「猫を飼いたい!」の前に伝えたい、猫との暮らしで起きること

 世の中は空前のペットブーム。外出が減った私達にとって、ペットは癒しそのものです。なかでも、鳴き声も静かで散歩が要らない猫は大人気。

◆「猫が飼いたい!」衝動の前に

 でもちょっと待って、行動に移す前に『これから猫を飼う人に伝えたい11のこと』(辰巳出版)を読んでほしいのです。著者で猫歌人の仁尾智さんが、短歌と可愛らしいイラストを織り交ぜながら、猫に寄り添う生き方を説いています。

 かくいう私も猫を飼っているひとり。猫というのは確かにすこぶる可愛いです。でも、人に人格があるように猫にも猫格があります。可愛いのと同じくらい、覚悟が必要なことも。まずはそこを知ってほしいのです。

◆しつけはできない、期待しない

 犬なら「お手」「お座り」などのしつけや、フリスビーで遊ぶなど、飼い主との交流がはかれますが、猫にはまったく通用しません。猫はひたすら自由です。高級な餌を買っても食べてくれなかったり(それより人間のゴハンをつまみ食いしたがる)、玩具を与えても見向きもしないことも多いです(Amazonの箱が大好き)。

 私も一時期は「お手」「お座り」をしつけようと努力しましたが、冷ややかな目で見つめられて終わりました。そして飼い主はあきらめの境地に陥り、とことん自由を謳歌する猫を羨むのです。

 本書にある一文「猫のためにしているように見えることは、実は全部自分のためだ」。言い得て妙!としか言いようがありません。猫はしつけられない、期待もできない、でも猫の背中は人間が忘れた何かを物語っています。

◆脱走防止も飼い主の義務

 電信柱や公共の掲示板で、誰もが一度は目にする迷い猫の貼り紙。ほんの一瞬の隙をついて、猫は脱走するのです。「外に出てしまった猫は訳がわからず、その場で固まるか、やみくもに逃げ出すかのどちらかだ」と本書にあるように、猫自身には脱走という概念はないのでしょう。そもそも、家の中と外、という意識すらないのかもしれません。

 一歩外に出れば交通事故や、野良猫の縄張り争いに巻き込まれる危険があります。無事に帰ってくる保障はどこにもないのです。脱走防止も飼い主の義務、ドアや窓の開け放しはくれぐれもやめましょう。我が家の猫は、網戸に止まった蝉に体当たりしました。幸い網戸ははずれませんでしたが、爪でひっかく猫もいるようです。夏の網戸にはご用心。

◆別れは必ずやってくる

 猫を買う、あるいは迎え入れるのは簡単ですが、猫を飼い続けるには覚悟が必要です。「猫を飼うということは、その猫を看取る、ということ」と本書が記すように、別れは必ずやってきます。 子猫時代の無邪気な姿からは死など想像できないかもしれませんが、猫を飼いはじめた日から、猫の生涯はあなたの手にゆだねられていると言っても過言ではありません。

 また私事で恐縮ですが、我が家に来た時は3歳だった愛猫も今や10歳。人間年齢で還暦です。病院に通う回数も増え、現実的にお金もかかります。でも、それらをひっくるめてもやはり愛くるしい存在に変わりはありません。

 猫を飼いたいあなたへ、最後に本書のこの言葉を。

猫との暮らしで得てきたおだやかさとか、やわらかさとか、あたたかさとか、おもしろさといった幸せの数々は、全部返済の義務がある『前借り』なのだ。そして、前借した幸せを返済する唯一の方法が、『その猫を看取ること』なのだ」。

猫好きの人もそうじゃない人も、命の大切さをひしひしと感じる一冊です。

―小説家・森美樹のブックレビュー―

<文/森美樹>

【森美樹】

1970年生まれ。少女小説を7冊刊行したのち休筆。2013年、「朝凪」(改題「まばたきがスイッチ」)で第12回「R-18文学賞」読者賞受賞。同作を含む『主婦病』(新潮社)、『母親病』(新潮社)、『神様たち』(光文社)を上梓。Twitter:@morimikixxx

2021/10/4 8:45

この記事のみんなのコメント

13
  • トリトン

    10/5 12:01

    正確に言うと飼ってた猫死んだら公的施設で亡くなった猫を焼却炉放り込み、帰りに飼ってた猫に似た猫をを拉致してたのですよね。いくらでも飼えますね。

  • 猫魔天狗

    10/5 10:17

    誰かさんみたいに、猫を盗み時効迄監し亡くなったら証拠隠滅の為に公的施設で焼却処分する事が猫好きのすべき事なんだね。

  • グレイス

    10/5 9:33

    ↓つまりコラム主が言いたいのは、飼うなら看取れ、ってことです。

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