『ゴルゴ13』を読んだ東大生が考える「ゴルゴが失敗しない最大の理由」

―[貧困東大生・布施川天馬]―

 現役東大生の布施川天馬と申します。学生生活の傍ら、ライターとして受験に関する情報発信などをしています。

◆超高難易度の狙撃を決めるゴルゴ

 皆さんは『ゴルゴ13』を読んだことはありますでしょうか? 謎の超A級スナイパーであるゴルゴ13がさまざまな依頼を受け、不可能に思える超高難易度の狙撃を決める様子を描いたミリタリーマンガです。

 彼は知る人ぞ知る超凄腕のスナイパーなので舞い込む依頼も、普通のスナイパーではこなせないようなものばかり。「1日中、ずっと地下ドームに閉じこもっているターゲットを暗殺してくれ」だとか「宇宙空間のターゲットを殺せ」だとか、「それ、もう無理じゃない?」と笑うしかないようなものまであります。

 こんな「どう考えても無理!」な依頼をゴルゴはサラッとこなしてしまいます。彼が無理難題を淡々とこなしていく姿はとてもカッコよく、なんでもできる超人ではないかと思わされます。

◆超A級スナイパーとして君臨し続けられる理由

 ゴルゴのようになりたいと思い、あれもこれもといろいろなことに手を出してはどれも手際よくこなす自分を想像した経験があるという方もいるのではないでしょうか? 僕も彼の大ファンですから、その気持ちは痛いほどにわかります。

 しかし、そんな妄想をしている限りは、一生ゴルゴに近づくことはできません。むしろ、どんどんゴルゴから遠ざかっていってしまうでしょう。それは彼が「何でもできる超人」ではないからです。

 彼のカッコよさや超人的な側面の本質は、「何でもできるわけではない」というところにこそあります。そして、彼は自分自身、それを理解しているからこそ、超A級スナイパーとして君臨し続けることができているのです。

 今回はゴルゴがカッコいい理由を通して、「何でも頑張りすぎる人」になってはいけない理由をお伝えします。

◆「自分の能力を把握すること」の大切さ

 僕はゴルゴがカッコいい理由を「自分の能力をきちんと把握している」という点にあると考えています。

 彼は一見すると何でもできる完璧超人ですが、彼自身の中では「ここまではできる」「ここからはできない」という線引きがなされているように見えるのです。

 たとえば、彼は無理難題を吹っ掛けられると、依頼成功のために準備に入ります。このとき、まず自分のツテをたどって専門家に尋ねることから始めているのです。

 ゴルゴ自身の調査能力や学習能力は非常に高いものがあります。まず彼はあらゆる言語に堪能で、世界中で仕事をしているのです。また、クライアントに会う際には必ず事前に依頼人のプロフィールや事情を自分で慎重に調査してから会っています。

◆ゴルゴはあえて専門家を訪ねて調査を行う

 ゴルゴの存在を知っていて、さらに彼に助けを求める依頼人の多くは世界的企業のトップや政府の要人など、一筋縄では素性を調べられないような人物ばかりです。

 ですが、彼は依頼人が隠していたことも的確に言い当てます。ここまでの調査能力があるならば、自分で調査したほうが早いと考えてもおかしくありません。

 それにもかかわらず、彼はあえて専門家を訪ねて調査を行うことが多い。これは「自分の領分ではないことは専門家に聞いたほうが早く、労力が少なく済み、さらに正確だ」と考えているからでしょう。

◆専門知識を学んで調査を進めることのコスト

 確かに、ゴルゴが頼まれているのは暗殺のみです。しかし、そのために必要な情報を手に入れることもおのずと求められます。

 彼は非常に能力が高いので、自分で専門知識を学んで調査を進めても、きっとうまくいくのでしょう。

 しかしながら、それには多大な労力と時間がかかりますし、なにより無駄な知識を覚えてしまう可能性があります。学び始めの頃は「どの知識が必要で、どの知識が必要ないか」という区別がつきません。

 学者になりたいならともかく、暗殺者である彼には不要な知識がほとんどでしょう。

◆受験勉強の成功にも通じるゴルゴの姿勢

 人間、能力があるとついつい慢心してしまうものです。しかし、ゴルゴの一番すごいところは「『自分のできること/できないこと』と『自分のやるべきこと』をごっちゃにして考えない」という点にあるのではないでしょうか。

 僕も、大学受験を始めた頃はいくら自習をしても時間が足りませんでした。

 それは「東大は教科書に書いてある内容からしか出題しない」と言いつつ、「教科書のどこから出やすくて、どこは出にくいのか」を知らず、膨大な範囲の学習をしなくてはいけなかったからです。

 しかし、僕はある時から積極的に先生を頼るようになりました。自分の能力を信じてがむしゃらに頑張っても、得られる成果はたかが知れているということに気づいたためです。

◆目的達成のためには優先すべきこと

 当時の僕の目的は「東大に受かる」ことであり、「教養」を身に着けることではありませんでした。

 だったら、ひとりで教科書や参考書を読み込むよりも、受験のプロからアドバイスを受けて、より受験向きな知識だけ効率的に拾っていったほうがいいのではないかと考えたのです。

 もしもこの時に「自分一人で頑張るんだ!」と意地になっていたら、僕はきっと東大に受かることはなかったでしょう。

 自分の目的と自分のプライドを比べた際、プライドが勝ってしまうようでは目的達成に辿り着けるわけがありません。

◆ゴルゴが持つ「最強の武器」

 ゴルゴは、僕なんかよりも10倍も100倍も能力がある人物です。ですが、その凄さは鍛え抜かれた肉体や冴え渡る頭脳、卓越した射撃能力ではなく、どんなに人間離れした力を持っていても決して慢心しない鋼の精神力にあるのだと僕は考えています。

 ゴルゴの「自分の分をわきまえて、それぞれの領分を侵さない」という哲学は、きっと生みの親であるさいとうたかを先生から受け継がれているのでしょう。

 このような立派なキャラクターを生み出された先生は、きっと偉大な漫画家だったように思います。

◆作者の逝去後も続く物語

 先日の9月24日に作者のさいとうたかを先生は亡くなられました。

 しかし、『ゴルゴ13』自体の連載は続くといいます。さいとう先生が分業体制にしていたおかげで、これからもゴルゴの活躍を見ることができるというのは、ファンからしたらとても嬉しいことです。

 今後も長期連載の記録を伸ばしていく『ゴルゴ13』を引き続き読み進めるのが楽しみですね。

―[貧困東大生・布施川天馬]―

【布施川天馬】

1997年生まれ。世帯年収300万円台の家庭に生まれながらも、効率的な勉強法を自ら編み出し、東大合格を果たす。著書に最小限のコストで最大の成果を出すためのノウハウを体系化した著書『東大式節約勉強法』、膨大な範囲と量の受験勉強をする中で気がついた「コスパを極限まで高める時間の使い方」を解説した『東大式時間術』がある(Twitterアカウント:@Temma_Fusegawa)

2021/10/3 15:54

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