婚約破棄された女のありえない行動の数々。因縁の同級生が女から受けるさらなる仕打ちとは…

「あのコは、やめた方がいい」

恋人との交際を友人から反対されたら、あなたはどうしますか。

愛する人を、変わらずに信じ続けられますか。

そして、女が隠す“真実”とは…?

これは、愛と真実に葛藤する男の物語。

◆これまでのあらすじ

誠は、親友の圭一の婚約者の真紀から、自分の恋人・咲良を「やめた方がいい」と否定されてしまう。その言葉は、真紀が過去に咲良から壮絶なイジメを受けていたからだった。咲良の人間性に疑問を持った誠は彼女に別れを告げるが…。

▶前回:婚約者のインスタに衝撃を受けた男。苦悩の果てに恋人に告げる予想外の一言とは


この結婚は、なかったことにしたい―

誠がそう告げると、咲良はそのまましばらく固まっていた。

「ごめん。勝手だと思うけど、君を信じる自信がないというか…」

「まさか、杉田真紀のことで?」

誠の言葉に食い気味で咲良が割り込む。そして勢いよく言葉をつづけた。

「誠さんは騙されているのよ。あのコ、友達いなかったから、単に被害妄想だと思うけど」

「…僕だって、そう思いたい。だけど、今は思えないんだ。そんな気持ちでは、一緒にはなれないよ」

そのまま誠は「帰るね」と言って席を立つ。すると、咲良は大声で叫んだ。

「ちょっと、お会計!どうするの」

誠は慌てて席に戻り、会計札を持って静かにその場を去った。咲良の様子は目を逸らしていたのでわからない。

― 彼女を信じられる日は、来るのだろうか。

そう自分自身に問うが、肯定的な答えは出なかった。

婚約破棄を言い渡した誠。しかし、咲良が納得するはずはなく…

「え、結婚ナシになったのか?」

数日後。実家に帰り例の件を報告すると、当然ながら家族は驚きを隠せない様子だった。

「思うところがあってね。感染症のこともあるし…」

「まあいいんじゃない?俺はそれができずに失敗したから」

現在、妻の浮気で離婚調停中の兄・仁は、元気づけるように誠の肩を叩く。両親は何か言いたいことがありそうだが、兄のこともあるからだろう。渋々だが、納得してくれた。

「いいコそうだったのにね…」

「まぁ、僕の前ではいいコではあったけど」

悲しそうな母親の顔に胸が痛くなった。でも、誠の気持ちはすでに決まっていた。

数ヶ月前は幸せの絶頂にいて、彼女と未来をともにしようとしていた自分が嘘のようだ。今となっては、生理的な拒否反応さえある。

― 自分の気持ちが180度変わるとは…。

Instagramのことや、挙式を強行しようとしたことも一因だと思う。

だが、婚約破棄に至る一番の原因は、かつて真紀を虐げた過ちをすっかり忘れている咲良の感覚がどうしても理解できなかったからだ。

自分もかつて同じような経験をしているからこそ、だ。

なんとかして咲良を遠ざけようとしたかった真紀の気持ちが、痛いほどわかった。

真紀の件と自分の件は別の話だが、今の誠は『咲良の幸せに、加担したくない』という思いは明確だった。

結婚式も早くキャンセルせねばならない。交際を継続する気はさらさらなかった。ならば、早くちゃんと話し合いをしなくてはと考えていた、その矢先…。

暴かれる本性


「奥久保さん。ロビーに婚約者と名乗る方がいらっしゃってますけど…」

「え…」

月曜の夕刻。業務終了間際、受付からの内線に誠は戦慄した。誠は慌てて仕事を片付け、エントランスロビーに向かう。

「誠さん…。よかった」

そこには、案の定、あの人がいた。

― 咲良…。

大暴れしているのではないかと思ったが、その穏やかな笑みにホッとするとともに、不気味さを感じる。

「今日、LINEに既読もつかないし、電話もつながらないから…」

確かにあれから返信にためらいがあり、返せないことも増えている。誘いもさけてばかりだ。不安にさせているのも無理はない。

「言っていなかったっけ…。仕事中はスマホ一切見られないって」

鞄の中のスマホをみると、50件の着信と334件のLINEが通知されている。

「そうだっけ…心配しちゃった。何かあったのかと思って」

優しく微笑み、誠の手をとるその女。会社ということもあり、誠はその手をほどき外に促した。

「でもこんなたくさんの連絡…。今日は仕事どうしたの?」

「じつはね、辞めたの。誠さんを支えなきゃならないし」

「結婚は考え直したいって、言ったはずだけど…」

誠のその言葉にも、彼女は一切動揺していない様子だ。

「大丈夫。誠さんきっと、マリッジブルーなのよ…」

この人が真紀とのことを覚えていないことが、わかったような気がした。

圭一の言葉が頭の中で繰り返される。

―『自己保身なのか、無意識のうちに被害者側になっていたり、都合よく解釈したり、果ては全く覚えていないって言う人がね』

誠は、避けるように歩みを進めた。すると追いかけて来た彼女は、突然思いのたけを叫び始めた。

「嫌なところがあったら、直すよ!誠さんは私にとって、やっと見つけた宝物なの。この世で一番、あなたを愛しているの!」

こんな街中で叫ぶ彼女の正気を疑った。だがなぜだろう。言葉の重みは感じず、右耳から左耳に抜けていく。

「一緒に、幸せになろうよ!!」

愛情いっぱいの台詞も、心には一切響かない。誠は道路に出てタクシーを止めて乗り込んだ。

彼女も乗ろうとしていたが、すぐ発車させる。

― 幸せ、って何だろうな…。

道路の真ん中に佇み、どんどん遠ざかっていく女の姿を見ることもなく、誠はタクシーの中でぼんやりと考えるのだった。

咲良は逆恨みの末、ある人物に攻撃の矛先を向ける…

2020年4月


誠はしばらく実家に身を寄せることにした。

幸い、感染症対策で出社が週1となり、以前のように会社に押しかけられても不在だ。連絡先も一時的に、ブロックしている。

ただ、一度は婚約をした身。酷いことをしているとは感じている。訴訟に発展したときのことを考え、誠は圭一に連絡をとった。

「…なるほど、そういうこと」

誠がプロポーズから真紀の告白、そして婚約破棄までの経過を話すと、圭一はリモート画面のその先で深刻な表情でため息をついた。

リビングで話す圭一の背後には、彼の妹である沙耶香の姿が見えた。タブレットを操る彼女の姿が気になりながらも、誠はためらいなく話を続ける。

「だから、こういう案件に強い人を紹介して欲しいんだ」

「わかった。何人かに相談してみるよ」

誠の決断を応援するがごとく、圭一は力強い返事をする。ホッとした誠だったが、彼が引き受けないことへの一抹の寂しさを感じた。企業法務が主な担当で、多忙ゆえ仕方ない。

「圭兄が担当すればいいのに。マコさんも困ってるでしょ」

圭一の背後で沙耶佳の声が聞こえる。遠慮と期待感の狭間で、誠は圭一の回答を待った。

「できないわけじゃないけど、真紀の気持ちもあるから」

誠は心の中で「だろうな」と納得する。すると、沙耶佳は自分のタブレットを操作し、圭一に渡した。

「この件、真紀さんにも火の粉が飛んでいるみたいよ」

沙耶佳が圭一に見せたのは、真紀のエージェントが運営する活動記録のブログだった。

「なんだ、これ…」


反応が気になった誠は、自分のPCでもそのページを検索する。ブログのコメント欄には、なんと何十件にもわたる真紀への誹謗中傷があった。

「整形とか、バカとか…。まるで中学生レベルよね」

ため息をつき、沙耶佳はつぶやいた。そのなかには『私の幸せを奪いやがって』『婚約者の親友に手を出す略奪女』など、書き込んだのは咲良だと簡単に推測できるような文言もあった。

この状況に、圭一は慌てて真紀に電話をする。

「もしもし、俺だけど…。え、知っている?」

彼の電話口の言葉から察するに、真紀サイドもこの件については認識しており、エージェントに任せて法的な措置をとることを検討しているようだ。

すると、圭一は突然大声を上げた。

「咲良さんと、直接会うって!?」

聞けば、直接会いたいとブログにメッセージがあったらしい。一対一で謝罪をしたい、と。真紀は受け入れることにしたという。

もちろん、圭一の同行も依頼している。一対一でと約束をしてしまった手前、近くに用心棒として隠れていて欲しい、とのことだった。

誠はその会話を聞いて、いてもたってもいられなかった。

「圭一、僕も行っていいか?」

「もちろんだよ。でも、ばれないようにな」

咲良のこともあったが、真紀の動向がある意味一番心配だった。

誠なら、いくらそれが謝罪でも、松尾には一生会いたくはない。いじめを受けた誰もがそうだろう。

そこまでする真紀の覚悟――

まさか、と彼女が何か企んでいそうな嫌な予感がするのだった。


▶前回:婚約者のインスタに衝撃を受けた男。苦悩の果てに恋人に告げる予想外の一言とは

▶Next:10月13日 水曜更新予定
次回ついに最終回。再び対面する真紀と咲良。その修羅場で誠が見たものとは…?

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