「飲みに行こうか」上司や先輩の誘いが憂うつすぎる緊急事態宣言明け

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「緊急事態宣言が明けたら飲みに行こうか」

 社内でそんな誘いの声がちらほらと聞こえてくるなか、ついにその日がやってきた。東京では7月12日から続いた緊急事態宣言が9月30日で解除された。10月1日は金曜日。新型コロナウイルスの新規感染者数は連日200人台にまで下がり、二度のワクチン接種率は総人口の半分以上完了させている……となれば、国民が期待するのは「かつての日常」が、もうすぐそこまで来ているのではないか、ということである。

 しかし、上司や先輩からの冒頭のようなセリフに戦々恐々とする人たちも少なくないはずだ。

◆まるで梅雨明けの夏休みのような気分…

「もう1年以上、仕事終わりに外で飲むことも、外食することもしていません」

 都内在住の税理士事務所に勤務する事務員・中野佐智子さん(仮名・20代)も、コロナ禍の自粛疲れと、どこにも遊びに行くことができないというフラストレーションに押しつぶされそうな日常を送っていた。

 だが、夏が終わり、秋の気配を感じるようになってきたのと同時に「間も無くコロナ禍が明けるのではないのか」などと、まるで梅雨明けの後の夏休みを待つ子どものような気分になっていたと話す。同僚たちも「2年帰れていない実家に帰ることができる」と色めきだっていた。

◆仕事終わりに上司が「飲みに行こう」

 しかし、事務所の所長である税理士の上司にかけられた一言に、全員が凍りついた。

「仕事終わり、唐突に“今日は飲みに行こう”と言われたんです。もちろん、その場にいた全員がまだ早いのではないか、と内心思っていて。普段なら“オゴリなら行きます”とふざけてみせる若い所員ですら、下を向いたまま。でも所長は冗談ではなく、本気で飲みに行こうとしていたみたいで……」(中野さん、以下同)

 最近の上司を振り返ってみると「もう二回(ワクチンを)打ったのだから、飲みに行ってもいい」とか「マスクも消毒も必要ない」と言い出す始末で、所員は不安を感じていたのだ。

◆「どうにか断る方法はないものか」

「あるベテラン所員が、ワクチンを二回打っていようが感染することはあるし、注意するに越したことはありませんよ、とたしなめたりもしたんですが、頑として“今日行く”と譲らないんです」

 そんなわけで、普段から所長の誘いに二つ返事でOKしていた、下を向いていた彼が連れ出された。その日から連日、別の同僚が所長に呼ばれるようになり、中野さんは「どうにか断る方法はないものか」と頭を悩ませている。

 この所長のように「ワクチンを二回打った」安心感からか、酒を飲みに行こうと、マスクなしで会話しようがおかまいなし、という人たちが増え始めている。

◆二回のワクチン接種を済ませた安心感

 大阪市在住の会社員・村田康一さん(仮名・30代)も、そんな「思い込み上司」に翻弄されている一人。

「9月の初め、上司からかなりしつこく誘われて、飲みに行ってしまいました。その店は、緊急事態宣言中もガンガン酒を提供し、朝までやっていたような店。行けば、狭い店内に十数人が肩を寄せ合いひしめき合っているような状態で、全員がかなり酔っ払っているようでした」(村田さん、以下同)

 来てしまったものはしょうがないと、上司に勧められるがままに酒を飲み、久々の飲酒でかなり泥酔してしまった。

 翌日起床したのは、すでに出社時間が過ぎた昼前だったが無理もない。午前5時過ぎまで飲み明かしていたのである。上司に電話すると、なんと上司も飲み過ぎで寝坊したらしい。しかし、上司の口から飛び出たのは、信じられないような身勝手な言葉であった。

「それはお前がだらしがないからだ。俺は酒のせいではなく、単純に体調が悪いだけだから、酒を飲みに行ったとか言うと誤解を招く、だから昨日の話はするなと。結局、僕も体調が悪いということにしてその日は休みました。ただ、同僚は全員知っていますし、僕も上司と一緒の“闇飲み仲間”扱いされていて。断れるものなら断りたかったですよ!」

◆店で陽性者が発覚した途端「俺は知らない」

 自身の欲求を部下に押し付けるパターンは、村田さんの例だけではない。対外的には「二度のワクチンを打っている」とか「もうそろそろいいだろう」と大胆なのだが、いざ問題が起きると、途端に「俺は知らない」と開き直る上司もいる。

「上司にしつこく誘われ、飲みに行ったのが8月の終わりでした。社内の全員が二度のワクチンを接種済みでしたが、おおっぴらに“飲みに行こう”と誘う人はいませんでした。でも、その上司だけは別で、同僚や部下の前で私を堂々と飲みに誘うものだから、誘うにしてもこっそりにしてくれませんか、と言ったのですが」

 福岡県在住のシステムエンジニア・江田慎二さん(仮名・30代)は、上司がかつて行きつけだったというバーまで飲みに行ったのだが、飲んで帰った翌日、その店で感染者が出たことが発覚した。

◆こんな上司にはついていけない

 上司のもとには、バーの経営者や保健所からも電話がかかってきて、勤務中の江田さんの前で青ざめていた。しかし上司は、江田さんの体調を心配するわけでもなく、こっそり江田さんを人気のない社内のトイレに呼び出し、こう釘を刺したという。

「飲みに行ったのは、僕が飲みたそうにしていたからで、心配して連れて行ったのだと言われました。まるで責任は自分にない、という態度です。結局、上司も僕も、バーの店長伝いに飲んでいたことがバレました」(江田さん、以下同)

 社員の健康管理を行う部署のスタッフから呼び出され、飲みに行ったことは事実か、誰に誘われたのか追求されたが、上司の視線を恐れ「1人で飲みに行った」と苦し紛れに答えた。その後、職場に戻ると、江田さんの姿を見た上司が次のように告げたという。

「俺が知っていれば止めたのに、と部署全員に聞こえるような大声で言い放ちました。テレワーク中の社員に対しても、部内チャットで“江田が勝手に飲みにいった、みんなも注意して”と書き込んでいました。もちろん、私が上司に誘われていた様子を見ている同僚や部下もダンマリです。僕だけ尻尾を切られました。上司の甘い誘いに乗った僕も悪いですが、こんな上司にはついていけないと強く思いましたよ」

◆ブレイクスルー感染する可能性も

 1年半以上、多くの人たちが飲酒や遊びを我慢してきたのだ。コロナ明けを「我先に楽しみたい」という気持ちはわかる。しかし、依然として新規感染者は出ているので油断はならない。二度のワクチンを打っていようがブレイクスルー感染することもあるうえ、他人にうつしてしまう可能性だってあるのだ。

 そこかしこで「緊急事態宣言が明けたら飲みに行こうか」という誘いの声が聞こえてくるが、注意を怠ってはならず、マスクなしで大騒ぎすることには大きなリスクが伴う。

 それが実際にトラブルに発展してしまえば、白い目で見られることは必至だ。「コロナ明け」は、誰にでも等しくやってくる。上司の誘いだろうが先輩の誘いだろうが関係はない。もうわずかの辛抱ができないばかりに、“割を食うのは自分自身”という現実を、ぜひ今一度、心に留めておいてほしい。

<取材・文/山口準>

【山口準】
新聞、週刊誌、実話誌、テレビなどで経験を積んだ記者。社会問題やニュースの裏側などをネットメディアに寄稿する。

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