マヂカルラブリーが「漫才師とかコント師なんて職業は存在しない」と考えるワケ

「R-1ぐらんぷり2020」優勝、「M-1グランプリ2021」優勝、そして三冠をかけて「キングオブコント2021」へーーマヂカルラブリーは、そんな破竹の勢いの真っ只中にいる。M-1チャンピオンとなったことで(議論が紛糾したとはいえ)漫才のイメージが強くなっているが、単独ライブは実はコントが多い。2人にとってコントとは何か。そこにはどんな持論があるのだろうか? 奇しくも本取材は、「キングオブコント」決勝進出者発表の3時間前に行われた――。

ネタの形式で“職業”を決めてほしくはない

――「M-1」優勝後で初となる単独ライブ「試合はまだですか監督!!」(ルミネtheよしもと・2021年6月11日)を見ました。漫才なしで全部コントでしたね。

野田 異質ではありますよね。僕ら、コントのイメージがないみたいですけど、単独ライブは基本コントなんですよ。

村上 大体コント5~6本やって漫才1本という感じで。

野田 インディーズのときは、単独はわがままなコントをやるものだと思っていたんです。単独で漫才やってるのを見たことなかったんで、よしもと入ってびっくりしました。漫才やってるし、それどころかコーナーライブやりだしたときは尻もち着きましたもん。「えっ、単独でコーナーやるの? ライブじゃん!」って。

村上 単独って言ってるのに、ゲストいますもんね。

野田 異常ですよ。もし外(インディーズ)にいたら、コント中心でやってたかもしれません。もともとコントが好きでやってるコンビではあるんで。

村上 道具が要らなくて楽だからという理由で漫才やりだした感じなので、本当はコントなのかもしれないです。

――意外です。

野田 もともとよしもとはコントやるのを推奨してないんですよ。昔の∞ホールでは音楽使ったり、途中で明転や暗転してはいけないルールがあったりして。だからコントがやれなくて、みんな漫才やってた感じですかね。

村上 道具も自分で出さなくちゃいけなかったんですよね。椅子や机を置いてから、一回ハケる。

野田 それが東京NSCの9期生ぐらいから、外みたいなコントをやる人が増えてきましたね。その後にはんにゃとかシソンヌとか、コント文化が広がって。8期以前は漫才かピンの営業ネタかしかなかった。

村上 もしくは、ペナルティさんみたいなコント。

野田 そこにしずるやライス出てきて、不思議な感じがしました。9期生はターニングポイントだと思います。漫才もヘンなのが増えましたし。

――今、漫才とコントの比重を考えたりします?

野田 漫才とコント……。そこ分けるのも、よしもとなんだなと思っちゃうんですよね。もともとお笑いを分ける意識がなかったので、これも入ってびっくりしました。漫才派・コント派って。面白いヤツだったら、どっち作ってもよくないですか。

村上 普段のライブが別々なので、よしもと内でも漫才師とコント師で会わなくなったりしてましたからね。ヘンですよね。

村上 心の底では「“漫才師”なんて職業、ねぇから」と密かに思ってました。「おまえらがそう名乗ってそれしかやらないだけだろ? 売れたいと言ってるならコントもやれよ」と。

村上 別に漫才師検定みたいなものもないですしね。

野田 面白い人が2人いるんだから、どっちもやれるはずなんで。

――でも、M-1で優勝したことで「漫才師」と呼ばれる機会が増えたのでは?

村上 呼ばれますけど、僕ら漫才師ではないですからねえ。

野田 お笑い芸人です。それこそピンネタもやってるし、ネタの形式で職業を決めてほしくはないですかね。歌手にたとえたら異常じゃないですか? 「バラード師」って言われるようなもので。歌手だから何を歌ってもいいのに、歌のジャンルを職業にされるのは気味が悪いです。

――今回の単独は配信がありませんでしたね。

野田 単純に配信できないネタが多くて、できなかったんです。

――コントだとより危ない方向に行こうという意識があるんですか?

村上 いや、それはないですね。

野田 逆に「これ引っかかるの?」の連続ですね。面白いコントはたいがい著作権に引っかかることが多くて、ただ題材にしただけであれこれ言われるなとは思います。そこの問題を抜けてから「キングオブコント」に出られるようになった感じです。

――過去には、予選でウケたネタが運営からNGを食らったこともあったようで。

野田 準々決勝で通ったネタが「テレビでできないからネタ替えられる?」と言われたんです。

村上 それは権利関係ではなくて、コンプライアンスの問題でした。

野田 殺人ピエロよりも狙われた子どものほうがやばかったというネタで。

村上 別に殺すような描写もなかったんですけどねえ。

野田 夢ある話じゃないですか? 殺人ピエロよりも子どものほうが強いって。

村上 子どもの命助かってますし。

――そう言われるとたしかに……。先日の単独ではラッパー2人の愛憎関係を描いた「ZeebraとKj」が傑作だと思ったんですよ。コントというかドキュメントというか。

野田 あれは“考察”ですね。

村上 明かされない事実をただ想像でつないでいるだけです。

――ほかにも「最強ラッパー村上」「平成ラッパー合戦ラパパ」など、ラッパーのネタが多いのは理由があるんですか。

村上 2人ともあの頃のラップが、面白いというか好きというか、「なんだったんだろう?」と。

野田 すごいメジャーになった頃のラップが、いい意味でクソダサかったんで。お笑い芸人を目指したヤツが、あの時代をネタにしないわけがない。その感覚が今も残ってますねぇ。ニューヨークのDragon Ashネタも同じだと思いますよ。

村上 メジャーになれない本物とメジャーになってしまった偽物との歪みが面白いんです。

――めちゃくちゃ言語化されてますね! 昔のヒップホップシーンだけでなく、近年のMCバトルもネタにしてるのは?

村上 「MCバトルってなんなんだ」というのがまずありますね。流れでケンカになるならともかく、大人が集まって文句を言い合うことが主目的になっているのがよくわからない(笑)。

野田 僕はゲーム好きなんで、MCバトルを種目とするのであれば、攻略法を考えちゃうよというネタかもしれません。相手の言うことを聞かないのはダメって言われてないし、必勝法あるじゃん! という。ルールの決まっていないものができあがった瞬間に、芸人はヨダレ垂れちゃいますね。

――ラップ然り、コントで取り上げる題材はすごい好きか、すごい嫌いかのどちらかだと思ってました。

村上 好きは好きです。聞きますし。初めて買ったCDがスチャダラですし。

野田 キングギドラ歌えますし。

村上 だからリスペクトをこめていじらせてもらってます。本当にバカにはできないというか。

野田 嫌いなものは触れもしないですからね。

――野田さんが村上さんの影を演じる「シャドウ」や、2018年の「キングオブコント」決勝で披露したループものなど、二次元的な設定も多いですよね。あれはアニメやゲームの好きな世界観なんですか。

野田 好きなんですけど、くさしたくなるんですよね。今だと異世界転生ものとか、「なんだ転生って? 説明もないじゃん」って。俺らの世代だとループものがはやりすぎて。

村上 多すぎました。

野田 ネタつくるときに一番テンション上がるのは、そういう物事をくさすときなんですよ。知識量が多いから作りやすいのもありますし。リスペクトとくさしがいいバランスでブレンドされてるときはいいネタができやすい。ラップもそれですね。

――コントでは村上さんがボケたり、漫才と立ち位置が違いますよね。

村上 違うことありますね。でも、「こっちがボケようか?」とわざわざ話したりはしないんで。

野田 先に脚本があって配役を決めていくのが芝居だとしたら、コントは当て書きなんですよね。「こいつがこんなことやってたらバカらしいな」を考えて作ってます。俺より村上が最強ラッパーと名乗っているほうが面白いじゃないですか。そこはコントの強みですね。

――コントと漫才で作り方は違います?

野田 漫才は漫才を作るつもりでやりますかね。コントは型がないから何にでもなるんで。漫才以外がコントって感じです。

――漫才のほうが制約が多いですか?

野田 異常に多いです。俺らですらまだ縛りあるんだろうな~と思いますね。

村上 漫才中にハケちゃいけないとか。

野田 マイクがあれば、本当は「はい、どうもー」で出てきてからすぐコントインしてもいいはずなんですよ。でも俺らでもちゃんと挨拶しますし、「じゃ、やってみようか」からコントに入るし。教わったわけでもないから本当はやらなくてもいいのに、勝手に型を決めてやってますよね。まだ「漫才ってこういうもんだ」という時代に生きているんでしょうね。

――「はい、どうもー」も要らない?

野田 別にあってもいいし、なくてもいいし。ない漫才があってもいいのに、「なきゃいけない」になってるんで。

村上 そこも「ああ、よしもとにいるな~」と思いますね。たぶんそこの決まりの部分でむちゃくちゃやってたら、先輩に「このほうがいいんじゃない?」と直される気がするので。実際、そうやって徐々に漫才が今の形になったんじゃないですか。

野田 カッコつけてるんですよね。漫才という文化がある風に振る舞っている。漫才風のことをやって「これが漫才だ」って出して、見慣れていない人が「これが漫才なんだ」と思って成り立ってるのが漫才です。でも本当の答えは誰も知らない。

村上 もしかして、本社の奥に正解を記した書があるのかもしれない。

野田 ボロボロになった「漫才の書」が……(笑)。

村上 まだ見つかってないだけでね。

野田 始まりは、決まり事がもっとうやむやだったと思いますよ。それに漫才はわりと新しめの文化ですし。コント、喜劇はそれよりはるかに古い文化ですから。

――4月にはユニットコント番組『笑う心臓』(日テレ系)が放送されました。テレビコントはどうでしたか。

野田 僕はファンタジーの妄想が多いんで、予算が出るテレビのほうが構想が実現しやすいのはありますね。劇場の単独だと「予算が……」となるところを、テレビはサクッとつくってくれる。そこに関しては絶好調な感じがしてますね。

――「野田クリスタル先生初テレビコント作品」と銘打った「魔界バスケ」も凝ったセットでしたね。

野田 完璧な完成度でびっくりしました。以前の単独で「魔界笑点」はやったんですよ。

村上 チープになって、限界がありました。

野田 その中でも頑張ってくれましたけどね。昔、子どもが本当に神になっちゃう「神童」というコントで、最後はドライアイスで霧を出してほしいと頼んだら実現してくれたし、巨大ベンチプレスとか作ってくれましたし。

村上 『HUNTER×HUNTER』に出てくる特殊な形のナイフをお願いしたら、本当にキレイに作ってくれたこともあります。

野田 そこはよしもとだなーと思います。よしもとじゃないときの単独を考えるとゾッとする。

村上 (単独の会場が)ルミネまでいくとすごいよね。大宮の劇場ではそうはなりませんから。シンバル頼んだら、手の中に収まるような小さいサイズのやつを買ってきてくれた。

野田 サルが使うやつじゃん。

村上 聞いたら「これしかなかった」。そんなわけあるかい! って。

――今、このコントが好きだという芸人さんはいます?

野田 みんなリスペクトはしてますよ。

村上 特にこれという芸人がいるわけじゃないですけど、シソンヌも5GAPも好きだし、男性ブランコのネタは面白い以前にお話が良かったりして、いいなと思いますね。

野田 あとコントの面白さでいったら、今はかもめんたるさんじゃないですかね。強いのは。

――「面白い」と「強い」は違う?

野田 「面白い」でいうなら、若手が1本ぐらい面白いネタ持っててもおかしくないじゃないですか。それに対して「強い」は、つまらないネタもあるかもしれないけど、その芸人とは競いたくないというか。かまいたちも強いイメージありますね。

――ちなみに野田さんが師匠と仰ぐモダンタイムスさんからは、コントで影響は受けてますか? インタビューの最初に「わがままなコント」と言っていたのが、モダンタイムスさんのことなのかなと。

野田 たしかに俺が一番最初に見た、わがままなコントの代表はモダンタイムスでしたね。

――それは好き勝手やってるという意味ですか?

野田 間違いなく好き勝手にはやってますね。でも好き勝手にはやってたと思ってたんですよ、当時の僕も。そのとき見たモダンタイムスは、縛りがなかった。うーん、言葉が難しいですね。意表を突くかというと意表は突いてないんですよね。でも、意表は突かれている。思いもしなかったことはやっている。でも、思いもしなかったことはしていない……難しいですねぇ。なんにせよ、当時の野田少年はびっくりしました。

――今年の「キングオブコント」準決勝では、マヂカルラブリーさん、アルコ&ピースさん、モダンタイムスさんと地下ライブ出自の盟友3組が揃うかという期待もありました。

村上 いつもモダンタイムスだけいないんですよね。ゴー☆ジャスさん、アルピーさん、夙川アトムさん……『爆笑レッドカーペット』(フジテレビ)に仲良しチームが揃っても、リーダーだけいない。

野田 でも結局、モダンタイムスになれなかった成れの果てが売れていっているだけですからね。全員、罪悪感を感じていますよ。アルコさんもシュールと言われて「(モダンタイムスに比べて)これがシュールなのか」と思っているだろうし、「あんなの漫才じゃない」と言われた俺らもそうだし。

村上 バンドでいうとeastern youthですよ。影響受けて生まれたミュージシャンは売れているのに……。モダンタイムスという源流が濃すぎるんです!

野田 毒ですね。アルコールも薄めないと飲めないですから。

■クレジット

文 鈴木工

写真 池ノ谷侑花

編集 斎藤岬

■プロフィール

マヂカルラブリー

2007年結成。野田クリスタル(1986年生まれ、神奈川県出身)と村上(1984年生まれ、愛知県出身)のコンビ。「R-1ぐらんぷり2020」優勝(野田)、「M-1グランプリ2020」優勝。レギュラー番組に『マヂカルラブリーのオールナイトニッポン0』(ニッポン放送)がある。2021年9月現在、「キングオブコント2021」決勝を控える。

2021/10/1 19:00

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