<純烈物語>いい意味でわきまえる。ファンとの信頼関係を築いた大江戸温泉物語<第116回>

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―[ノンフィクション連載「白と黒とハッピー ~純烈物語」]―

◆利用客の間を突っ切ってステージへ向かうメンバーとファンの信頼関係

 前方から座席順に呼ばれ、壁沿いに列を作って一人ずつステージに上がり待ち構えたメンバーと対面するまで、自分のところでちゃんと待つ。その間、喋りをしながら楽しんでいるわけだが、撮影を終えたファンも少し中村座に残り、純烈談義に花を咲かせる。

 これがコンサート会場だとすみやかに退場するが、地べた座りの大広間ならばよほど長居しない限り余韻に浸れるとともに、親しい者同士のコミュニケーションの場となり得る。おそらく、全国のスーパー銭湯でも同じ光景が見られたのだろう。

◆メンバーに会えるのも楽しいけれど、みんなと会うのも大江戸温泉の楽しみ

「メンバーに会えるのも楽しいけれど、みんなと会うのも大江戸温泉の楽しみでした。年齢も純烈歴も関係なく、私は横須賀で(連れの)ゆりちゃんは栃木と、みんなバラバラのところからやってきてここに集結して、そしてここでさよならをする。厚木健康センターがあった頃もみんな車で来て、そこでお喋りをしてまた帰っていくというのをやっていました」

「あと、ここは足湯があるじゃないですか。ないところは裸になるしかないけど、普段はメイクが取れちゃうんでお風呂に入らなかったんです。でも、足湯だったら仲のいい友達と浸かりながら純烈トークをできるのが楽しくて」

 酒井一圭の言う「お客さんと同じ目線のステージ」であるとともに、純子さん同士もファン歴や年齢、先輩後輩の隔てなくこの空間を共有していた。大江戸温泉ライブが始まった頃から見続けている人ほど、この畳部屋の社交場が好きだったと口にした。

 スタートはけっして多くなかった観客の数が、少しずつ増えていく過程を見てきた人たちにとっては、仲間が増えていく実感を得られた。たとえ面識がなかったり、会話を交わさなかったりしても、ここにいるだけでつながりを持てた気がした。

 大江戸温泉のスタッフさんが「ありがたいことに僕らにも声をかけてくださるファンの方々がいらっしゃるんです」と喜んでいたが、その根底には「中村座にいる者は全員が純烈仲間!」といった姿勢がある。こちらも、お話を聞かせてくださいと頼んだところ一人も断られることなく、受け入れていただけた。

 撮影を終えると、まだ順番待ちの顔見知りのところまでいってお喋りし、近づいたところで「じゃあ、またね!」とばかりに離れる。ほどよい間(ま)で会場をあとにするので「早く退場してください」と、スタッフからの指示が飛ぶこともあまりない。

◆“わきまえる”美意識を持つファン

 純烈のファンはいい意味としての“わきまえる”美意識を持っている。大好きなメンバーがいきなり目の前に現れたら、我を忘れて殺到しても不思議ではない。

 だがメンバーはラストライブのその日まで、控室にあてられた部屋から利用客が行き来するフードコートを突っ切り、大浴場入り口を通ってステージへ移動した。声をかけるファンはいても、その歩みをさえぎる者はいない。

「白川さん、頑張ってね~」
「小田井さん、今日も笑わせてー」
「翔ちゃん、いってらっしゃい!」

 マダム層に限らず、誰もが親戚や近所のおばちゃん的距離感で見送ってから、自分の座席へと急ぐのだ。アーティストとファンの信頼関係が、そこにも垣間見られた。

「最初の頃は、昼の部と夜の部の間にメンバーが浴衣姿でやってきて、後上(翔太)君がボールすくいをやったり、白川(裕二郎)さんが射的をやったりするのを私たちが後ろで見ていたんです。そうやってファンとの交流を持ちながら純烈も大江戸温泉を楽しんでいました。今となっては、いい思い出ですよね」

◆小田井から毎回”宿題”を出されてる純子さん

 純子さんを捕まえて話を聞いていると一人、また一人とお仲間が増えていく。女性でありながらカツラを被っているのでどうしたのかと聞くと、遠山の金さんのコスプレだと迷いなき目で答えた。

「小田井さんから、毎回(撮影会用に)何かのネタを持ってくるよう指令が出ているので、今日は大江戸温泉=江戸の町ということで金さんを選びました。あとはここで鬼太郎フェアとか着物フェアがあったので、そういう時はそれに合わせたコスプレを考えました。1回目からずっと来ていますけど、はじめは真ん中あたりまでしか客席スペースも埋まっていなくて、しばらくは当日でも座れたぐらいでした。

 最初のステージでは、サプライズで(純烈が所属する)G-STAR.PROのタレントさんが駆り出されて、メンバーと一緒にラウンドで回って、そのあと変身ポーズをやったんですけど、それまでの健康センターともちょっと違うのでたどたどしかったのを憶えています。そんな私も、次の9月2日で引退ですね。リングを降ります」

 20日後のラストライブも撮影会に参加したこの純子さんは、最後のリングということでタイガーマスクを被ってメンバーと並び、写真を収めると覆面を脱いでステージ上へ置き一人勝手に、それでいて誰にも迷惑をかけることなく自分の引退式をおこなった。最後までやり切り任務を遂行したその姿に、小田井涼平が喜んだのは言うまでもない。

 東京お台場 大江戸温泉物語における純烈ライブを何度となく取材するうちに、特典撮影会の雰囲気が独特のものであることへ気づいた。ステージが終わったあとも、そこがファンにとっての憩いの場となっているのだ。

 74歳の純子さん(緑)は「私、コンプリートですよ」と胸を張った。つまり、すべての昼夜ステージを見たわけだ。ちなみに7月の明治座も貸し切りの回を除き全公演制覇。

 大江戸温泉ライブの日は、一日中ここで過ごした。少しずつ観客が増えていくのは、自分の孫がたくさんできるようだったという。本当の息子さんが、メンバー最年長・小田井と同い年とのことだけに、その感覚はわかる気がする。

「一番の思い出はと今聞かれて浮かんできたのは、5人いたのがいつの間にか4人になった時の寂しい思い出の方。友井(雄亮)さんは場を盛り上げてくれる人だったので、それがちょっとダウンしたのは寂しかったです。でも、一つに絞り切れないぐらいいい思い出の方が山ほどあって、今は翔ちゃんが純烈ジャーのヒーローになるのが嬉しいです。

 74歳になっても純烈から元気をもらっています。だからこの前も長崎にいって、名古屋にも成田のディナーショーにもいって……ここがなくなっても見続けます」

 8・20ライブでは、酒井がやしきたかじんの『やっぱ好きやねん』をソロで歌った。それを初めての最前列から聴けたことが一番の思い出になったというマダムもいた。それぞれの中に刻み込まれる大江戸温泉物語の情景――そして9月2日、最後の日はやってきた。

 前日にも純烈は「演歌男子。LIVE in 東京お台場 大江戸温泉物語」で松原健之、はやぶさ、新浜レオンと共演。2日間で4公演とラストスパートをかけた。

 2度目の紅白歌合戦出場凱旋ライブの時と同じように酒井はこの日、大江戸温泉物語に泊まり9月2日を迎えた。昼の部では『スーパー戦闘 純烈ジャー』DVD用の収録もおこなわれ、残すところステージはあと1回に。夜の部開始の17時が迫るにつれ、控室へ入れ替わり立ち替わり関係者が訪れるようになる。

 江戸の町娘姿でライブの前説を担当してきた大江戸温泉物語名物社員・おしのさんもメンバーに挨拶。その様子を「日テレNEWS24」のカメラが追う。

 ずっとライブで一緒になりながら、時間をとってジックリと会話する機会がないまま来たメンバーは、ここぞとばかりにおしのさんへ質問攻め。さらにこの日は、純烈大江戸温泉ライブを起ち上げた元支配人・安田拓己さんも、現在勤務するホテルニュー塩原から駆けつけた。

 そうした中、メンバーは開演時間5分前にステージの袖へ移動。おしのさん最後の前説も終わり1曲目のイントロが流れ、幕が開くと酒井の背が心なしか小さく、腹も出ていない。

 そして、明らかに純烈曲とは違うイントロ。186cmから175cmにダウンサイジングしたリーダーに気づかず、他の3人は振付を続けていたがやがて異変に気づき始め、そこへ「止めろ止めろ! ストップ!!」と酒井が入ってきた。

「いよいよ今日で最後か」という湿りがちなムードを、ド頭からのネタ振りできれいさっぱり蹴散らした。わかったファンは爆笑、わかない観客はポカーン……それが、純烈のやり方だ。完全に巻き込まれる立場となったその男、真田ナオキは改めて紹介されると、しきりに頭をかくかのごとく恐縮していた。

撮影/渡辺秀之・鈴木健.txt

―[ノンフィクション連載「白と黒とハッピー ~純烈物語」]―

【鈴木健.txt】
(すずきけん)――’66年、東京都葛飾区亀有出身。’88年9月~’09年9月までアルバイト時代から数え21年間、ベースボール・マガジン社に在籍し『週刊プロレス』編集次長及び同誌携帯サイト『週刊プロレスmobile』編集長を務める。退社後はフリー編集ライターとしてプロレスに限らず音楽、演劇、映画などで執筆。50団体以上のプロレス中継の実況・解説をする。酒井一圭とはマッスルのテレビ中継解説を務めたことから知り合い、マッスル休止後も出演舞台のレビューを執筆。今回のマッスル再開時にもコラムを寄稿している。Twitter@yaroutxt、facebook「Kensuzukitxt」 blog「KEN筆.txt」。著書『白と黒とハッピー~純烈物語』『純烈物語 20-21』が発売

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