえって関係悪化の要因になっているケースも多々見られます。とはいえ、互いに貴重な家事・育児資源でもあるため、離婚が難しいというわけです」(中野氏)

 しかし、家庭崩壊しながらも同じ家に暮らすゾンビ夫婦の生活は離婚よりも過酷だ。

◆ゾンビ夫婦を生む3つの要因

①共働きの増加

共働き世帯と専業主婦世帯は’97年に完全に逆転。以降は共働き世帯が増加しているが、出産育児に伴う休暇などによる男女の賃金・キャリア格差はいまだ大きな課題となっている

②所得の低下

過去20年でG7各国の平均賃金が上昇するなか、日本とイタリアのみ下方傾向にある。他国が経済成長とともに物価を高騰させていけば、日本人の生活はさらに苦しくなっていく

③家事負担の不公平

無償労働は育児・家事・介護などを指す。日本は男性の無償労働の平均時間が週41時間とダントツの低さ。また、有償労働との合計が493時間と長時間労働の傾向も見て取れる

◆共働きで疲弊する夫婦たち。離婚を夢想する日々

「子供が独立して、夫婦二人になったら、もう一緒にいる意味はないと思いますよ」

 そう話すのは、都内でイベント業をしている岩間和幸さん(仮名・49歳)だ。結婚25年目、同い年の妻はパートで働く。10年以上前から実務的なこと以外では夫婦の会話もないというが、きっかけは妻の復職だったという。

「これまで大きな夫婦ゲンカはありませんが、夜勤や残業が多い仕事なので家族とは生活がすれ違い、妻が復職して共働きになった後も家事や育児は任せきりでした。20歳を超えた娘2人は家を出て、家にいる三女(14歳)との関係は良好ですが、妻とは喋ることがないです。

 自分が外で稼ぎ、妻は家事育児の分担だと割り切っていましたが、家庭のことには一切口を出さない態度が無関心だと思われたのかもしれないです」

◆お金の管理は妻に任せきり。年収も激減し…

 お金の管理は妻に任せきり。岩間さんは月4万円の小遣い制だ。

「お金があると地元の後輩に奢りたくなる癖があって、家のローンを組むときに財布の紐は握られました。家計を預かるのは妻なので、何かを買う際には相談しないと使えません。それでも足りない分は、友達の会社でバイトさせてもらって補ってます」

 そんななか新型コロナの影響で仕事が激減。年収680万円から480万円まで落ち込んでいる。

「コロナで減収した分は妻がパート代で補ってやりくりしているようです。これから娘の教育費もかかるし、住宅ローンもあと6年残っている。いつ収入が戻るかわからないし、共働きでやっと暮らせているのに、一人で生活していくのは不安しかない。

 妻も両親が亡くなっていて実家もないので、年収200万円じゃ暮らしていけないでしょう。そこがお互いに今は離婚を切り出さない理由ですよ」

◆離婚してお互いに生活が成り立つなら…

 とはいえ、将来的に妻から離婚を切り出された場合には応じる覚悟はあるとも話す。

「もし妻が切り出すとしたら、娘が成人して独立するタイミングですかね。ちょうど住宅ローンもなくなるし考えると思いますよ。離婚してお互いに生活が成り立つかどうかは話し合いますが、そこさえクリアしたら応じますよ」

 ギリギリの共働きで疲弊するなか、娘3人を立派に育て上げている岩間さん夫婦。子供たちの一番の望みは夫婦円満のはずだが……。

【夫婦問題カウンセラー・岡野あつこ氏】

OKANO代表取締役。自らの離婚経験を基に離婚相談室を設立。多くの夫婦問題に向き合う。著書『離婚カウンセラーになる方法』(ごきげんビジネス出版)など

【ジャーナリスト・中野円佳氏】

東京大学大学院教育学研究科博士課程。PEPジャーナリズム大賞2021で特別賞受賞。近著に『なぜ共働きも専業もしんどいのか 主婦がいないと回らない構造』(PHP新書)

取材・文/週刊SPA!編集部 撮影/岡戸正樹

※週刊SPA!10月5日発売号の特集「ゾンビ化する夫婦たち」より

―[ゾンビ化する夫婦たち]―

2021/10/7 15:53

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