日テレ・栗原甚プロデューサーが描くバラエティ番組の未来像「制約の厳しさがアイデアに」

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 BPO(放送倫理・番組向上機構)は「痛みを伴うことを笑いの対象とするバラエティー」を審議の対象にすることを決めた。これを受けてネット上では、バラエティ番組の変容を危惧する声が上がった。さらに終わりの見えないコロナ禍や、Youtubeなど動画配信サービスの隆盛で、多難に見えるテレビ業界。その現在と未来について、数々のヒット番組に関わってきた日本テレビの演出・プロデューサー栗原甚さんに話を伺った。

◆『¥マネーの虎』からちょうど20年

――この10月で、人気番組『¥マネーの虎』の放送開始から20年になるそうですが、あの番組は、どんなコンセプトではじまったんでしょうか。

栗原:日テレの社内で、数年ぶりに新番組の企画募集があったのがきっかけです。募集枠は土曜の深夜だったので、予算も本当に少なくて……まずは予算をどう切り詰めれば面白い企画になるか、逆算して企画を考えましたね。

――それで、タレントではなく一般人が主役にしたと。

栗原:テレビを見ながらどこを削れるかを考えて「タレントさんはギャラが必要……タレントをなしにできないか」と考えました。それからスタジオセットを建てるのにも予算が必要なので、スタジオセットもいらないって……。

――今では、タレントなしスタジオセットなしの番組はありますが、その走りとも言えますね。一般人の夢やビジネスモデルにお金を出す、社長の方達にはギャラは出してたんでしょうか。

栗原:社長もノーギャラですよ。交通費も宿泊費も払っていません。とにかく予算が少ないという制約の中で「面白いものを作ること」だけを考えてました(笑)。

◆唯一の芸能人、吉田栄作の意味と今なら出そうな社長

――そこに、司会者として吉田栄作さんが芸能人として1人だけ入っていましたね。なぜ吉田栄作さんだったんでしょうか。

栗原:司会者ではなく「見届け人」という名の立会人なんです。彼は人気絶頂の時に一度、日本の芸能界から離れて、ハリウッド映画に挑戦しに行きました。そのまま芸能界にいれば人生安泰だったはずなのに、それを捨ててでもやりたいことに飛び込んだ。それが、夢をプレゼンする志願者の気持ちを理解できるサポート役としてピッタリだと思ったんです。

――今も続いていたら、前澤友作さんなどが出てきて面白そうですね。

栗原:当時は、ホリエモンも出てくる前でしたからね。でもあの後、40カ国以上で各国版が制作されてまして、今も世界184の国と地域で放送されているんですよ。

 アメリカでは『SHARK TANK』というタイトルで放送されていて、(テレビ界最高の栄誉と言われる)「エミー賞」のリアリティ番組部門で最優秀作品賞を4年連続で受賞しました。

◆大晦日恒例、あの番組の誕生秘話

――栗原さんは『踊る!さんま御殿』も関わっていましたよね。視聴者としても、あの番組って演出はどうしているんだろうと思ったことがあります。

栗原:『踊る!さんま御殿』は番組タイトル通り、さんま師匠の独演会を毎週見るような番組で、個人的にも大好きな番組です。僕が演出の1人として関わっていた時は「テーマ」を考えるのとゲストのキャスティングはしますが、さんま師匠との打ち合わせは、ほんの数分でした。

 さんま師匠がスタジオに来て、大勢のゲストに会ってしゃべりまくる。カンペもありませんし、フロアDも指示を出しません。さんま師匠がチラッと腕時計を見て、そろそろ終わろうかなという感じで収録が終わるという、誰にもマネできない華麗なる収録です。

――さんまさんと初対面のゲストも多いようですが。

栗原:さんま師匠は、苦手な人がいないんですよ。どんな人でも面白くしてしまう。

◆「笑ってはいけない」は松本人志と中居正広の打ち合わせから発展

――栗原さんの番組で、個人的に印象深いのが2002年の秋と翌年の春に放送された特番『松本人志・中居正広VS日本テレビ』です。

栗原:あの特番の半年前に、中居くんとレギュラー番組をはじめたんです。収録の前後に、よく楽屋で「松本さんと一緒に何か面白いことをやりたい」って話をしていて……。

 中居くんはその頃、松本さんとのエピソードをよく話してたんですよ。その後「松本さんと一緒に何か特番をやれないか」という話に発展して、松本さんもOKしてくださって…。

――2人にひたすら「ドッキリ」を仕掛ける番組でしたね。

栗原:番組をやろうってなった時に、『電波少年』でおなじみの土屋さんが「もう枠は用意したから」と言ってきて!当時、土屋さんは編成部長で、日テレのタイムテーブルを決める決定権を持っていたんです。

 それから毎週、松本さんと中居くん、土屋さんと僕の4人がホテルのスイートルームで企画会議をすることに……。雑談したり近況を話したりしながら、何をやったら面白いかずっと話してましたね。

 それである時、お茶をこぼしてしまって、その時に「あ!」って声が出て。松本さんが「人間って、『あ!』って言うよね」という話題に変換してくれて…僕が「『あ!』って言ってはいけない」っていう企画を思いついて提案したんです。

――それで、2人をドッキリにかけて「あ!」を言わせにかかったんですね(笑)

栗原:そうです。あの特番を2回放送して、しばらくしてからダウンタウンの番組を担当している放送作家の高須さんから連絡が来たんです。「あの企画、やってもいい?」って。

 僕は「どうぞどうぞ」と返答したら、『ガキ使』で「絶対笑ってはいけない温泉宿一泊二日の旅」(2003年、日本テレビ)が放送されて、その3年後、大晦日恒例の「笑ってはいけない」シリーズがスタートしたんです。

 そう、あの『笑ってはいけない』は、さかのぼると松本人志と中居正広の2人が打ち合わせをしたホテルの一室から誕生したのである。

◆コンプライアンスは本当に厳しくなっているのか

――バラエティ番組について、ここ何年もよく言われるのが「コンプライアンス」です。

栗原:僕自身、コンプライアンスという言葉をあまり気にして作ったことはないんですよ。ただ最近、若いディレクターが編集してきたVTRを見て「なぜ、あの面白いところをカットしたの?」ってことがありました。

 すると若いディレクターは「コンプライアンス的にカットしたほうがいいと思ったので、カットしておきました」って言うんですよ。それは僕らプロデューサーが考えることで、ディレクターは「面白いので、なんとかして放送したい!」と考えるのが普通じゃないですか。自主規制し過ぎというか……時代も変わったのかなと思いましたね。

――コンプライアンスが厳しくなったというか、面白さより優先順位の高いところにコンプライアンスを位置付けている人が多くなったんですね。

栗原:そうなんです、諦めてカットするのは簡単ですよね。クリエイターは制約や条件がある中で、面白い知恵やアイデアを出すのが仕事なんですけど。

◆ネットとの住み分け

――Youtubeが普及して、テレビ離れが進んでいるとも言われていますが……。

栗原:Youtubeとテレビは、全く別物だと思います。YoutubeはTwitterやInstagram、ブログなどの「SNS」と同じで、その延長にあると思います。でも、テレビは違います。

――Youtubeにはないテレビの魅力とは?

栗原:ニーズがあるかは別の話ですけど、1本にかける予算とクオリティですね。コンテンツを上質な映像と音響で見られるのが、テレビです。

――ネット動画は能動的な視聴で、テレビはつけていれば受動的な視聴になるということも感じます。

栗原:インターネットのアルゴリズムって、「いいね」を押したものや以前視聴した好みに近いものをどんどんオススメして来ますよね。それはとても良いんですが、その他が見えなくなることにも……。

――好きなものの“濃度”は高まるけど、それ以外を知る機会が極端に少なくなる。

栗原:嫌いなもの興味のないものを、徹底的に自分の視界から排除することにつながりますよね。学校では、嫌いな科目でも授業を受けなければなりません。会社では、ちょっとくらい性格が合わない人が居ても、仕事を一緒にやらなければならないというのが社会ですよね。

◆コロナ禍で見えてきた「リモート出演」の可能性

――他業種の例に漏れず、テレビ業界もコロナの影響はありますよね。

栗原:ありますが、良い影響もありました。これまではキャスティングしようとしても「その日は東京にいない」とNGになっていた売れっ子のタレントも、リモート出演であればブッキングが成功したり、他局の番組の出演直後にウチ(日本テレビ)の生放送にも出演できるようになったり、「場所」も「時間」も超えられるようになりました。

――リモートは「どこでもドア」のようですね。

栗原:日本は、まだまだ甘いですよ。ヨーロッパのテレビ制作の方と話す機会があったんですけど、向こうはロックダウン(都市封鎖)の間、司会者も制作スタッフも技術スタッフも自宅から出られない。

 それでもまったく諦めないで、放送するための方法がないかを試行錯誤したんです。その結果、関係者全員が「完全リモート」で、自宅から自分の担当業務を全うしてサッカーの生中継とかを放送できているんです。

 これは凄いことですよね。さっき言った通り、制約と条件が厳しいと人間は知恵を出すんですよ。実は、これが実現できたのは理由がもう一つあるんですが……。

――テクノロジーの発達ですか?

栗原:ヨーロッパは5Gエリアが広がっていたので、高速で大容量のデータ通信が可能なんです。

 だからカメラマンも音声さんもスイッチャーさんも司会者も、自宅にテレビ放送のクオリティを保てるレベルの「機材」を各自用意することによって、生中継まで可能になったんです。これって凄いことで、5Gだから実現したスキームですよね。

 ワイヤレスの無人カメラを、遠方の自宅からリモート操作で動かすには、5Gの電波がきちんと整備されていなければ、できなかったんですよ。

◆これからのバラエティ

――コンプラ・ネット動画の台頭・コロナ禍など、バラエティを取り巻く環境は厳しさを増しているようにも見えますが、未来への展望を聞かせてください。

栗原:シニアの可能性は無限大ですよ。例えば、この春まで『新・日本男児と中居』というレギュラー番組をやっていたんですけど、中居くんが「若者文化を学ぶ」という内容でした。

 ですが、今度ウチで放送される特番『中居ウエンツとアウトエイジ』(10月3日放送)は「シニア」に注目した番組です。クオリティの高いコスプレをSNSで発信していたら人気者になって、海外のイベントに招待されるようになった71歳のコスプレイヤーとか、海外の大会で上位入賞した64歳のダンサーとか。

――「高齢なのに」ではなく、正面切ってスゴイですね。

栗原:これを企画したのは、入社4年目の若いディレクターなんですよ。日本はもう3割くらい高齢者ですし、これからどんどん増えていきますから、シニア層にこんなに面白いネタが眠っているとは思いませんでした(笑)

 さまざまな困難があるようにも思えるテレビのバラエティ界。しかし、それを支えて来た栗原プロデューサーは、制約と条件の厳しさがアイデアの糧になると話す。私たちが思うより、日本バラエティの未来は明るいのかもしれない。

栗原 甚
日本テレビ 演出・プロデューサー
『さんま&SMAP』『伊東家の食卓』『ぐるナイ』『行列のできる法律相談所』『踊る!さんま御殿』など数多くの人気バラエティー番組を手がける。特に企画・総合演出・プロデュースした伝説の深夜番組『¥マネーの虎』は海外へフォーマット販売され、イギリス版『Dragons’Den』(BBC)を皮切りに世界184の国と地域で放送中。アメリカ版『SHARK TANK』(ABC)は【エミー賞】(CREATIVE ARTS EMMY AWARDS)のリアリティ番組部門で「最優秀作品賞」を2014年から4年連続受賞。最近では国民的ギャグ漫画『天才バカボン』をそっくりすぎる豪華キャストで実写ドラマ化し、大ヒットさせたことでも有名。中居正広をはじめタレントからの信頼も厚く、毎回、独創的かつ常識破りの企画で、テレビの枠に留まらずメディアを超えてCreativityを発揮している仕掛け人。著書に『すごい準備 誰でもできるけど、誰もやっていない成功のコツ!』(アスコム刊)がある

取材・文/Mr.tsubaking

【Mr.tsubaking】
Boogie the マッハモータースのドラマーとして、NHK「大!天才てれびくん」の主題歌を担当し、サエキけんぞうや野宮真貴らのバックバンドも務める。またBS朝日「世界の名画」をはじめ、放送作家としても活動し、Webサイト「世界の美術館」での美術コラムやニュースサイト「TABLO」での珍スポット連載を執筆。そのほか、旅行会社などで仏像解説も。

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